青い羽ペン
やりすぎた感があるけどやってしまった以上開き直っていこう!!
というわけで、ホオズキさんに案内されて彼の部屋にご招待されました。教祖の部屋というわりにはさっぱりしている。邸宅自体はかなり豪華だし、飾りや置き物とかも高そうなものがいっぱいあるけれど、やっぱり自室はあんまり高いものがあると落ち着かないのだろうか。自室にキラキラしたものがあると緊張しちゃうよね。
『部屋に呼ぶとか絶許』
『ギルティ』
『危機感なさすぎか?』
『ユウマ君に通報したほうがいいんじゃないですかね』
『保護者呼ぼう保護者』
『ユウマ〜、相方の危機感くらい教育しとけよ』
チラッとコメントを眺めると、なんか部屋に招待されたこと自体をちょくちょく咎められている。え、そんなに? リアルじゃあるまいし、NPCに誘われて部屋に行くくらいするでしょ〜。皆心配しすぎですって。視聴者の皆さんだってゲームなんだから普通に行く癖に〜。
『保護者の呼び出しです。ユウマ、ユウマくんはいらっしゃいませんか?』
『保護者枠がストッキン会長じゃないの草』
『あの人は保護者と言うには変態すぎる』
『そ れ な』
『また名言が生まれてしまった』
保護者と言うには変態すぎる。迷言でしょ。
反応こそないけど草葉の陰でストッキンさんも泣いてますよ。あの人大体私の配信見てるもんね。今見てなくてもあとでアーカイブにお気持ち表明してくるかもしれない。それはそれで面白いからいいんだけど。
『なんでこういうときに皆僕を呼ぶの? ケイカのこれは手遅れだから気にするほうが無駄』
『相方のありがいお言葉』
『手 遅 れ』
『匙を放り投げられてる』
『ほな無理かあ〜』
あ、いるんだ。
見守られてるな〜。学校で相談したからだろうか、心配性だなあ。
キンキラキンというわけじゃないけれど、本棚とかはそれなりにあって落ち着いた雰囲気の部屋だ。ベッドがないからどちらかというと応接間とかの可能性もある。それでも華美じゃないのはやっぱり彼の趣味かもしれない。テーブルの上に栞の挟まった本とかが置いてあってなんとなくの生活感がある。
「ここは執務室になっていますので、その辺りのものにはあまりお手を触れないようにお願いしますね。例の羽ペンはこちらです」
なるほど執務室! なら納得。
彼がテーブルの引き出しから青い羽根のペンを取り出して見せてもらう。こっちは触れさせて貰えるようだったのでじっくりと観察させてもらうことにした。丁寧に触れて見聞する。といっても、メインはオボロに見てもらうことなんだけども。
「すごい、綺麗ですよ〜! ね? シズク! あ、オボロも見る?」
綺麗だから一緒に眺めようね〜という建前で軽く腰を落とし、オボロにも見せる。最初に首元のシズクに見せてからこれをやることで、自然な状態でオボロに匂いを確認してもらうことに成功した。不自然に匂いを嗅がせるよりはこうしてひと息挟むことが大事である。NPCだって頭がいいので……なんなら私より普通に頭がいいものなので……AIあるあるだ。
たまにだけど、パートナー達にダンジョンギミックを全部解いてもらっている人とかもいるからね。もちろん力こそパワー! みたいな感じで脳筋解決してる人も見かける。知らないイベントやシナリオで仲間を増やしている動画とかも見かけるので私は最近動画巡りにも忙しくて嬉しい悲鳴をあげている。人それぞれの神獣郷ライフ。大変面白くて好きです。いくらでも見られる。
「見せていただいてありがとうございました」
「いいえ、これくらいならいくらでも眺めてください。貴女はお客様ですからね」
ホオズキさんに羽ペンを返してお礼を伝えると、彼は穏やかに微笑んでそれをしまった。私も目的は達成したのでそのまま帰ることにする。
「それでは失礼します。ご迷惑をおかけしました」
「なるべく喧嘩はしないようにしてくださいね。幸せに、穏やかに暮らすことがここの住民達の望みですから」
「はい、気をつけます」
まあ、これからもやるかもしれないけどね。この街の思想を真っ向から否定しているようなものだし……シナリオ上、ホオズキさんとは敵対する可能性が高い。けど、必要以上に序盤からヘイトを稼ぐ理由もない。このまま穏やかに別れて探索に戻ることにしよう。
……と思ったけれど、今日はヒューに目をつけられてしまっているから匂いを追うのは控えたほうがいいかもしれない。
いったん邸宅の借りている部屋に戻り、オボロに尋ねる。
「匂いはずっと覚えていられそうですか?」
「くーん」
なるほど、できるとは思うけど確実ではないみたいな感じかな。
となると、目をつけられている私は残ってオボロに単独行動してもらうのがいいのかなあ。アカツキと合流して探索に移ってもらおう。
街の外に出てアカツキを呼んで……いや、そもそも監視されてる可能性があるわけだし、迂闊に私が外に出てオボロを送り出す行為をすると怪しまれるかもしれない。一応ここは慎重に……演技派な舞姫である私が完璧に怪しまれないようにオボロを送り出そう!
