変化を嫌うもの
◆「変化を嫌うもの」◆
※シナリオクリア後に視聴が解禁されるストーリーです
「成長と思い出には苦痛が伴う……か」
己の執務室で静かにホオズキが呟く。
書類から顔を上げ、労わるように眉間を揉みながら目を閉じた彼が思い起こすのは昼間の出来事だ。
一人の共存者による独断と偏見に満ちているとしか思えない言葉。
しかしどこか小骨が喉に刺さっているかのように彼女の言葉が彼の胸の中に満ちる。
彼は決して善人ではない。
救済を求めて忘却を押し付ける教祖としての彼の在り方は、そうすれば儲けることができるからそれらしく振る舞っているだけにすぎない。傷ついていたレーティアやヒューを拾って育て、癒したことも自身の利益に繋がるだろうという先行投資だった。
都合よく言いくるめて他人の財を食い潰して生きていく。他人の不幸を踏み台にして美味い空気を吸う。そういう人間だった。
しかし、彼は教祖として過ごしているうちに本当に自分が彼らを救ってやらなければならないと思うようになっていた。
共存者の彼女なら恐らく「やらない善よりやる偽善」と呼ぶべき類のことをしていた彼は、自身のために行なっていたことがやがて嘘ではなく真実になっていったのを感じ取っている。
詐欺師同然の心しか持たなかった彼は搾取されている信者の顔を次々と思い浮かべる。一昔前までは覚える気すらなく、後日に礼を言われても誰かも分かっていなかった彼は、今では全員の顔と名前を把握するほどの人格者になっていた。
「これも、ある意味成長というやつなのかね」
いつもは表向き丁寧に話している彼も一人きりのときと、共犯者であるレーティア、ヒューといるときばかりは口調を崩す。
「あいつらに相談でもするか」
彼は詐欺師であり続けるには情がありすぎた。
共存者の彼女の言葉も一理あると考えた彼は、川辺で寝そべっていたレーティアの鱗に手を這わせながらゆっくりと話し始めた。教祖でありながら、御神体であるレーティアへと贖罪の言葉を紡ぐように。告解室で罪を告白する市民のように。
「痛いことも苦しいことも忘れちまえば幸せになれる。でも、お前たちと会ってこうして暮らしてるのも、最初の試行錯誤とか、共存者でもないのにお前らと暮らして糾弾されたりだとか、そういうのを乗り越えた先にあるからこその幸せなんだよな。きっかけを忘れたら、意味がない……確かに、そうなんじゃないかと思ってさ」
彼は己の共存者の証をこする。
強くこすればそれだけで形の崩れるそれは、毎朝せっせと長い時間をかけて描きあげた化粧の成果だ。彼に共存者の証はない。共存者ならば獣の心を癒して魔獣から元に戻すことができる。しかし、彼にはそんな力はない。それでも彼女たちと共にいる。証などなくとも獣を利用しきってみせる。
教祖たる詐欺師はそう考えて彼女らと共にいるのだ。
「レーティア?」
ずるずるとレーティアが胴体を緩慢に動かし、尻尾の先のほうをホオズキの股の下に入れて持ち上げる。
「すまん、心配かけてるか? でもさ、やっぱり悩んじまうんだよ。このままでいいのかなって。この街の連中はみんな俺を信じてる。それに、なんていうか……罪悪感があってさ」
レーティアの胴体に抱きつき、撫でる彼をレーティアはゆっくりと持ち上げた。
「あの、レーティア?」
そうして、緩く彼の胴体を巻いていく。逃げられぬように。
「レーティア、どうした?」
そして、尻尾の先を器用に使ったレーティアによって彼は口を開かされる。
レーティアの無機質な瞳が彼を射抜き、その口がガバリと開いた。管状になった舌先がちょろちょろと這い出て、顔を固定されたホオズキの口の中に侵入する。排出されるのは水だ。ただの水。水を飲ますだけ。ただし、胃の腑へと直接届けるように注がれる苦痛をともなう行為だった。
「がっ、ごっ……ぐっ」
自身の善行に見せかけた悪行を顧みて、罪悪感を持ち、そして変わろうとする彼の姿がどう見えたかは彼女にしか分からない。
しかし、忘却の水を親鳥が雛に与えるように飲ませたことだけは事実である。
悩みとはすなわち、現状の自身に対する苦痛だ。
「ごっ、ぁ……」
溺れるような苦しみで静かに意識を手放したホオズキをじっと見つめ、レーティアはようやく舌先を縮ませて彼を解放する。
彼が変わっていくことを恐れる神獣はそうしてもう何度目かの『寝かしつけ』なのかを考えながら……彼を抱いてオルゴールのような美しい声で歌う。
そうして、ヒューが監視から帰ってくるまで自身の胴体の上で眠る愛しい人間とともに星空の下、ともに過ごしていた。
魔獣となったものは分かりやすいから人間に救ってもらえる。
でも人間は魔獣にはならないから、分かりにくい。そんな人間の苦しみをただただ救ってあげたいだけ。
共存者には決して受け入れられることのないだろう思想を抱えたレーティアとヒューは、そうして『忘却』の力を利用して人々を救い続ける。
その対象に例外はない。
そう、彼女たちの親代わりだったホオズキでさえも。
◆のちのちのケイカの反応◆
・えっっっっ
・特殊性癖すぎません?
