汚い虎を見つけたので虐待してみた(いじめる×手厚く歓迎する⚪︎)
「うーん、いろいろとありますね……」
流れていくコメントを眺めながらリチョウの口の中に骨っこ型のクッキーを放り込む。ぐるぐると唸りながら牙を剥き出しにして怒るリチョウは若干怖いけど、噛まれないかちょっとドキドキしながら『器用』に食べさせるのは楽しい。懐いていないでっかい猫を相手にするのってこんな感じなのだろうか。
神獣郷は普通に動物と触れ合うことだけじゃなくて、こういう体験までできるんだから贅沢だよね〜。すごいお得!
「ほーらほらほらリチョウさん」
「ウウウグルルルルルルル」
舐めた態度を取られるとすぐに言葉を失うの、ちょっと可愛く思えてきた。いやだいぶ可愛いかもしれない。見た目が虎だからいいんだけど、でもこの人いい歳した人間なんだよな……という気持ちもたまには思い返すんだけど。まあ、キャラクターの一人だとすると普通に萌えちゃうからいっか……ともなる。
『#魔王を呼び出す方法 リチョウの前でケイカちゃんが全力で「月に代わってお仕置きよ!!!」とポーズ付きで叫ぶ』
「それ私が恥ずかしいやつじゃないですか!?」
私知ってる! 何度もリメイクされてるらしいから見たこともある!!
好きだけど!! それをノリノリでやれるのはもうちょっと徹夜とかして正気を飛ばしてる状態じゃないと無理かな。選ばれませんように……。
『魔王を呼び出す方法 会長にリチョウに似合う最高の足フェチ衣装を作って貰い、ファッションショーを開幕する!』
「ケモに!?」
いやケモ好きと足フェチに失礼かもしれないけど、二足歩行の人間の足フェチなストッキンさんが四つ足のケモに似合う衣装を作ってもらうのはなんか畑違いの可能性があるのでは? などと思うわけで。
『イケますね……やはり男性ですししっかり足の筋肉が美しく見えるように製作するべきでしょうか。デザインが捗ります』
イケるらしい。守備範囲が思ったよりも広くていらっしゃった。ストッキンさんのことを舐めててごめんなさい。ところでケモの衣装って大抵上半身だけってイメージがあるんだけど、それってかえってなんか恥ずかしさ増すよね。リチョウさんが恥ずかしい思いをするだけだから別にいいけど。
『魔王を呼び出す方法 リチョウを全員で囲んでかごめかごめを始める』
『魔王を呼び出す方法 リチョウの前で花いちもんめをする』
『魔王を呼び出す方法 リチョウを商品に見立ててオークションごっこをする』
いろいろと流れていくのを見ながらあと数分でランダムセレクトが出るかな、と時間を確認する。
「はいはい、リチョウさんばかり構うなってことだね」
アカツキが私の衣装の裾を咥えて引っ張るので、あーんと口を開ける彼の口にもクッキーを摘んで渡す。リチョウさんの反応が面白いせいでそちらばかり構っていたせいか拗ねてしまったみたいだ。
オボロ達も擦り寄ってくるので最終的にはいつもと同じく、身の回りがわちゃわちゃした感じになってくる。
「お、セレクトされたみたいですね」
ピコン! とわざとらしい音が鳴って赤いドラゴンのアルターエゴが飛び出してくる。その手に持ったパネルを笑顔で裏返すと、そこに書かれていたのは……。
『#魔王を呼び出す方法 汚い虎を見つけたので虐待してみた(いじめる×手厚く歓迎する⚪︎)』
だった。
笑顔で持たれているパネルにそんなことが書かれているものだから苦い笑いを漏らす。いや、古典的なネットの話だっていうのは知ってはいるけどそれかぁ〜。
虐待してみた、と言いつつ手厚く歓迎してご飯食べさせたりお風呂入れたりするやつだ。ということは、このままリチョウを大きな猫ちゃんを拾った感じでいろいろすることになる、か。噛みつかれなければいいけれど。
「なるほど〜。それでは、はじめましょうか」
「なにをする!?」
「まだなにもしていないでしょう? ただ、あなたを歓迎するだけですよ。魔王さまの誤解がとけるように」
静かに告げれば、虎は口の端をわなわなと震わせてその牙を剥き出しにして吠えた。
「そこの女が獣を傷つけ、貶めた罪人であることは変わらぬだろう! 罪人を庇い立てするものにも天罰はくだされるべきだ! 我の全ての正義は魔王様にあり、彼のおかたのために我はこの爪と牙を振るわねばならぬ! 誤解などではなかろう!!」
「判断するのは魔王なのに、こちらの言い分もなしに決めつけられては困るな。法はそのために存在するものだろ。決めつけて執行される天罰は魔王のための正義でも秩序でもない。君が勝手にそう思い込んでるだけの自己満足の暴虐だ。そのうえ動機は自身の承認欲求。どうしようもなく欲が深くて、実に人間らしいと言えるんじゃないかな」
「グルルルギャァァァァァ!!」
「ちょっ、ユウマ煽らないでくださいよ!! この人すごい短気なんですから!!」
「グゥオオオオオオ!!」
「ケイカさんも大概ではありませんの……?」
多分一番冷静なのはリリィだった。
「ええい! いいからお世話されてくださいよ!! そもそもあなた元々人間だったということならその身体はどうしたんですか!? ほらお風呂入りますよ!」
「やっ、やめろ小娘! 我はいい大人ぞ。そのような辱めなど」
「よだれでベチャベチャなままのほうが恥ずかしいでしょうよ!!」
「ぐおっ」
レキのツタで巻かれたリチョウが、速やかに用意された半円の水の中に放り込まれる。私も私で袖などを紐で結んで動きやすくしてからオボロ用に持っているシャンプーボトルを構えた。ジンが小さいからでかい猫ちゃんを洗うのははじめてだけれど、オボロでノウハウは分かってるからいけるでしょう!
「ところでジンと同じなら、やっぱり猫って尻尾の付け根が嬉しいんですかね」
「やめっ、ふぐっ、ふおおおおおゴロゴロゴロゴロ……」
「ここですか? ここですね!? いやー、虐待って大変ですね。手始めに薄汚れているでかい猫を泡まみれの水責めにするところからですよ!」
ところで、これを見て魔王様ってどんな顔するんだろう。
若干そんな思いが脳裏に過ったが、私は速やかに正気を打ち捨てることにするのだった。
ご応募ありがとうございました〜!
どれもちょっと見てみたいので余裕があったらダイジェストでそれもやりたいな……などと思っております。




