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【漫画単行本4巻発売中】神獣郷オンライン!〜『器用値極振り』で聖獣と共に『不殺』で優しい魅せプレイを『配信』します!〜  作者: 時雨オオカミ
『憂鬱の消えた街』

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美しき邸宅

 シナリオクリア後のハインツによるストーリーはとりあえずここまでです。


 ◆「忘却」◆

※シナリオクリア後に視聴が解禁されるストーリーです


 渡される水さえ飲まなければ大丈夫。

 檻の中に囚われていた者達はそう判断していた。


 しかしそれが間違いだったと気づいたのはハインツただ一人だけである。


 グレイスの探してくる果物だけでは大勢の腹が満たされることはなく、朝と夜に二度やってくる「ヒュー」と呼ばれていた有翼の子供から与えられる食糧が彼らの命綱になっている。それはハインツも例外ではなく、一日経ったところで変化はなかったために油断していたのだ。


 ハインツを除く人間達の疲労感がどんどん深刻なものとなっていくことに。

 霊力がはじめに尽きたのは夫と些細なことで喧嘩をしたと言っていた女性である。早く帰って仲直りをして抱きしめてもらいたい。そんなことをぼやいていた人だった。


 しかし、三日目の朝。

 薔薇の聖獣とともにやってきたヒューがニコニコの笑顔でひとつの檻を指さす。すると、檻となっていたイバラはするするとほどけてあとに残されていたのは固い地面の上で眠っている女性だけである。そんな彼女に枯れた枝のような杖を取り出したヒューがその頭に杖を触れさせる。


 外から叫ぶ他の人間達の言葉は、彼の杖の一振りによって沈黙した。ケイカ達も使ったことのある消音の術である。さらに地面から生えてきたイバラがカーテンのように彼らを覆い隠し、ハインツ達からほとんど女性の姿が見えなくなってしまう。かろうじて隙間から見える光景にいくら声をかけようとしても彼らの声が届くことはなかった。


 杖で何度も撫でられていた彼女がふるふるとまぶたを震わせて目を覚ます。

 そして、真っ先に捉えたのは目の前にいる有翼の子供だ。女の子にも見える相貌の男の子を見上げて不思議そうな顔をする。昨日までの彼女ならきっと、目の前に立つだけで怯えていただろうに。


「お目覚めかな?」

「ここはどこ? あれ、私はどうしてこんな檻に……」

「ボクらの素敵な街に引っ越してくるんだったよね? こんな不便な場所で寝させちゃってごめんなさい。あなたを脅かす怖いストーカーにはこの街にいることがバレてないみたい。だからすぐに住む場所に案内するね。あなたの忘れたいストーカーの怖い記憶は全部忘れられた?」

「……ええ、ストーカー被害なんて、受けていたこと自体もう覚えていません」

「そう、それならよかった! これからはあなたもボクらの街の住民だよ。嫌なことは全部忘れて幸せに暮らそう! この街からそれができるから」


 手を差し伸べる子供に、女性は自らの手のひらを重ねて立ち上がる。

 そして、ハインツ達のことには気づかず、一度も振り返ることなく子供とともに洞窟を出て行った。


 一日ごとに、食糧を拒否して餓えていたとしても一人ずつ檻の中の仲間達は大切なことを丸ごと忘れて子供に連れられていく。


 夫と喧嘩して飛び出した彼女はそもそも夫の存在を忘れてしまった。

 大事な聖獣を亡くした子は、そもそも聖獣と友達だったことも忘れた。

 仕事があると言っていた彼も自身の職業を忘れた。

 子供の熱を心配しながら仕事を優先しなければならなかった母も仕事のことを全て忘れた。


 傷つき、悲しみ、苦しむ心の原因が最初から全てなかったことにされていく。

 失って悲しむなら得ていたことさえなかったことになる。そうして、忘れてはいけないことまで忘れて幸せになったところでそれは本当に幸福なのだろうか? 


