オタクの勢いってここまで怖かったっけ?
さっきこの人達はなんて言っていたっけ?
一時間くらいずっと戦っている? 三十分過ぎた辺りからカウントダウンが始まった? ええと、それで……。
「あの、一時間戦っているって、ピニャータ達三種類全部とですか?」
「ええ、そうです。情けない……本当に情けない……!」
「あたし、ルビー……蛇がいるから居場所は分かるんですけど、ケイカさんみたいに上手く連携できなくて……不意打ちばっかりされちゃって……! ごめんなさい!」
「いやいや、俺も状態異常にかかってばかりですまない」
ということは、三種類揃った状態で交戦を一時間以上、が今のところ推測できるキメラ化の条件かな? キメラ化したキャメレオン達から目を離さないようにしながら首を傾げる。
いやいやいや、ますますリソースがもったいない。この条件からしてもう、超レアピニャータじゃないですか。倒したときのドロップが少なかったらもはや詐欺だ。少なかったら絶対に許さない。一時間の『走り』と同等以上の成果を速やかに寄越してください。どんだけ効率悪いんだよ。初イベントだから多少は「ああ、大変なんですね」と言えるけれども!
「私回復できます」
「あたしは攻撃で」
「じゃ、俺は霊術使いますね」
女性二人に、男性が一人。先程までいたという、聖獣を酷使している人は男かな? つまり男女半々。今は私も入って偏っているけれど。
それぞれ連れている聖獣は四匹フルだが、どれも進化は二段階目っぽい見た目。レベルも私と同じくらいだろうか? 器用値極振りの私でも一応キャメレオン達は倒せていたので、この人達ならもう少し楽なはずだったけれど……キメラは取り込んだ厄の大きさによって強さが変わる。
取り込む厄イコール聖獣が溜め込んだ負の感情だ。聖獣の嫌がることをしていると強く丈夫に育つが魔獣堕ちする可能性が高まる。そういう負の感情メーターがステータスとして備わっている。
ピニャータのお祭りはもともと聖獣と健やかに過ごしていくために、厄を人形に移して壊すものだ。だからこの厄という名の負の感情メーターに溜まった物をゼロまで戻す。その代わり、引き受けた分だけ少し強化される。そういう仕様である。
私もユウマも聖獣の扱いには慎重だし可愛がりまくっているので、元からそんなメーターが上がるわけもなくゼロのままだ。たまに嫉妬やらなんやらで微妙に上がるけど、そのあとわちゃわちゃしているだけでゼロになる。
うちの子にはずっと幸せでいてもらいたいからね! そんなメーター上げさせるわけないじゃない! ふんす!
が、しかし私がそうであっても他の人はそうでもない。
あのキメラはめちゃくちゃ厄を取り込んでいるようで、その分強い。体力ゲージが三本くらい見えるのですがそれは……しかもガンガン攻撃されてるのに減るのは微々たるもの。
「シズク、アクアブラスト」
「シャーッ!」
指示をすると、首に巻きついているシズクが口の中で少しだけ力を溜めて水を超高速で発射。キメラに激突すると先ほどよりもわずかに減りが多かった。レベル差? それとも別の要因? いや、レベル差かなあ……。
「キャイン!」
そして観察しながら立ち回っていると、接近戦をしていたパーティメンバーの聖獣が悲鳴をあげる。体を硬直させて動けなくなっているようだ。麻痺かな?
「そー、れ!」
パリンッ。
状態異常回復用のアイテムを投げて、弧を描いて飛んでいくその様子を追う。そして動けない聖獣の真上で硝子の割れる音とともに液体がぴしゃんと広がった。
聖獣の麻痺は回復薬のおかげで解除。また動き出す。
どうやらあのキャメレオン達のキメラは、蝶の翅を動かすとなんらかの状態異常を引き起こす鱗粉を散布し、コウモリの翼を動かすと音が消える。連携封じだ。そして当然のように透明になって見えなくもなる。めんどくさ!
「暁の灯火」
「シュ」
ひとまず掩護、ということで緋色の扇子をパタパタとあおいで太陽属性の火の粉を散布。そしてチラリとシズクを見れば、心得たとばかりにスキル『神風』が吹いてキメラの方に灯火を運ぶ。味方には当たらないが、これで鱗粉は燃やして相殺することができるようになった。
やはり援護に徹してみるか。私なら恐らく、シズクが一目連状態になればすぐに体力を削り切って終わる。でもこれはパーティ戦なので。
「私は援護に徹します。あなた達で倒してください」
「はい!」
「頑張ります!」
「見守っていてください!」
元気のいい返事にちょっときゅんときた。後輩ができたらこんな感じなのだろうか……? あ、そうだ言い忘れてた。
「あ、あと動画撮ってもいいですか?」
「いいいやっふうううううう!」
「ケイカさんと夢の共演!? やったー! わっしょい!」
「一緒に動画に映れる……!」
普通に引いた。ごめん。
でもここまで喜んでくれるなら私も嬉しいです。
オタクの勢いってここまで怖かったっけ? と疑問に思いつつ、私はいそいそと動画撮影を始めるのだった。
神絵師さんに依頼中のケイカちゃんキャラクターデザインがあまりにも仰げば尊し。羽織りの色とか本文中でも少し調整するかもです。




