太陽の祭壇にて
「それじゃあ、こうしたらどうでしょう? リリィに元魔獣だったうちの子達を護衛につける、とか。そうすればどちらも狙われる要素は持ち合わせているはずです」
「それで僕達は見えないところで見守ってる、と」
「はい、そういうことになりますね」
アカツキ以外はみんな元魔獣だし、素早い子をリリィの管轄のパーティに入れておけば私も四匹連れた上でさらに護衛も一匹ホームから引っ張り出すことができる。五匹体制で囮作戦を実行して、お留守番の子にはめいっぱいおやつを与えておこうね……こういうとき、どうしても選考漏れが発生してしまうのが心苦しくなるけど、その分みんな役に立つスキル覚えよう! って積極的に自分達でも会議してるみたいだし……彼らのモチベーションになるのならそれでもいいのだろう。
「それじゃあ、名残惜しいですけど一度戻って作戦実行といきましょう。太陽の神獣様、ありがとうございました」
「いいよ〜、共存者の子達はみんなお友達だからね。ああ、そうだ。狗楽の娘さん。魂送りをするんだよね?」
「よろしく頼むぞ。太陽の」
「うん、うん! それなら、ケイカちゃん達も見ていく? 滅多に見られるものじゃないよ〜」
彼の提案にパチクリと瞬きを数回。
「いいんですか?」
聞き返せば「もちろん!」と元気の良い返事をされる。にっこにこの笑顔で鼻をひくつかせる太陽の神獣さんに、私達は顔を見合わせてお言葉に甘えさせてもらうことにした。
「それじゃあ、こっちだよ」
ぴょんぴょんと歩き出す彼についていく。自然と私達は太陽の塔の中へと入ることとなり、上を見上げて驚いた。
「……すごい」
塔の中は当たり前のように見た目よりも大きな空間となっていて、周囲のひまわり畑に負けないくらい塔の中まで黄色と緑の彩で満たされていた。頭上には一面の青空が広がっていて、薄い兎型の雲が漂っている。塔の中だなんて信じられないくらいの景色に私達は思わず感嘆の声を漏らしてぐるっと内装を見回す。遠くには虹までかかっているように見える。ここから虹蛇のところまで繋がっているんだろうか?
シロツメクサやハルジオン、ホトケノザ……春によく見るいわゆる雑草の類だけど、可愛いお花とかが草原のようになっている地面から、端のほうによりいっそう大きなひまわりが咲いているちぐはぐさはもう見慣れたものになったかもしれない。春と夏を感じさせる塔の中を進み、太陽の神獣が大きなひまわりに近づく。すると、ひまわりはお辞儀をするように花を彼へ向けて傾け、大きな葉を差し出した。
「みんな、上へ行くから階段になってくれないかい?」
ざわざわと葉っぱが騒ぐ。
彼の後ろでそんな塔の様子を見守っていると、差し出された葉からさらに上へ螺旋状に続くように花や葉が壁から顔を出し、階段になるようにそれらを差し出していく。
「さあおいで。上に行こう」
「変わらず大仰な者達よの」
彼の後をおいぬ様が慣れたようについていき、私達も慌てて追いかける。ちょいちょいスクショを撮りながら、自分の目が輝いているのが分かった。余所見をして葉から足を踏み外しそうになったとき、ユウマが襟首を掴んでくれたし、ひまわりがさらに葉を差し出して受け止めてくれようとしていたのを見てますます感動する。
「私……私、ここ、好きです!」
「そっかそっか、そう言ってもらえると嬉しいな。この子達も喜ぶよ」
「この子達……」
「もちろん、ただの花も愛でるけれどね。この子達はボクとともにいることを選んだ魂が依りついた花だよ。綺麗に、可憐に、美しく、健気で可愛い子達だ。優しくしてあげて。この子達のことを褒めてあげてくれるかい? 久々の人間との交流には臆病だけど、きっと心の底から喜ぶだろうから」
「……そう、なんですね」
階段になってくれている葉をしゃがんで撫でてみる。そして、近くに顔を出しているひまわりの花にも手を触れて軽く顔を近づける。ひまわりはあんまり香りがしないとは言うけれど、なんだか優しい香りがしたような気がした。
なんだかほのかにあったかいような気もする。やっぱり普通のお花ではないんだろう。魂の入った、「血の通った」あたたかさがする。
「さっき助けてくれようとしていましたよね、ありがとうございます。とっても大きくて可愛くて、私。今日ここでますますひまわりが好きになりました。あなた達のことを友人達に自慢することを許してくださいますか? もちろん、ここに来ることのできる人は少数でしょうけれど」
さわさわと葉が揺れる。頭上に影が差して、頭に葉っぱが乗せられる。いいということだろうか? 太陽の神獣に視線を向ければ「いっぱい自慢してあげておくれ」と言葉が返ってくる。
なので、私はカメラをいじって少し遠くから私達がひまわりの階段を登っている風景を撮影した。アルターエゴの手伝いを得て撮ったものは格別だ。
「大事にします」
「うん、ありがとう。この子達も喜ぶよ」
塔を登る。
私達のやりとりを見守っていたユウマは黙々と。リリィは彼女自身も近くの花にこっとんと一緒に顔を近づけ、香りを楽しみながら。
「ここが最上階だ」
葉っぱの階段を登り終えると、そこは雲海のようになっていた。
足を乗せたら沈んでいってしまいそうな見た目だけど、ふかふかの感触をした床という感じで歩けるみたい。
その上を歩きながら、太陽の神獣が歩いた道に小さな草花が咲いてはキラキラとした粒子になって消えていく。
彼について行って、正面に太陽が見える祭壇に近づく。
その上によいしょっと言いながら登った太陽の神獣が、背後の太陽と重なり合って光を纏った。
「おいで、救いを求める子達よ。君達の選択の時間だ」
おいぬ様の元から飛び立った白い蝶々達が太陽に向かってひらひらと舞い始める。神々しいその光景に、思わず居住まいを正した私達は真剣にその儀式を見学することにした。
私のそばで待機しているみんなもおすわりをして真剣な眼差しを向ける。特に、太陽と縁があるアカツキは彼の姿を憧れの目線で見つめているようだった。
イースターの短編も番外のほうで書きたいなーと思ってます。




