舐めプしてくれてるんなら全力で甘えなくっちゃ!
毒状態にしたとしても、バリアが割れないのであれば意味はない。
だってこれは相手の体力を削り切る必要はないのだから。
バリアを割るには対応した属性で攻撃する必要があるわけだけど、攻撃をすればこちらのバリアも同時に割れるので相手のバリアを全て割ったら勝ちのルール上普通にやってるだけでは試練を突破することはできない。
ならば、どうするか。
「最後の一枚になるまでいろんなことを試してみるのみ!」
まずはもう一枚。なにも考えずに割る!
朱色のバリアの次に現れた水色のバリアをシズクに指示をしてアクアブラスト。避けもしないおいぬ様が水砲の中に消えていき、私のバリアも同時に割れた。
次においぬ様に現れたのは雪属性だろう白いバリア。
オボロがいないから、これは私が扇子でどうにかするしかなさそう……だ?
と思っていたら、私の目の前に現れたのはまた朱色のバリアであった。お互いのバリアの色が違うため、困惑する。しかし、反射的に私が自身に向かって雪属性の扇子を振り下ろす。そうしたら自身の雷属性のバリアには弾かれたものの、おいぬ様のバリアは一枚割れていった。
「えっ、そういうことですか!?」
「良い反射神経よ。そうだ、難易度は優しめにしてあるぞ。喜べ小娘」
ということはこのままバリアを壊しに押し切れば、全部反射で返ってきたとしても勝てる?
「今度はこっちの番であろう、さあ避けてみよ」
って、そう簡単には行きませんよね〜! 知ってた!
おいぬ様がダンと足踏みをすれば、波状攻撃だったのか地面に電撃が流れ、一歩避けるのが遅れた私のバリアが割れる。これでまた同じ色のバリアになっているので、振り出しだ。また別々の色のバリアが現れるまで待つか、それとも他の方法を取るか……どちらかしかない。
その他の方法かあるかどうかもまだ分からないが、おいぬ様があれで簡単なほうの試練と言うからには、多分他にもなにか方法はあるんだろう。
帯電した地面は複数箇所残っており、みんなが避けながらおいぬ様を囲んでこちらを見る。指示待ちだ。こればっかりは、私がなにか考えて対策を講じなければならないから。
「ひ、ひとまず次の風属性で攻撃!」
「カァ〜!」
緑色のバリアをアカツキが割りに行き、お互いに雷属性のバリアが張られる。そして、アカツキが技を使って通り過ぎる際に事件は起きた。帯電したまま残されていた罠に誤って突っ込んでしまい、私達のバリアだけが割れたのだ。
「えっ!?」
そう、私達のバリアだけが割れた。
おいぬ様の雷属性のバリアはそのままで、こちらは次のバリア……月属性らしき濃い青色に金の月が浮かんだバリアに変化している。それは言及されていなかった『ルール』の存在が明らかになった瞬間だった。
驚いた顔でアカツキを手元に招集する号令をかけて戻ってきてもらいつつ、おいぬ様を見る。彼女は笑っていた。ニヒルに唇を吊り上げ、心の底から楽しげに。その表情を見るに、こうなることは分かっていたとでも言いたげな意地悪な表情で……けれど、わざとそのルールを明示しにきた親切な表情のようにも見える。不思議な気分になった。めちゃくちゃヒントをもらって舐めプされてないか? それはちょっと……いや、ありがたいんだけど。
私が不殺プレイヤーだから甘々接待みたいなギミックバトルにしてもらえているのだろうか……多分これ、ユウマだったらノーヒントだったんだろうな。そう思うと私でよかったのかもしれない。
「そういえば、あなたは『この結界は技を使うものの悪意を反射して、自分に降りかかる効果も全て共有する』って言っていましたね。つまり、意図的な攻撃は反射するけど、意図していない直接的な攻撃以外なら通ると見ました。どうですか?」
首元にするすると登ってきたシズクの顎を撫でて、目配せをする。途端に彼女は心得たとばかりに周囲に嵐を呼んだ。天候を雨にして、フィールドに雷がランダムに落ちるようになる嵐だ。この状態でなら、誘導次第でおいぬ様にも当たるはず。そうなれば、あちらのバリアも割れて残りの枚数はどちらも同じ。
雨で視界も悪くなるから、隠れやすくもなる。
さて、あとはどうやって雷に誘導するか。
「くくっ、構わぬよ。見抜いた褒美だ」
言いながらおいぬ様が自ら歩み出て、雷が落ちた。
さすがにそれにはびっくりしたけど……いや本当に甘いね? 思ってはいたけど舐めプすぎる。だけど、まあ、せっかく舐めプしてくれてるんなら全力で甘えなくっちゃ! これでお互いにまた月属性のバリアが張られている状態になっているわけだが、月属性といえば……シズクかな。
「ルールが分かった今からは、罠合戦といったところですか。ところでこれ、本当にこんなんで試練って言っていいんですか……? すごい甘やかされている気がするんですが……」
「吾の決めたことよ。ここまでお膳立てをしてやったのだ。負けてくれるなよ? 小娘」
「も、もちろんですとも!」
月属性で直接攻撃じゃない……広域展開ができるものってなにがあったかな。霧と晴と雪なら自分でどうにかできるんだけど……いや、月属性はお互いの攻撃でスキップして、次のバリアで勝負に出ればいいか。
これも賭け事みたいなものだと思えばいい。
相手を出し抜くんだ。甘々対応のあの人がびっくりするくらい、上手に!
新年明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします!