 ハインツは次々といなくなる檻の中の住民達に唇を噛んだ。

 こんなにも事態が進んでから、ようやく渡される食糧に原因がないことを彼らは悟ったのだ。


 グレイスの探してくるきのみだけで飢えを凌いでいたハインツは、眠りに落ちることに恐怖した。

 出て行った彼らは少しずつ、少しずつ夢を通じて記憶を改変され、削ぎ落とされていることに気がついたからである。霊力がなければ寝ている際に受ける外からの干渉に抵抗することはできない。霊力の尽きたものから大切なことを忘れていく。


 だから、彼は己の身につけた装飾品をぐっと握りしめる。

 そうして、手のひらを掲げてその上に宝石を作り出した。


 装身具を作る店で働きはじめてから身につけた力だった。

 己の霊力を固めて宝石にする術。


 手のひらにできた大きめのルビーを彼は肩に乗ったグレイスに差し出す。

 血のような真っ赤なルビーはまるで彼自身の命をを削ってできたかのように美しかった。


「グレイス、グレイス、僕の小さなグレイス。この宝石を残りの人達にひとつずつ配っていっておくれ。これを身につけていれば少しずつほどけて霊力の補充ができる。そうすれば彼らもしばらくは記憶を失わないで済むだろうから」

「キュイィ……」

「心配しないでグレイス。洞窟の中は少し寒いけど、もう少し辛抱しておくれ。僕なら大丈夫。この中で一番霊力量が多いし、補助の装身具もたくさんあるからね」


 自身も霊力が尽きれば忘れさせられてしまうという恐怖を抱きながらも、ハインツとグレイスは囚われた人々の手助けをしていく。


「僕はあの子のために、真実を知るまでは恥ずかしくない叔父さんにならなければならないからね」


 彼の冷えた手にすり寄る青いツバメは返事をして、心配そうに彼を見上げていた。


 ◇


 案内されたのは石造りの西洋の豪邸だ。屋敷と言っていたけれど、これは邸宅では? 私は首を傾げた。

 高そうな壺とか絵画とかもしっかりあるあたり、まさに豪遊してそうな金持ちの家なんだけど……ちらっと背の高いホオズキさんを見上げる。


 こういうのにお金をばんばん使うようなタイプには見えないんだけどなあ……って。メガネだし、優しそうなお顔をしているし。なんとなく真面目そう。胡散臭さもないではないけど、それを打ち消す真面目な神父感がある。神父じゃなくて教祖なんだけど。まあ、教祖ってだけで胡散臭さはあるか。


「失礼、驚いてしまわれたでしょうか? あれらは全て寄付によっていただいたものですよ。もちろん、皆様からは日々の幸福を理由に謝礼をお渡しいただけることもありますが……お断りしてしまうと悲しまれてしまいますので。悲しみもまた、心の毒素の一部ですから、ね?」


 困ったような笑顔を浮かべて私を案内する彼は嘘を言っているようには見えない。一応……今のところは。


「あー、教祖様! おかえりー!!」


 と、案内をしてもらっているとき。背中に翼のある子供がこちらに手を振ってから走り寄ってきた。勢いをつけてホオズキさんに飛び込んだ彼女を受け止めて「ただいま帰りました」と優しく背中を撫でている。くすぐったそうにしている彼女を、慣れているのか一度抱っこしてくるくる回してあやした彼はそのままおろしてこちらに向き直させる。


「彼は『ヒュー』と言います。彼もれっきとした神獣様ですよ」

「よろしくー」

「よろしくお願いしまっ……彼!?」

「なにか?」


 めちゃくちゃ女の子に見えるんですけど! もしかして男の娘? やるなぁ〜ホオズキさん。ヒュー君には露骨に睨まれちゃったので慌てて口を塞ぐ。気にしてるのかな? 可愛い〜。


 コメント欄ではヒュー君の背中にある翼がなんの鳥のものなのかを考察するガチ勢が現れてるけど、まだ議論中だ。狐耳っぽいのもついてるから神獣郷特有の神獣なのかなあ。有翼の狐ってなんかあったっけ。翼や耳と尻尾がある以外はきっちり人間に化けているし、言葉もかなり流暢。でもプレイヤー側ではこういうのほとんどできないんだよね……運営ばっかりずるくない!? 


