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【漫画単行本4巻発売中】神獣郷オンライン!〜『器用値極振り』で聖獣と共に『不殺』で優しい魅せプレイを『配信』します!〜  作者: 時雨オオカミ
『憂鬱の消えた街』

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善意はときに悪意より勝る罪となる


 街中に出る前に先ほど言及のあった女性と少しだけ会話した。

 風邪を拗らせた子供を心配しているが、それ以外は心配事なんてなにひとつない様子の幸せそうな微笑みを表情に宿している人だ。少し挨拶をしただけで、自慢げにこの街へ引っ越してくることを話してくれたくらいだ。共存者の証もないので、この街に住む薔薇聖獣達と仲良くなれれば嬉しいとも。


 共存者でなくとも聖獣や神獣と仲良くはなれるが、対等な友達になれるかどうかは人間関係同様かそれ以上の苦労が待っているだろう。神様が認めたケモノと歩むことのできる資格が目に見えてないということは、思っているよりも大きなハンデだ。対等というよりも、ケモノからは庇護される側として見られる場合もあるらしい……というのは掲示板情報である。

 言葉の通じない者と友人になるというのは、それほどに本来は難しいことだからだ。プレイヤーはその限りではないが、NPCだとそんな感じらしい。そんなところだけ無駄にリアルなのは……いつものことか。


 現実でも言葉の通じない動物と本当の意味で対等な友達になれるかというと違う。逆に言えば、その言葉の通じない者達と対等な真の友達になれるのがこの世界観のいいところだろう。喧嘩もするし、呆れられたりもするけれど。


「こんにちは、綺麗な生垣ですね」

「ふるぅる」


 ときおり街中で生垣の手入れをしている薔薇の聖獣に声をかける。

 すると、ニコニコとした顔がこちらを振り向いた。褒められて嬉しかったのだろう。その隣で剪定中だったらしい子も寄ってきて、パチリと切り取った薔薇の花を差し出してくる。


「ありがとうございます」


 受け取った薔薇の花びらはみずみずしく張りがあってとても綺麗な赤色だ。街全体で赤色が多いが、色は決して一色ではない。どっかの不思議な国のように色を統一しているわけではなく、同じ色の薔薇を育てる色違いの同種族達でそれぞれ縄張りがあるように見える。縄張りがあると言ってもお互い干渉しあって花の手入れの手伝いをしあったりもしているみたいだ。同じ場所に別の色の薔薇聖獣がいても喧嘩は特に起こらないみたいだし。


 次々と自分の色の薔薇を一輪ずつ持って走ってくる子達を見て苦笑いをする。どうやらみんな自分の育てている薔薇が一番だと思って自慢しにやってきているらしい。ついでにプレゼントとして私に次々と手渡してくる。全色集まっちゃうな〜モテるな私〜などと笑っていたら、薔薇の花の色が二周目に入ったところで肩上のアカツキが鋭く鳴いて牽制した。


「ガアッ!」

「ふるる……ふるーる」

「ぅるるる〜」


 薔薇の花束を胸の前で抱えることになった私の前で聖獣達は微笑ましげな顔をしてツタを伸ばす。大半はそのまま解散していったが、そのツタを伸ばして来たのは最初に挨拶をした子だった。頭に伸びてくるツタをギョッとしつつもまあいいかと受け入れようとしたら……。


「シャアッ!」

「ガァッ!! ガァッ!!」


 シズクが叱るように鳴いて、アカツキが炎を吐いて威嚇をした。


「……アカツキ、シズク、どうしたんですか?」


 毒の花をプレゼントされたわけでもないのに拒絶を示した二匹に困惑をする。私の頭を撫でようとしていたらしい薔薇聖獣はキョトンとしてから残念そうな顔をして引き下がった。足元でオボロとジンもなにやら彼女に話しかけている。こういうとき、やっぱりレキがいないとなににみんなが反応したのかが分からなくて不便だなと首を傾げた。ちゃんと、一度屋敷に帰って話を聞くべきかもしれない。

 今夜はお薬作りのクエストを終えたあと一度屋敷に帰って、また宿にしている邸宅に戻ってこよう。そう決めて本日の予定を配信コメントに固定する。

 少なくとも私のパートナーがこうして警戒をするということは、あまりこの子達に絡みすぎても良くないのかもしれない。貰った薔薇をアイテムとしてしまうと、私はそのまま街中を通って外へ向かうことにした。

 ついでにアイテム説明でも見ておくかな。


 ――――――


 アイテム名

「幸福の街の薔薇・赤」

 説明

 特別な水のみを与えて生育された赤い薔薇の花。

 贈答品に相応しい美しさを備えており、所持しているものは幸福になれるという噂がある。

 嫌なことがあったときにこの花の香りを嗅ぐとわずかな効果だが、嫌な記憶が薄れていきやすい。花粉には少しだけ気分が高揚する作用がある。

 種子化して栽培することも可能だが、特別な水で生育しない場合は普通の贈答用の薔薇として育つ。


 ――――――


「いや、きな臭すぎるでしょう!!」


 特別な水とやらは多分レーティアの川の水だろうけど、気分が高揚する効果ってそれ量が多いとやばいやつでは……なんて嫌な想像を膨らませてしまう。

 あ、戦意向上と攻撃力アップするアイテムの材料にもなる……便利かも……って一瞬思ったが、このゲームだとそもそもそんなアイテムは使わないので私には意味なし。今度売るかドライフラワーにでもして飾るかするか……。


