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【漫画単行本4巻発売中】神獣郷オンライン!〜『器用値極振り』で聖獣と共に『不殺』で優しい魅せプレイを『配信』します!〜  作者: 時雨オオカミ
『秩序の獣は月見て吠える』

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月の神獣が協力する理由は?


「月の神獣様についてをお尋ねしたく参上……? いたしました」


 ユウマが脇をつついてくる。敬語がちょっと怪しいのを指摘されているのは分かるのだけど、しょうがないでしょ! いつもは敬語というより丁寧語寄りなんだから! と目で訴える。神獣を前にしているのであんまり失礼な態度はできない。このヒトなんとなく寛容なタイプだろうとは思うけど、なにが地雷になるか分からないから慎重にならないとね。


「ああ、あの子についてかあ……なにが聞きたい?」

「どんな子なのかな〜って」

「ん〜、そうだなあ。几帳面で真面目な子だよ。だから、悲しい気持ちになったときに際限がなくなっちゃったんじゃないかなあ……わりと楽観的なボクでもあの時代はメンタルにきたからね〜」


 ゆるいな、この太陽の神獣。

 後ろ足で首元を掻いていたと思えば、ウサギ特有の後ろ足で立って前足で長い耳をくしくしする仕草までしはじめて私は大変眼福なんだけど、身振り手振りみたいなノリでそれやられると可愛くて話が入ってこない。


 まあ、ラスボスが真面目故に心を痛めて世界をどうにかしようとして堕ちていく……正義と正義のぶつかりあいみたいなのはありがちだよね。そういうタイプと。ってことは、ラスボス戦があるとしたら、世界に否定的な月の神獣を説得するべくいろんな人達で絆を見せつけるとか、話すとか、そんな感じになるのかなぁ……王道だけど、好きだよそういうの。


「それがですね……最近、ちょっと物騒なことが起こっていまして」

「物騒?」

「ええ、なんというか……虎の聖獣、なんですけど。月の神獣のために! って言って聖獣と上手くやっているはずの人達を襲っているんですよね。正確には分からないのですが、人間のほうを襲っているか……もしくは、人間と和解することを選んだ聖獣を襲っているのか。立て続けて襲撃が起きているので、一度その現場に立ち会ったのですが……」

「ふむふむ」


 ひと息置いて太陽の神獣をまっすぐと見つめる。おおらかそうな性格なのに、なぜだか目を合わせると気圧されてしまいそうだった。


「明らかに、月の神獣が……魔王が手を貸している雰囲気なんです。虎が勝手に自分の正義感で動いているのであれば、理解はしたくないですけど……納得はできました。そう考えるひともまあ、いるだろうと思って。でも、一方的な信仰で虎が月の神獣のために動いているのではなく、月の神獣も助けるように動いていることに違和感がありました」

「月の……彼女に心境の変化があったか、あるいは元からそういう子だったか。それをキミたちは知りたくて来たんだね?」


 穏やかな声がかえって恐怖心を煽る。

 彼と対になっている大切な存在を、聞きようによっては悪く言っているようにも思えるだろう。彼がヘソを曲げてしまったらとても困るけれど、しかし回りくどく質問を繰り返していくより、こうして直球で聞いたほうが良いだろうと思った。


「うーーん……そういうのに手を貸す子ではないかなあ。暗い気持ちに染まっちゃってはいるけれど、絶望したまま無気力に世界を眺めて、同じように心が弱った子達を保護してる感じのはずだから。自分からそんなに……動けるような心境じゃないと思うんだけどね」


 ということは、月の神獣があの虎に手を貸しているのはやはりちょっとおかしなことだと思っておけばいいのかな。どうして協力してるんだろう。


「なんとも……でも、これだけは言えるよ。あの子は、同族に請われれば見守るくらいはするかもしれない。だから、その虎がなにか言ったのかもね。自分が世界を変えて見せる! とか? ちょっとした希望を見出してみてるとか、気になるものをとりあえず見守るくらいはするかもしれないし」


 甘い紅茶をこくこくと飲むでかいウサギの図ですごく真面目な話をしているが、やはり絵面は可愛らしかった。


「それじゃあ、虎の動向を追いつつ目的をもっと詳しく探れるならそうすればいい……んでしょうか」


 真面目な話をしていたからか、傍から私の手を持ち上げて頭を差し出して来たザクロを撫でまわす。膝の上に乗ってるアカツキやシズクにも構いながら首を傾げる。ここまでわざわざ来ているというのに、どうにも解決策が見えてこなかった。


「そうだね。虎がどんな目的で動いていて、月の神獣にどんな風に話をして協力してもらっているのかどうかを知られたら……そうしたら、なにか分かるかも」


 だけど、狙われているのはNPCだ。

 それも、リリィの例を見る限り魔獣から浄化されて人間と再び和解した子達を連れている人間を優先して狙っている。もう二度と人間を信じるなとでもいうつもりだろうか。


 リリィはそれを察していたからこそ、自分が罪を犯したからいけないんだと思い詰めていた。それも、おいぬ様やこの太陽の神獣に「もうとっくに君は許されてるよ」と言われて感極まって泣いちゃったんだ。虎には許さないと主張されたようなもので、けれど太陽の神獣というこの世界でいちにを争うくらい偉い神獣には許された。


 あれはかなり心の救いになっていただろう。

 だからこそ、リリィをもう危険な目には遭わせたくない。あの虎には合わせたくないと考えている。


「シズク、ザクロ、みんな……今から私、ひどいことを言う」


 私のパートナー達がいっせいにこちらを見る。

 その瞳は、まるでなにを言うのかが分かっているかのように穏やかだった。


「ちゃんと狙われるかどうかは分からない。けど、元魔獣を狙っているとするなら、私達でも囮捜査ができるかもしれない。やってくれる?」


 頷き。

 あまりの即答っぷりに、太陽の神獣が思わずといった風に手を叩いて笑った。信頼がなければそんな風にはいかない! と。


「な、なに言ってるんですか……! 私も、手伝います。一度狙われた身ですから、囮になれる要素は十分にありますよね!」


 しかし、ここではいそうですかと頷かないのがリリィだった。

 静かに流れを眺めているユウマは口出しをするつもりはないようなので、私が口を開く。


「もう危ない目にあってほしくないんです」

「それなら、私だってケイカさんが危ない目に遭うのは嫌だと感じます。あなたが私のことを思ってくださっているように、私だってケイカさんのことが大好きなんですから!」

「う゛っ」

「おっと、リリィさんの言葉はケイカに効果が抜群なようだね」


 勝者、リリィ! 

 そんなことを言われて私が断れるわけがなかったんですね。


「仲良しだね〜」


 そんな私達の様子を、太陽の神獣は嬉しそうに眺めていた。

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