ドキッ♡上限なし・恐怖の赤スパ祭り!【七〜九人目】
別名『ユウマの受難』
さて、ドン引き王決定戦は見事にあの二人がさらって行ったわけだけど……実はユウマの受難はまだまだ始まったばかりだった。そして、私の受難も。
どうかしてるメンバーを紹介するぜ!!
「えっ、可愛い! この子はなんて種族の聖獣ですか?」
「ピスハンドというドラゴンよ。エストニア神話に出てくる子なの」
「お〜、知らない子だ!! 可愛い〜!! 私もお写真いいでしょうか?」
「構わないわ。ケイカさんだもの」
ワインレッドの長い髪を綺麗に結った西洋ドレスの女性が連れていたのは、蛇の体に四本足が生えた感じの小さなドラゴン型聖獣。快く種族まで教えてくれて、物腰柔らかで素敵な大人の女性だ〜! って思っていたら、彼女が笑顔で提案した言葉に凍りついた。
「その……僭越ながら、ケイカさんとユウマくんと私たちで、サングラスをかけてバットを持って、こう……不良さんみたいな……ヤンキー座りをしている写真が撮りたいんです」
「なんて???」
No.1、お人形みたいな西洋美人さん!
「その……僭越ながら」
「アッ、そこからリピートするんですね。大丈夫です、理解しました。えっと、道具とかは……」
「用意してあります。エレヤンケイカさんがほしくって……!」
「あっ、はい。ご、ご指名ありがとうございます……?」
まさかのリクエストに私は思わず聞き返してしまったけど、冗談か本気かそのまま言葉を繰り返そうとする彼女を止めて撮影タイムに入る。小道具まで用意しているということで、パッと出されたサングラスをドン引きしながら受け取った。
ロングスカートなのでヤンキー座りが妙に似合うんだよね……悲しいことに。ユウマを巻き込み、全員でバット担いでカチコミ前ですみたいな写真を撮った。なお、彼女の相棒もバットをドヤ顔で持ってポーズしていた。
……まさか、この子のリクエストだったりしたのだろうか。パートナーの彼女もおっとり顔でバット持ってヤンキー座りを実践していたので、エレガントヤンキー指数が通常よりも高い記録を出しました。
……なにを言ってるんだ私は?
「なんで僕まで呼ばれたの……」
「諦めてください」
リクエストに君の名前も入ってたからだよ。入ってなくても呼んだかもしれないけどね。死なば諸共ってやつである。
「はい、これ報酬です」
「ありがとうございまあ、ぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「え、なに? あー……66万ゴールド……すご」
びっくりして尻餅ついちゃった。
ユウマは横から画面覗き込んでドン引き顔しているけど、言っとくが君にもこれ入るんだからね?
「ご指名、ありがとうございました」
「うぐ、ありがとうございました……」
くそう、こんなときばっかりスマートに対応しちゃってさぁ!!
……
…………
………………
No.2、弥生時代っぽい雰囲気と格好の男性!
「ども、よろしくお願いします」
「あ、はい。よろしくお願いします」
初見の感想は教科書で見たことある髪型だ! である。
次に、礼儀正しい人だな〜という感想。
それから、肩のところにちっちゃなヤマタノオロチを乗せていて二度見してしまった。連れている人はたまにいるけれど、大体大型犬サイズくらいに縮小しているから、このサイズ感のオロチは初めてだ。手のひらサイズくらいかな。ミニチュアみたいで可愛すぎる。しっかりと八本の首全てがちろちろ舌を出し入れしてて、ちゃんと蛇だ〜! って謎の感動をしてしまった。
「えー、シチュエーションの指定ですが……ケイカちゃんがユウマくんを壁ドンして顎クイしてるところでお願いします」
「なんて???」
「壁ドン、顎クイ」
「私が? ユウマに?」
「イエス」
「ゆ、ユウマ〜〜ご指名です〜」
は? また? みたいな顔をしたユウマが渋々こちらにやってくる。そして、内容を告げれば顔を引き攣らせてこちらを睨んできた。いや、私のせいじゃないからね!? 別に私変な告知とかしてないし!! 皆さん、あの……ユウマに対してどう思ってるんだこれ。というか私達のことどう思われてるんだこれ???
しかし、指定されてしまったものは仕事なのでしなければならない。
深い深いため息を吐いたユウマがこちらにやってきて、私の手をとって壁際に。あまりにも潔い行動にちょっと戸惑ってしまったが、そのまま大人しく連行されてからチラッと依頼主を振り返る。すでにサムズアップしていた。なに? どういうこと?