そこ! 演技派にカッコ笑いとかつけるんじゃありません!!
「あらオボロ、お散歩に行きたいんですか? 私はもう少し街で散策するので、お外で一匹で散歩ができるならいいですよ」
部屋の外に出てわざとらしくそう言うと、オボロはハッとしたようにこちらを見て尻尾を振った。私の服の裾を甘えるようにカプッと優しく噛んでお散歩行きたい! お散歩! みたいな仕草をしている。可愛い。そして演技がお上手。さすが私のパートナーだ。
「シズクがいるからとりあえずは大丈夫ですよ。アカツキもお散歩してますし。アカツキに会ったら一緒に散策してみてください。薬草とかもあるみたいですし、アイテム収集してくれたら嬉しいです」
「わおん!」
元気に返事をしたオボロが邸宅を出るのと同時に走り出す。そのまま手を振って見送った。
よし、あとは私が不自然じゃない程度に街中で行動していればいい。怪しまれているのは私だ。だからヒューは見えなくてもこちらを監視してくるだろう。彼らが管理したがっているのは人間だからだ。
水を飲まないにしてもレーティアにアイテムとしてのお水をいくらかもらうことも考慮に入れる。冷静に考えれば錬金術とかでなにか使い道があるかもしれないし、珍しいアイテムだろうから高価格で買い取ってもらえるのでは? 私は錬金術のスキルを取っていないのでできないが、誰かに検証してもらうか……。
「というわけで、錬金術を持っている人にアイテムをお譲りします。錬金や合成で新たなアイテムが作れる可能性がありますので協力してくださるかたを募集しますよ」
客人なら誰でもレーティアから水をもらえる可能性はあるが、もしかしたらシナリオ進行していないと無理という可能性もある。この配信を見ている人が訪れて試してみてくれるとこちらもいろいろ分かるのでありがたい。視聴者向けに募集をして、そのあとは街を散策しながらお店の品揃えとかを見て回る雑談配信に移行する。
「じゃ、ウィンドウショッピングを楽しみましょうか。どんなものがあるんでしょうね〜、ワクワクします! 薔薇が綺麗な街ですから、園芸系のアイテムとか装飾品とかいっぱいありそうですね! 楽しみ〜」
私が品揃え確認の旅に出ることを配信で告げると、途端にコメント欄の流れが早くなる。びっくりして眺めてみると、どうやら私が品揃えをみるだけで済まないだろうということの予測をおもしろおかしくしている人達と、私の散財癖を重めに見て心配する人達に別れているようだ。失礼な。
「さすがにそこまでのんびりしていませんよ。他のみんなも頑張ってるわけですし……あ、ご褒美のおやつを買うくらいはするかもしれませんね。でもそれだけです。皆さんわりと失礼じゃないですか? 私ってそんなに信用ないですかね」
いっせいに「ない」が流れていったのにはさすがにちょっと心に刺さったが、そう言われるたび、ムキになるものである。
「そんな修学旅行で無意味にお土産を買いまくる学生でもないんですから……」
なお、園芸用品でアルカンシエルに売ってる上位互換を発見してしまい……お察しの案件になったことは自明の理なのだった。
やけになって薔薇の製品を使ったパートナー用の着せ替えアイテムとかも買った。あとで帰ってきたアカツキに髪の毛を鳥の巣みたいにされたのも仕方のないことだった。
神獣郷オンラインはそれぞれのプレイヤーの物語があると思うので、そういう妄想を具現化してくれたりすると作者は大喜びします。(露骨な催促)
デジモンやポケモンみたいに自分が主人公のときの妄想をするのってすっごい楽しいですからね。そういう世界観を目指しています。
二次創作は世界観を壊さなければ歓迎しております。
フォロワーの描いてくれてるパートナーさんとの出会いの話とかちまちま書いたりしていますのでね!!(ライブラリかpixivにそのうち投稿するかもしれません)




