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『憂鬱の消えた街』

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グレイスの休息


 私の手の中で青い小鳥がゆっくりと目を開く。


「グレイス」


 そして私を見上げるその瞳が揺れると、涙が次から次へと彼女の頬を滑り落ちていった。心の底から安堵したような、極度の緊張状態から解放されたような、しかし自分一羽だけしか助かっていないことに絶望しているような、そわな複雑な視線。もっと単純な意味しかないかもしれないが、私にはそう感じられた。


「今はゆっくり休んでください。見つかったら大変ですから明日、ハインツさんを助けに行きましょうね」

「きゅい……」


 私が呼びかけると、彼女はゆっくりとまばたきをして頷いた。私達が教祖に知られないように動いていることを察したのだろう。焦る気持ちもあるだろうが、彼女は賢い。


「ご飯を用意しました。よければ食べてくださいね」


 小皿の上に鳥類用のご飯をいくらか出して差し出す。近くに水皿も用意して、皿を見つめる彼女に「少しでも食べたほうがいいですよ」と食事を促す。ハインツさんがいまだ誘拐されたままの状態でご飯も喉を通りづらいだろうが、少しでも食べておかないといざというときに力は出ない。


 手のひらに食べやすいだろう麦とトウモロコシ、カボチャのタネを乗せて口元に持っていってあげれば、ようやくつついて口にしてくれた。ちょんちょんとつついてご飯を食べる仕草は鳥そのものだ。少し手のひらがくすぐったい気がするけど、鳥を飼っている人がリアルに味わえるだろう感触を密かに楽しむ。アカツキは手から与えなくても普通に食べてくれるうえに、穀類以外の肉や魚も普通にガツガツ食べるのでここまで鳥っぽい仕草はあんまり見せてくれない。カラスだからリアルだとしても雑食だろうけど、どうしても彼との生活はファンタジー感が強いからね。

 もしかしたら、リアルでカラスと仲良くなってもアカツキみたいに振る舞うのかもしれないけど、私がそれを知ることは恐らく一生ない。今だけ小鳥の仕草をめいっぱい観察してみることにした。


 ちょん、ちょんとつついて食べる彼女はときおり顔をきょろきょろと動かして不安そうにする。それを見かねてか、アカツキもテーブルの近くに乗り、彼女と一緒に私の手の中からご飯を食べ始めた。

 アカツキが少し食べ、彼女に促す。彼女が遠慮しようと身を引けば、アカツキはレーズンをつまんでグレイスに差し出し、クチバシ同士でご飯の譲り渡しが発生する。尊い。


 私の手のひらの中のご飯がなくなると、今度はスムーズに皿のご飯に移って二羽は仲良く食事している。


「わ、わふ」


 アカツキ達が手からご飯を食べているのを見て羨ましくなっちゃったのだろうか。オボロが下げている私の手を鼻で持ち上げて小さく鳴き声をあげる。


「そうですね、オボロも頑張りましたからね。ありがとうございます」


 指で輪を作って鼻先に持っていくと、すぐにオボロの鼻が輪っかの中に入ってくる。嬉しそうだ、可愛いね。ご褒美にジャーキーをボックスの中から取り出して手のひらに置く。多分つまんで渡すよりこっちのほうがいいだろう。案の定、オボロは嬉しそうに手のひらに鼻を突っ込んではぐはぐとジャーキーを口に咥えた。


「しゃあ」

「シズクもジンもだね〜」


 こうなったら全員分やるのがパートナーというものだろう! 

 シズクにはゆで卵を手のひらに乗せて与え、ジンはにぼしだ。手のひらに乗せたゆで卵を口をぐわっと開けて丸呑みしていくシズクのちょっと怖可愛い蛇仕草をじっくりと観察し、にぼしをちょっとずつかじっていくジンの様子も見守る。

 そうやってみんなでご飯にすればグレイスは随分と安心したようだった。

 飲み水として用意した浅い水皿で軽く水浴びまではじめて私は心の底から感動した。アカツキがタライとかでやるのも見たことがあるが、こうしてツバメのグレイスが水浴びしているのはSNSとかで見たことのあるインコの水浴びによく似ていたからだ。やはり画面の向こうでしか見たことのないような出来事は、意識的にはほぼ二次元の出来事と変わらない。それが目の前で起こるというのは感動ものなのである。


「さ、今日はもう寝ましょうね。それから、明日早くに起きてこっそり街から出て探索です。深夜でもいいかもしれませんが……もしかしたらヒューやレーティアが行方不明者のいるところで見張りをしていたりするかもしれませんし、朝の礼拝的なやつでレーティアが確実にここにいるときに探索したほうが良いでしょう」


 朝はホオズキさんの近くにヒューがいるのも見ているから、その時間帯ならば二匹ともに見つからずに済むだろう。最優先するべきなのは行方不明者の人命救助であって、真相の解明ではないのだから。ホオズキさんに時間について糾弾するのはハインツさんを助けてからのほうが都合が良い。


「おやすみなさい、みんな」


 ログアウトをしている間、シナリオは進まない。

 ゲーム内時間で次に目覚める時間を早朝5時に設定した私は、なるべく扉を開けたときに見えづらい位置にグレイスのベッドを作って横になる。


「それではみなさま、また明日〜」


 配信も切ってログアウトを選択する。

 さあ、明日が勝負所だ。


 ……ピクニック前に興奮して眠れなくなる法則が働き、リアルで全然眠れなかったのはご愛嬌ってやつである。

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