 七色揃った薔薇の花を見なかったことにして後ろ姿だけ見える薔薇聖獣を眺めた。やはり種族名は調べても表示されない。敵対しているときなら多くの魔獣がそうであるように種族名が表示されるが、こうして街中にいる子達は特別なアイテムか、仲良くなるか、スカウトするなりしないと種族名が不明なままなのだろうか? いや、天楽の里ではそんなことなかったし、秘匿されているだけの可能性もある。


 そうして悩んでいると、コメント欄で答えが流れてきた。これに関してはこの街に来るのはイベントシナリオ抜きでみんな一応もうできるらしいので、私の

 配信を見てやって来た人の成果だろう。若干ネタバレ臭い気もするが、ミュートするほどではないかな……スカウトすれば分かる情報だし。


 流れてきた種族名は『秘密を守る花妖精(アンダー・ザ・ローズ)』である。

 うわあ……なんともまあ、怪しさがどんどん増していく街である。

 スカウトした際の性格気質は面倒見が良くて世話焼き。だけど舐められやすい……みたいな感じらしい。世話焼きなのは分かるけど舐められやすい……? その辺はアカツキ達の言葉をレキに翻訳してもらえたら分かるだろうか。


 とにかく、街中で収集できる聖獣の情報はこれくらいだろうと考えて外を目指す。あの薔薇の花を売っている花屋さんから店員を叱りつける店長らしき人の怒鳴り声が聞こえてきたのが印象的だった。たまに朝っぱらから酒を飲んだらしい人同士での喧嘩も見かける。華やかな街にしてはこういうのもあるんだなというのが不思議だ。みんなニコニコしているだけだとばかり思っていたから、余計に衝撃的だったのかもしれない。幸福な街とは……。


 こうして街の外に出て素材集めをするわけだが……それに関してはアカツキやオボロの協力もあってすぐに終わった。難易度の低めなおつかいクエストなんてそんなもんである。まだ夕方になる直前くらいの時間なので、屋敷に一度帰ろう。アカツキ達の言葉を聞くとネタバレになるんじゃないかという懸念もあったが、それはそれで私の取れるシナリオ攻略の正規の手段のひとつなのだから、遠慮する必要はないはずだ。手段があるのに手をこまねいてわざわざ遠回りをしながら答えに辿り着いても効率が悪いだけだろう。


 なにより、アカツキ達の訴えたいことを無視するのは共存者として、彼らのパートナーてして、友達として絶対にしたくないことだから。


「ただいまー!」


 ワープを用いて屋敷に帰り、屋敷の奥からずるるるるー! と胴体を滑らせてやってきて、勢い余って玄関から落っこちたプラちゃんをよいしょと抱き起こす。ずっしりしてて可愛いね。尾を絡めてきたのでゆっくりと撫でてやりながら屋敷に上がり、庭を目指す。庭から駆け込んできたのか、プラちゃんの通った廊下が泥だらけになっていたのでシズクがお説教をするようにプラちゃんの頭の上に乗っている。しょんぼりして反省してますという顔をしているプラちゃんも、ぷりぷり怒っているシズクも大変可愛い。


 庭に行くと縁側にシャークくんが上半身を乗っけて日光浴をしていた。ヒレを振って挨拶をしてくれていたので私も手を振る。のしのし歩いてくるザクロの手の中にはレキが乗っかっている。遅くなるより運んでもらうことを選んだらしい。


「はやい……帰り、だった、な……」


 レキの言葉に頷いて縁側に座る。ザクロが背中のカゴの中からみずみずしいトマトを差し出してきたのでみんなでそれをおやつにするためにかじりつく。食性に関係なく食事を楽しむため、みんな野菜も丸ごといけるのはいいことだ。好みはもちろんあるけれど。


「それがですね、ちょっとアカツキ達の言葉が知りたくって」


 レキに対して経緯を少し語る。

 そして私が膝に降りてきたアカツキを見つめると、彼もシズクも、なんとのんきなジンやよほどのことが起こらない限り怒ったりもしないオボロまで口々になにかを訴え出した。そんなにみんななにか言いたいことがあったのだろうか? というか、アンダーザローズの行為はそんなに良くなかったのだろうか? 


 疑問に思っていると、四匹の話を聞いたレキが話をまとめて私に向かってゆっくりと口を開く。既に話を聞いているザクロ達も不満げなのでよほどだろう。


「その街の……聖獣どもは……人を、見下しておるな……」

「……見下してるとは?」

「庇護者気取り……なの、だろう……たまに、ワシらを……ペットのように、扱う人間が……いるであろう? そのような……視点で……人間を見ている、ようだのう」


 その話はかなり衝撃的だった。

 聖獣が人間をペット感覚で見ている? 