・これ放送して良かったんですか?
・待って違うんですBANはしないで!
・これを特殊性癖だって瞬時に判断するってことはこれをえっ……だと思ってるってことですよね……って、違います! 違いますから! 丸呑みじゃないからセーフ!
・通常の性癖と特殊性癖の境目の話し始めたら戦争だってそれ言われてますから。この話しやめようか。
・毎朝せっせと共存者の証お化粧で描いてるの可愛いですよね。
・巨大蛇に愛されすぎて夜も眠れないとか羨ましい……あ、待ってくださいシズク。やらなくていいですから。
・正直裏の顔のほうが推せる
・というか私の行動がしっかり反映されてるフレーバーシナリオが自動生成されてます? やば……私のためだけに作られてる神獣郷の二次創作じゃないですか……最高かよ……公式ちゃんそういうところある。
以下、ただのオタクの長文語りを略。
◆
「ちるるる、ちる、きゅい!」
「よしよし、元気になって良かったです」
翌朝の早朝。
私達は教祖のホオズキさんすら起きていないであろう時間に活動を開始した。
扉を開けるときは細心の注意をはらって、そして歩くときもそーっと歩く。大丈夫大丈夫いけるいける。だって私ったら器用だもの。
オボロも歩くときは爪がカチャカチャいわないように頑張って歩いている。ジンやアカツキはオボロに乗ってるからオボロが気をつければ問題ない。ちょっとしょんぼりしてる気がするけど、さすがに子犬サイズに変化してもらっても全員肩とか首とかに乗せてたら私もきついので……。
グレイスには念のため髪の下に隠れてもらっている。青いから赤い髪の中にいるとちょっと目立つかもしれないが、パッと見たくらいなら青いでっかい羽のイヤリングかなんかをつけているように見えるだろう。多分。
コメントで多数ガバガバじゃねーか! なんてツッコミが見える気がしたがきっと気のせい。そもそも見つからなければいいだけの話だからね!
……まあ、念のためホオズキさんの部屋はなるべく迂回していくし、川のほうには近づかないようにするけど。
「きゅきゅい、ちるるる」
素早く街から離れてからグレイスが話しだす。街中までは朝早くから仕事してる人とか、そもそも薔薇の聖獣とかがいるからね。
なんとなくニュアンスでお礼を言ってるのかな〜くらいのことは分かったので頭をくりくり撫でてあげる。いやあ、前に会ったとき以来だけど、本当に綺麗になったなあ……元はカラスだったからアカツキもなんとなくお兄さんムーブしている気がする。守ってやらねば! みたいな感じで胸張ってて可愛いのだ。
「ここら辺でいいですかね? ジンはレキに交代してグレイスのお話聞きましょうか。直で場所聞いて翻訳してもらったほうがいいですし……あとでオボロもザクロちゃんかプラちゃんと交代かな〜遠そうならザクロちゃんで」
「わふっ」
「にゃうん」
微妙に不満そうな顔をしたものの、ジンは大人しく私の前に座った。ごめんて。別にレキがいなくてもみんなが話を聞いて案内してくれることは可能だろうけど、直で聞いたほうが私が把握しやすくて分かりやすいし、配信向けの説明もできる。別にレイドバトルでもないときでも呼び出しは使えるからね。じゃんじゃん交代していこう!
「それじゃあ、ジン。チェンジしようか。行きます! 神前舞踊――『龍笛のしらべ』!」
腰にさしている龍笛を手にして口に触れる。
いつもの曲を奏で、召喚陣が出たところで奏で終わった龍笛をくるくるまわして格好つけて腰に戻した。
「召喚、レキお爺ちゃん!」
召喚陣の上に乗ったジンが前足を上げてバイバーイ! と笑顔で光の中に消えていき、代わりに光の中からレキが現れる。
「さっそく呼んだかのう?」
これぞ、屋敷に戻らずにパーティ交代するときの醍醐味だよねぇ。
歩み寄ってきたレキに事情を話し、私達は飛び立ったグレイスを追いながら、案内しながら話すグレイスの言葉を彼に翻訳してもらうことにしたのだった。
ユウマもアビスちゃんで似たようなことを日常的にやってそうだからド健全ですね。なんてド健全なんでしょうか!
ユウマも液状の狼に上半身飲み込まれたりしてるからホオズキさんもセーーーフ!
ユウマと比べるほうがどうかしてる? そうかな? そうかも……。




