特訓のお手伝い
今日から囮作戦の本番だ。
ゲーム内時間で深夜になるまでリリィとパートナー達のレベル上げに付き合うため、私は少し早めにキャンプ地点に来ていた。
さすがに1日目から囮作戦がきくとも思っていないが、囮を続ける以上彼女と夜のデートをすることになると思うともうすでにワクワクする。遊び感覚でやる作戦じゃないかもしれないけど、でもやっぱりゲームの中とはいえ友達と遊び回るというのは楽しいものだ。
「というわけで、今日からしばらくゲストがリリィになりま〜す」
配信を開始してから数分。リリィを待っていると、彼女はタテガミがプレッツェルでできたライオンに乗って現れた。結構スカウトするにも苦労したプレッツェレオンだ。見た目のファンシーさに比べると結構ワイルドな性格をしていたはずだ。男前といった感じだろうか。リリィのことをアネさんと呼んでそうな雰囲気がある。
食性は可愛いんだけどね。塩とか砂糖とか強力粉とか……要するにプレッツェルの材料となるものを好んで食べるし、それに加えてお花とか食べてるとタテガミのプレッツェルに香り付けされてたり、飾りつけが発生したりとユニークな生態をしている。パートナーになら美味しいプレッツェルになっているタテガミを分け与えたりもするので、この子に指導されてタテガミと同じ味のお菓子を作ることもできたりするんだとか。
「こんばんは、今日からよろしくお願いしますね」
「こんばんは、いい夜ですね。よろしくお願いいたします」
プレッツェレオンから降りた彼女の肩にはカラフルなオウムのような鳥が乗っかっている。パフェローパフィンだ。寒い国などに生息しているパフィンという名前の鳥のカラーリングが七色になったような不思議な見た目をしていて、カラーラングの違いによって得意なパフェがそれぞれあるんだとか。
彼らが仲間になったおかげでリリィの店はパン類だけじゃなく本当に甘いものならなんでもありなカフェになっていて、いまだに顧客数は伸び続けている。
「今夜連れてきたのはふわさんと、がおがおさんです。ふわさんがバフデバフ、がおがおさんは攻撃のできる子ですね。騎乗にまだ慣れていないので、騎乗の練習などもさせてもらいたいなあと思っています」
ゲーム内時間で夜10時になる頃に作戦を開始するため、その前にレベルが20代の彼女のパートナー達の特訓をすることとなる。
「ってことはオボロ、出番ですよ」
「くぉん!」
ゲームの接待プレイって苦手なんだけど、不思議とこの神獣郷であればこうして手伝うのも苦じゃない。モチベーションの問題かな、やっぱり。
オボロにリリィとがおがおさんの騎乗特訓を任せて眺めることにする。
リリィにはオボロにまず乗ってもらい、騎乗中のバランスを覚えてもらって……がおがおさんのほうは実際にリリィに乗ってもらってから練習したほうがいいので、もうちょい待ってもらう。オボロにちょっと嫉妬してる感あるお顔……最高だな。
私? 私ががおがおさんに乗っても器用値があるからどんなに乗りづらくても問題にならないんだよね。だから、リリィが直接乗って指導するほうがいいのだ。
後方ベテラン面で腕でも組みながら木に寄りかかるか……。
『昨日ツブヤイターで発狂してたけどどうしたん?』
『なんかリンデと徘徊者のバトルシーンのムービー見たんだって』
『うわ、見てぇ〜』
『この前あげてた動画で太陽の神獣にも会ったんだろ? なんでライブ配信してくれないのさ!』
『そりゃシナリオフラグ見られてすぐにクリアされたら困るからだろw』
「ああ、そうなんですよね。ストッキンさんのおかげで、徘徊者が本当に月の魔王に見守られているっぽいことは分かりましたし……あとは、その月の魔王が助けに来ることを期待するか……それとも、徘徊者の正義が間違ってることを叩きつけるか……それにしてもリンデさん格好良かったな〜。悪役ムーブしてるリンデさんほんと好き。は〜、あんな風に清く美しく……舞いたいものですね……正義の味方もいいものですが、やっぱり悪の美しさってありますよね……もっと、こう、ドレスみたいなのもいいな……」
『まーたオタク君長文語りしてる』
『ドレス、作ってもいいのですか!? いやでも専門外……』
『うわ、会長が湧いて出てる』
『そもそもケイカちゃんは妖艶なやつは似合わないだろ〜』
「色気がないって言ってます!?」
『あ〜、エネルギッシュな可愛らしさがあるから必要ないよってことだよ』
「なーんだそうですか! 可愛い……ふふふ、嬉しいです……ありがとうございます。でも大人の女性って憧れますよね〜」
そんなこんなで、夜の特訓をしながら囮作戦をはじめたわけだけれど、一週間ほどは進展もなく和やかに過ぎていく。
異変が起きたのは、ちょうどリリィのパーティがレベル50を超えた頃である。
次回に一回掲示板挟んでから本編に行く予定です。




