アルバイトはじめました⭐︎(交渉編)
「なんでぇ!?」
いつも斜めに構えた人間の素っ頓狂な声ってイイよね!
リリィのちょっと後ろで私はガッツポーズをしてニヤリと笑った。
「ケイカ、君! 絶対許さないからな!?」
「あーっはっはっはっ! と〜ってもお似合いですよ、ユ・ウ・マ・君……ぶふっ、ふっくくくっ!」
語尾にハートでもつけるようなノリで言い切ってから、やっぱり耐えきれなくて手を叩いて指を差しながら大笑いをする。最低な行いだが、幼馴染としてわりといつものあるあるなことなので友情崩壊案件にはならない。
隙があるほうが悪いのだ!
……仕返しされないようにしばらくは用心していよう。
ぷるぷると膝丈のスカートを下に向かって伸ばすように拳を握っているユウマは、リリィと同じようなふわふわとしたウサギさんをモチーフにしたロリータファッションのエプロンドレスを身に付けさせられていた。
……なにがあったかというと、リリィに押し切られたあのあとのことだ。私だけが外に出て、待ちぼうけを喰らっていたユウマに、話があると言ってバックヤードに誘い込み、奥で待っているリリィの元へと行くようにと行ったのだ。
当然、なんの疑問も抱かずリリィの元へ行ったユウマの後ろ姿を見送りながら、私はこぅそりとバックヤードの内鍵をカチリと閉じる。そして、ひときわ大きなザクロとプラちゃんを扉の近くを見張るように言って、残りのアカツキとシズクは抱き上げずに散開してじわじわとリリィを中心にユウマを取り囲む布陣で近づく。
ユウマが不思議そうな顔でこちらを見つめたときには、もう遅い。まあ、多分彼は「ケイカがまたなんかやってんな」としか思っていなかっただろうけど!
いつもトンチキやってばかりの私とは違うのだよ!
「……ですので、お手伝いをしていただくことになったんです。ケイカさんがぜひユウマさんにもと!」
「はあ……まあ、そういうことなら、手伝いますけど。これ、必要なことなんだよな?」
今はまだ、真っ当なアルバイトの誘いをしているリリィを前にして頷くユウマ。思わずニヤケそうになるが、我慢だ我慢! そんなことをしたら察せられてしまう。なんだかんだユウマは私のことになると異様に鋭いのである。幼馴染故の互いのことを良くも悪くも知っている弊害だね。
壁際に追い詰められたとも知らず、イベントに必要なことなら……と安易に了承を示したユウマは、喜色ばんだリリィに手を取られてやったぁ! と歓迎されている。
そして、制服着用必須ということでリリィが出した服が……もちろん、彼女の着ているものと色だけ違う可愛らしいロリータファッションだった。
それはそれは気持ち良いほど、変に声を高くした悲鳴をあげてくれたユウマの姿は見ものだった。
それが冒頭の「なんでぇ!?」である。
いや〜、いいものを見た。聞いた。一ヶ月はこの案件をネタにしてからかえる。最高! リリィちゃん!
さて、どこまでも性格が終わっている私は置いといて……イベントに必要なことだから! という私の言葉に押し切られてなんとか装備を変えたユウマは、着替えた途端にいつも涼しい顔をしている目元を歪めて恥ずかしそうにしている。いや〜飯がうまいね。スクショが止まらないな〜。バックヤードに誘い込むあたりから、こっそり動画も撮ってるから、あとで編集して堂々と許可をもぎ取ってアップロードしておこう。配信にしなかったところに、私の優しさが光ってるね!
……もちろん私もこれから同じものを着るのだが、私は配信慣れしているためある程度の羞恥心は我慢できる。むしろ現実では着られない分、可愛らしい服をめいっぱいゲームの中で着ることに抵抗はない。ちょっとだけ恥ずかしいけど。それはそれだ。
だが、ユウマは男である。ふっつーの男の子である。
当然女装となると恥ずかしいだろう。だが、リリィ曰く色の違いこそあれど、パンツスタイルの店の制服はないとのことだ。リリィの趣味で溢れた可愛らしい店だ。エプロンドレスの制服も、もちろんリリィの趣味だから、バージョン違いがあっても色だけしか変えていないらしい。
突っぱねてもいいシチュエーションではあるものの、これは店の手伝いという名の「イベントを進めるための必要事項」である。イベントを進める気のある彼は、断れないってことだ!