「さっさとやって、早めに終わらせよう」
「う、うん……」
と、言われても。壁ドン。壁ドンか……身長はそこまで変わらない。壁際に立ったユウマの横に手をついて、もう片手で彼の顎をきゅっとすくいとる。
「ケイカ、こういうのをやるほうは照れちゃダメだって」
「う、ううううだって!」
「……アカツキにでもやってる感覚でいけば大丈夫だよ」
「アカツキに……」
「もしくはオボロとか。顎クイしやすそうだよね」
「う、うん……クールに……クールになれ私。なんで同級生にこんなこと……」
「それは巻き込まれてる僕が言いたいことなんだけどな」
「ごめんって!」
「もしくは……そうだな、バックヤードで僕がこの格好することになったときみたいに、盛大にからかうくらいの気持ちでだったら落ち着いてできるんじゃない?」
「あ〜、そういうのならいけるかも」
「それでいけるって言われるのもなんか複雑だけど……撮影は一瞬だから、その間だけね」
「わ、分かりました」
振り返る。
依頼主さんはにっこりしていた。なぜ!?
「ゆ、ユウマ〜、めちゃかわエプロンドレスで女装してバイトするはめになった感想はどうですか? きゃわいい〜格好で配信主の私と同じくらい稼いでてガチ恋勢まで発生してるらしいですよ〜? ねえねえどんな気持ち?」
「は? ガチ恋勢?」
パシャリ、シャッター音が響く。余裕顔で構えていたユウマの表情が驚愕に変わった瞬間の出来事だった。写真を見せてもらったら、しっかり私がからかってユウマが焦りを見せて……みたいなシチュエーション写真が出来上がっていた。切り取る場面がプロすぎるし、マニアックすぎる。
しかも。
「ひょええええええ!?」
「うわ……」
私達に入った金額が1000万ゴールドだったため私は卒倒しそうになったし、ユウマはドン引きしていた。
満足したらしきお客さんを蛇同士ちょっと仲良くなったシズクが尻尾を振って見送りする。
No.3、蛇を複数連れたとある紳士!
「ふ、ふふ……蛇に手足を絡みつかれたユウマちゃんの写真いいですか?」
「アッハイ、ユウマ〜!」
「嘘だろ……どうして僕がこんな……目にばっかり……」
「お客さんに失礼ですよ」
「他人事だと思って!!」
「他人事だも〜ん」
死んだ目で蛇に絡みつかれたユウマが立つが、完全に棒立ちだったためプラちゃんに指示を出してさらに植物のツタをひゅんっと彼の頬真横ギリギリに振るう。さすがにビビった顔をするユウマに、隣からカシャッとシャッターを切る音がした。お客さんも大変満足したようなので問題は起こらなかった。よかったよかった。にしても、ユウマのファンってなんかこう……キュートアグレッション? いや違うな……なんというか、こう。歪んだ……愛情を向ける人が多いですね。ええ、他人事なので可哀想だなと思うだけだけど。
「報酬はユウマちゃんの言い値でいいよ」
「じゃあ、ちゃん付けするのはやめてください。それから、掲示板とかでそれを晒すのはやめてください。ご自分で所持して楽しむだけでお願いします……それだけでいいです……」
今の一瞬でメンタルをゴリっと削られたらしいユウマがふらふらと椅子に座り、さすがに可哀想になったのかうちの子たちや彼のパートナー達がわらわらと集まって団子になる。その様子を見ながら私も写真を撮る。あれはあれでいい画が撮れた。可哀想だけど。お金を望まず報酬を口止め系にしてる辺り本気で嫌そうなのがなんとも言えない。
本人は特に配信とかしてなくて、私の配信にしか顔を出してないのにコアなファンがついてて大変だなあ……。
このあと、癒しが来てくれるといいけど……、果たしてユウマの精神ダメージが回復するような人は来てくれるだろうか。
お団子になったみんなに便乗して私もニヤニヤしながらユウマの頭を撫でてあげるなどのことをしながら、次のお客さんがくるまで少しの間慰めの会をしてあげるのだった。
なお、終始爆笑しながらこちら観察していたルナテミスさんはあとでPK鯖行くときは気をつけたほうがいいと思う。多分ユウマがガッツリ暗殺しに行くと思うから……。
※後日、ルナテミスさんとユウマの本気のバトルが動画配信されたようです。
試験終わりました〜。社会人になって試験なんて受けたくないもんですね。お待ちいただいた皆様、Xでのご声援などありがとうございました。リアルの事情による更新の遅延でしたが、しっかりと今後も遅れてしまうことはあるかもしれませんが、更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
アルバイトのリクエストは多分あと一話で終わりかな?