「ふぁらら〜」


 挨拶をしていると、今度は街中でもかなりの数見かけた薔薇頭の聖獣もやってきた。街中で見た子達よりも大きくて立派な薔薇だ。二足歩行だし、体を覆う赤い花びらと葉っぱのドレスも綺麗だから、ホオズキさんが聖獣ハーレム作っているように見えてしまう。片方男の子だけど。


「ああ、彼もここで手伝いをしてくれています。フローリアと言います」


 両方男の娘じゃったか……これNPCじゃなかったら性癖を疑われてたやつだよ!! 運営君さあ……。しかし、コメント欄ではホオズキさんの性癖がしっかり疑われているのであった……哀れ。風評被害ですよ! 多分ね!! 


「よろしくお願いしますね。私のほうもご紹介させていただきます。こちらはアカツキ」

「カァ!」


 肩のアカツキが元気よく応えると、ホオズキさんはふふと口元に手を寄せて笑った。うん、食い気味だったもんね。気合い入ってるねアカツキ。なんだかんだハインツのことを心配しているからその分の気合いも入ってるんだと思う。可愛いね。


「オボロにシズク」

「くおん!」

「しゅる……」


 おすわりをしてこちらも元気にお返事をしたオボロ。尻尾がばっさばっさ振られていてただでさえ綺麗な床がツヤツヤに磨かれていくのが見える。可愛いね。警戒心どこに落っことしてきたんだろう。

 シズクはなんとなく不服そうだ。相手側に自分と似た存在があるからだろうか? 川の神様、レーティア。この名前で川関係って言うとなんとなく引っかかるんだけど……あとで思い出したら考察してみよう。嫌そうだけどしっかり挨拶はするあたり真面目さが出ている。可愛いね。


「最後に、ジンです」

「なう〜ん」


 呼ばれて返事をしたジンがマイペースに私の足元から彼の足元まで移動してすりすりと体を絡ませる。


「はあ!? ヒューの教祖様になにするんだよ!」


 すると、みるみるうちに怖い顔になったヒューが手を地面につけて威嚇し始めた。今にも化けている人間の姿が崩れていきそうな取り乱しっぷりで、慌ててジンを抱き上げる。


「ちょっ、ジン! すみません、この子すごく好奇心旺盛で……」

「あはは、大丈夫ですよ。ヒュー、お客様なんだからあんまり驚かせてはいけませんよ。嫌な気持ちにさせてしまうのは俺達にとっては忌むべきことですから」

「ヒューは嫌な気持ちになった!」

「あとで一緒にいてあげますから……」

「ならいいよ!」

「ありがとうございます」


 にこにこと微笑んだままのやりとりだったけれど、なんというか……彼らの関係に少しだけ違和感がある。なんだろう? 喉元まで来ている気がする違和感を掴むことができずに首を傾げる。まあ、まだ序盤だし変に威圧したり、露骨に警戒する態度を見せるわけにもいかないだろう。

 よろしくお願いしますと改めて挨拶をしてから握手をし、部屋に案内をしてもらった。


「旅のかた、ここにはどんな御用で?」

「幸福になれる街という噂話を聞いた好奇心ですね!」

「それはそれは、良い噂が外にまで広がっているだなんてありがたいことです」


 お部屋もかなり豪華だった。

 ここをしばらくはセーブポイントとして記録することになるだろう。ヒューを構うからと部屋の前でホオズキさんと別れ、アカツキやジンと部屋の中を見回る。特におかしなところはなさそうなのでその場で落ち着く。


 さて、今後はどう動こうかな? 

 私はそうして、これからの方針を決めることにしたのだった。

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― 新着の感想 ―
>めちゃくちゃ女の子に見えるんですけど! もしかして男の娘? やるなぁ〜ホオズキさん。 >両方男の娘じゃったか……これNPCじゃなかったら性癖を疑われてたやつだよ!!  …………そうか。  モチーフ…
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