つまりユウマは現在、ピンクのふわふわと色違いの、黒と白のウサギさんモチーフエプロンドレスファッションになっているのである。
「スカート短くないか……?」
「それはですね〜、試作したときのやつなので少し短いので作ってるんです。動きやすいように、下にショートパンツも合わせてまして」
「ショートパンツだけにするっていうのは?」
「……? その、かなり恥ずかしいことになりますが……」
鎮痛な面持ちでリリィが言う。
「え? 高校生がショートパンツでショタっ子の真似事するって?」
「ケイカ……おもしろがってないでリリィさんを止めてよ」
「いやですよ、こんなおもしろっ……愉快なこと止めるわけないじゃないですか」
「言い直した意味ないだろそれ! いや、でも、これは、いや……」
「それとも、やめておきますか? いいですよ私はそれでも。このアルバイトをこなさないとリリィを連れて重大イベントを遂行できないので……ユウマとは条件が変わるから、同じ行動で同じイベントに辿り着くことができなくなりますよね。特別条件でのイベント、ゲーマーなのに見られないのはかわいそうだな〜」
「くっ、この……っ、くっそ……」
リリィを連れた状態での太陽の神獣訪問は、間違いなく特別条件と言えるだろう。さて、では私とユウマで条件が変わったあとに同じ会いに行くイベントをこなそうとしたらどうなるのか……。
答えは単純だ。
同じイベントに行っても、リリィがついて行った世界線とついていけなくなった世界線で、二つに別れる。
このゲームは、同一条件を持った者同士のパーティならば一緒に同じ世界線のイベントに挑むことができるが、あまりにも違う条件になると世界線ごと……ちゃんねるごと? 隔離されるような形になる。PKサーバーのように、殺しすぎたプレイヤーは一人だけ別の空間に移動させられる。それと同じことが起きるだけだ。
でも、確実にレアなのはリリィがついていくほうの条件だ。目の前にそんなレアな状況がぶら下げられて、果たして結構なゲーマーな彼はそれを取り逃すことをよしとするのか。
……もちろん、それは否だ。
「くそっ……」
悔しいねぇ悔しいねぇ〜、大変飯が美味い。
ニヤニヤしながら見守っていると、エプロンドレスなのに男らしく足を大きく広げてぷるぷると俯いていた彼がこちらを睨みつける。いつも私のプレイを涼しい顔してマジレスしてきたりからかってくる男の、こんなに感情が動いた顔はそうそう見られるものじゃない。すっごい楽しい。
「そんなに、お嫌でしたか……?」
彼はリリィより半歩後ろで眺めている私を睨んでいるのだが、どうやらリリィは自分が睨まれてしまっていると思ったようで、とっても悲しそうな声でそうつぶやいた。その途端、自分の眉が吊り上がる。今度は私のほうがユウマを睨んでやる番だった。
リリィにこんなこと言わせて許されると思ってるの? お? そういう意味で口パクすれば、半目になったユウマも口パクで「エ・レ・ヤ・ン・さ・い・て・い」と伝えてくる。最低ですがなにか?
