特殊行動追加はあるあるだよね

　視聴者との遭遇率高いなあ……。

　若干遠い目をしながらも戦況の把握はしておく。

　視聴者という名の信者な気がするが、細かいことは気にしない。あれ、これすでに宗教になってない？　とか知らない。むしろ広がれ。モフモフを崇め称えてくれ。

　さて、先に決めた通り今回は自分一人で倒してしまうわけにはいかない。臨時パーティに入っている身としてはよろしくないし、サポートに回ることを徹底する。

　だって私と聖獣が出たら速攻で倒しちゃいそうだもの。ちゃんとパーティ全体に経験値が入るとはいえ、ラストアタックやらMVPみたいなシステムもあることだし、経験値の大半をまるっと私が持っていっちゃいそうなんだもの。

　――キイイイィィン。

　コウモリの翼を震わせて音波が発生する。声がかき消され、一瞬の無音。コウモリ単体だったときとは違い、常にこちらの連携妨害をしてくるわけではないらしい。常に無音だと結構神経やられるからそのほうが嬉しいんだけどね！　

　ゲームにありがちな音楽はなくても、他人の息遣い、聖獣達の足音、攻撃する際のエフェクトの音。それらがあるとないとでは気持ち的にかなり違うのだ。無音は人を不安にさせるからね。

「っだー！　寝る！　ごめん！」

「ええ……」

　男性が攻撃した瞬間に青色の鱗粉がぶわっと飛び出して彼を包み込む。眠りの状態異常を引き起こす鱗粉らしく、そのまま仰向けに倒れていく。

「オボロ」

「ワウン！」

　オボロの口にビンを咥(くわ)えさせてゴーサイン。

　元気よく返事をした彼女はすぐに最高速度で走って倒れそうだった男性の背中側に滑り込み、背負ったまま【風花の調べ】を放ちつつバックステップ。シークレット・キメラ・ピニャータという名前の合成獣からささっと距離を取る。

　それから充分に距離を取ったあとに背中から男性をおろし、その顔面にビン詰めの状態異常回復薬を叩きつけ、ぶっかけた。

　おう……意外と容赦ないねオボロちゃん。

「ご褒美です！？」

　あ、起きた。よかったよかった。なんか聞こえた気がしたけど私はなにも聞いていない。なにも聞かなかった。いいね？　

「行動制限はこちらに任せてください。皆さんは攻撃を！」

「ありがとうございます！」

　アカツキが上空から羽根を飛ばして足止めをする。

　そしてシズクは、額にある宝石を光らせてスキルを発動。頭上を雲が覆ってポツリ、ポツリと雨が降り出す。ほのかに光る雨は味方に当たる際にぼうっと青緑色に色づいて微量の体力回復をもたらしている。これなら、滅多なことではピニャータにやられてしまうこともないだろう。

　しかし接近戦は鱗粉がぶわぶわと不規則に飛び出してくるのでよろしくない。

　スキル『暁の灯火』で逐一焼くようにしてはいるけれど、いつ鱗粉が撒き散らされるかのタイミングは分からないからだ。さすがに目の前で鱗粉を吸い込まれてしまっては対処しようがない。大人しく回復アイテムを消費するだけだ。

　うーん、人と一緒に戦うのってやっぱり向かないなあ……感謝されたり、褒められるのは嬉しいんだけど、もっと思いっきり……伸び伸びとなにも気にせず舞っていたい。うん、なんというか自己中心的だね。

　表ではそんな胸の内、晒すことはないけれど。案外私はわがままだし、自分のことしか考えていない。モフモフを布教するために動画も撮っているが、実際には信仰を集めてこの子達の進化を促すためだけにやっていることだし。

　ま、だからこそ利害の一致した関係だと遠慮なく仲良くなれるのだが。ルナテミスさんとか、ストッキンさんとか。

「一本め！」

「あと二本、頑張りましょう！」

　キメラの一本めのゲージが削り切られる。

　特殊行動は……ない、かな？　ただし、一瞬の無敵時間があったらしく、ノックバックが発生して攻撃していた女性二人が弾き飛ばされた。

「ギャルルルラァ！」

　鱗粉が広範囲に撒き散らされる。これはさっき見た……が、次の瞬間、コウモリの翼が震えて音波が襲い、鱗粉のあった範囲が小規模の爆発を引き起こした。ものすごい音がして、ビリビリと違和感を訴える耳を手で覆う。

　――なにも、聞こえない。

　状態異常を確認すると、『機能破壊』の四文字がアバターの耳の横に赤文字で表示されている。なんぞこれ。あ、つまり鼓膜が破れた？　部位破壊かなにかです？　それ、プレイヤー側にかかるものなの……なんて理不尽な。

「――」

　うん、聞こえない。体力はヒールレインで回復していっているけど、耳は回復してくれていない。もしかしたら状態異常回復薬じゃないと回復できないか？　

　試すように、回復薬のビンを割る。

「ギュルァ！」

「っよし」

　状態異常の扱いになるらしい。

　ゲージを削るたびにこれがあるのか、もしくは一本めを削ったことで特殊行動が追加されたのか。どっちだろう？　

　常備している回復薬を湯水のように使用して仲間を回復させながら、あと三十分以内には終わらせたいなあと小さくぼやくのであった。