「好いているのは、間違いない。しかし……その感情は、ペットに向けるそれと、変わらぬ」


 つまり、アンダーザローズ達の行為はペットになんでもかんでもオモチャやら飾り付けを与えようとする人の行為とそう変わらないものだったということだろうか。


「お主のことも、同じように接しようとした……故に、アカツキ殿は怒りを感じた、のだろうな。いや、ワシら……皆が、か」


 アンダーザローズが私の頭を撫でようとしたのをアカツキが怒ったのは、そういうことだったらしい。そう思うと、途端に幸福の街の光景が歪なものに感じられるようになった。


「……どうやら、今回は行方不明者を探す……そう単純な問題解決だけで終わらない予感がしますね」


 いや、いつもそうか。

 ゲームなんてそんなものだ。小さな事件からどんどん大きなものに発展していくものが大半である。今回もそうだっただけなのだろう。


「ハインツさんとグレース、大丈夫でしょうか」


 あの一人と一匹は確かな友情で繋がった。それを見届けたのは私だ。だからこそ、心配だった。無茶をしていないかと。

 青いツバメはただでさえメッキの王子様に都合よく利用されていても献身していたくらいだ。ハインツさんが改心しているなら、お互いに無茶をしていそうだ。せめて、傷ついていなければいいけれど。


 もし聖獣達が善意で街の住民を庇護しているのなら、それはそれで恐ろしく、寂しいことだなと考える。善意っていうのは、ときに悪意にも勝る罪になってしまうこともあるのだ。


 苦痛の記憶を乗り越えて行ってこそ、人は成長ができる。なら、全てを忘れさせてしまうその生活の中では一切の成長は見込めず、停滞だけが横たわっていることになるのだろう。それは、とても悲しいことなんじゃないだろうか。


 教祖ホオズキはどのような思惑でいるのだろう。聖獣達のことは知っているのだろうか。そこはまだ分からないが、もし彼でさえ庇護される側に立っているのなら、ろくなことにはならない。せめて、誰かの悪意でそうなっている……とかであれば……明確な悪役でもあればすっきりと解決できるだろうに。誰も悪意がないのであれば、これ以上やるせない気持ちになるようなシチュエーションもなかなかないだろう。


「我らは……友だ……対等な……忘れては、ならないぞ……ケイカよ」

「ええ、分かっています。いざというときはしっかり頼りにしますね。アカツキ達もついてますし」

「クウ」


 アカツキの顎下をちょいちょいと撫でて眉を下げる。なんとも言えない気持ちになってしまったが、シナリオはまだまだ始まったばかりである。


 レキの言葉を胸に、私は再び幸福な街に戻るのだった。


 





 ◆「善意の罪」◆

※シナリオクリア後に視聴が解禁されるストーリーです。



 獣は負の心を持つと魔獣となる。

 悲しい、悲しいと叫ぶかのような黒の澱みを纏った姿は一目見ればその心に傷を負っていることが分かるだろう。


 だが、憂いを持つのは獣だけではない。

 魔獣とはならないヒトの覆い隠された憂鬱は、果たして誰が気づいてやれるのだろうか? 


 だから、わたしは。

 だから、ボクは。


 だから、ワタシタチは。


 大事な人の幸せを守ることにした。

 誰が大事な人の苦悩を愛せようか。


 どうか変わらないで。

 どうかそのままの君でいて。

 どうか苦しまないで。

 どうか悲しまないで。

 どうか痛みを忘れて。

 どうか変わろうとしないで。

 どうか成長しないで。

 どうか停滞して。

 どうか苦痛を全て忘れて。


 その笑顔が曇ることが一欠片もありえない生活環境を用意してあげるから。


 どうかその死の瞬間まで、悩みも苦痛もなにもかも知らずにずっと笑ってそばで生きて。


 どうか幸せから醒めないで。

 永遠に忘却の幸福の中でお眠り。


 可愛い可愛い、愛しい愛しい我らの人の子よ。


 どうか受け入れて。ワタシタチに覚えた恐怖も全て明日には忘れて笑って。拒絶をしないで、痛みがあなたになにを与えるというの? そんなものは認められない。優しいものに包まれてなにも苦痛を知らずに生きること以上の幸福なんてあるわけがないのだから。


 愛しいものが苦痛なき一生を過ごすことを望むことの、どこが罪だというの?


 ◆

今回のテーマの中に、「忘却」と「善意の悪」が入っております。

善意から来る悪行は前章でやろうかな〜と思っていたものの、結局違う形に着地したので。


皆さんもペットにはずっと幸せでいてほしいですよね。

痛い目にあってほしくない。可哀想な目にあってほしくない。成長しない可愛いままでいてほしい。

思うことには罪はありません。でもやりすぎはよくない。そんなテーマのお話です。

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