しばらくバチバチと見つめ合っていると、ユウマは深く深くため息を吐いて目を閉じた。
「……分かったよ。背に腹はかえられない。代わりに、ケイカにも条件を追加させてくれ」
「ほほーう? なんでしょう?」
「条件付きで、引き受けてくれるよね?」
「いいですよ」
「必ず?」
「しつこいですね……かならずやってあげますよ。ユウマが諦めてその格好でバイトしてくれるなら!」
あの制服を着るだけなら、別に私に不都合はない。
だから、軽い口調で安請け合いをした私は、次の瞬間立場が逆転することとなる。
「じゃあ、僕らみんなで制服を着て写真を撮って、ルナテミスさんと……ストッキンさんに送ってからアルバイトを始めよう。応援に来てもらえたら心強いから、ね?」
「ゔっ、えっ、ルナテミスさんはともかく、ストッキンさん……ですか?」
自分の視線を下げる。
いつもの衣装だ。けれど、足元でアカツキとシズクが「あーあ」みたいな顔でこちらを見上げていた。
次にリリィを見る。「?」みたいな顔で首を傾げてる。可愛い。いや、それよりも問題は……。
どことなくアリスモチーフにも見えなくもない、ピンクと白のウサギモチーフのエプロンドレス。もちろん靴下はロングのやつだが、しましま靴下と白靴下のアシンメトリーなデザインなので、萌え属性的には盛り盛りである。リリィのやつは膝丈の長めのスカートだから、靴下で足全体が覆われて生足は見えない……が、果たして生足が見えない程度であの変態が落ち着いていられるか? と考えると……無理だろうなと結論づけている自分がいる。
やばい、冷や汗かいてきたかも。ゲームの中だからそんなことないはずなのに。
「この条件でなら、僕も一緒にやるよ。二人でイベント見るんだろ? ケイカ」
「べ、別に私はユウマと一緒にイベント観に行かなくてもいいんですけど」
「薄情だな〜、今度チラッと配信してるときに被害者面してコメント欄でバラしちゃおうかな」
「うっ、炎上しそうなことするのはやめるんです!」
「どうしようかなぁ」
「ぐぬぬぬ」
今度は向こうがニヤニヤしだした。見事な逆転ホームラン(?)である。
私達の間でキョロキョロと見比べながら、こっとんを抱きしめておろおろしているリリィだけが癒しだ。
ええい、仕方ないなぁ! もう!
「スリーショットを撮ってお二人に連絡はさせていただきます……ところで、チェキ一枚いくら……みたいなおまけでもつければ繁盛しますかね?」
「チェキじゃなくてゲーム内だと普通に撮影会だし、お客さんが多いからアルバイトするのにさらに増やしてどうするんだよ……乗った」
「最低金額を設けて言い値で買い取ってもらうことにするとかしたら、スパチャを直接渡すみたいになって楽しいかもしれませんね」
「欲張りだなあ……ま、君の視聴者がそれでお金落としてくれるならいいんじゃない? 散財舞姫さんにいくら放り込んだところで、すぐなくすと思うけど」
「それでも貢いでくれる人がいるからいいんですよ!!」
「さいて〜」
「配信者たるもの、稼げるのなら稼ぎたい……! だって現実でもリアライズぬいぐるみもっと集めたいから……!」
「あの、お話はまとまりましたか……?」
不安そうに尋ねてきたリリィに、二人していっせいに顔を向けたせいか彼女がびくっと驚いたが、すぐに落ち着く。
「交渉成立したので問題ありません!」
「痛み分けってところかな」
「そ、そうですか……」
このあと、ちょっと引いてるリリィを着替えた二人で挟んでスリーショットを撮り、投げやりにいつものメンバー残りの二人に写真を送った。
もちろん、秒で長文感想が届いたほうのメールに目が点になってしまったが……仕方ない。仕方ないんだ。お金とミッションのためなんだ……と自分に
言い聞かせて今から開始するアルバイトであることを伝える。
そして、ツブヤイターのほうでも告知をして本格的に後戻りができなくなった。
「が、がんばりますか……」
なお、アカツキ達もおまけでピンクと白の可愛らしい二色のリボンを首元や腕などに巻いてもらってアルバイトスタイルにしてもらって私は一瞬で堕ちました。
これを見られただけでさっきの憂鬱が吹っ飛ぶってものよね!!
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ツブヤイター告知
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リリィのお店にてアルバイトはじめました⭐︎
アルバイトは私ことケイカと、女装するはめになったユウマです。
リリィや私達の聖獣・神獣含めてチェキ……前金払いの写真撮影がOKになっております。最低金額は100ゴールドから♡
皆様がよければですが、チップを上乗せしてスパチャ代わりに撮影代を支払うことも可能となっております。
チップをはずんでいただけたら、ポーズ指定とかも無茶振りじゃなければ受け付けます。
みんな、ぜひいらしてくださいね!
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皆様、大変お待たせいたしました。
久しぶりの「読者参加型企画」です!
ケイカ視点と掲示板どちらやります。
①お客さんの性別。大まかな容姿。前に会ったことある人(海イベなどの同企画)だったら、言及しておいてくださるとちゃんと前のを読んできてあったこと前提で書きます。
②連れてる聖獣
③写真の指定(誰と、どんな)
④撮影に支払う価格(最低100の基礎価格として、スパチャでどこまで投げたい?)
以上の条件を一言に入れてくださると物語に反映されます。
ヤケクソでアルバイトする二人をニヤニヤしながら見守ろう!!




