幼馴染と謁見の間へ
ホウオウさんのいる城にやってくるのは、もしかしたらハロウィンぶりかもしれない。
今回のやつは収集イベントの類ではないので、特にプレイヤーが多く集まっているということもない。さくさくとホウオウさんのいる謁見の間へと移動するべく歩く。
カツカツと、ユウマの革靴と私の一本歯下駄の音が大広間に響いていた。
「ユウマはホウオウさんには会ったことありましたっけ」
「んー、まあ、こっちのサーバーでも一応遊んでるからね。何回かは。というか、前にピニャータのとき一緒に来ただろ」
「それもそっか。私もキリンさんに会いたいですね〜。なんだかんだ毎回ホウオウさんに謁見しちゃいますし」
ぽつりとこぼせば、すぐに返ってくる言葉。
条件反射のように脳直でそんなことを言いだしてしまっていた。
私の言葉に呆れたようにユウマが横目で見てくる。
「それならもう一つのPKなしサーバー行けばいいのに……」
「うっ、なんだかんだホウオウさんにはお世話になってるから、会って話す機会があるならやっぱりホウオウさんがいいなって思っててですね……」
彼の言うことは正論だ。
ホウオウさんのことは好きだが、あくまでサーバーの管理者AI。別のサーバーに行けばちゃんとキリンにも会える。けれど、私が出会ったのがホウオウさんだったからか、イベントを進めるときなどは必ずこのサーバーでと決めていた。だって、そうじゃなければハロウィンイベントのときにあそこまで感動はしなかったから。
私の中ではこの神獣郷の世界で手を取り合って、太陽を取り戻したコンビがアインさんとホウオウさんなのだという認識が固定されている。だから、今回のような謁見では絶対にいつもの場所じゃないとダメなのだ。
そんな私のことを見て、ユウマはため息を吐いて呟く。
「君、最初に話した人にすぐ懐くよね」
「えっ、そうですか!?」
間髪入れずに叫んでいた。
「ファミレスの注文とか、そういうのもだいたい好きなもの固定でしょ。最初に出会った味以外に冒険するのが怖いんだろ」
「確かにそれはありますけど……」
思い当たりはあった。
「刷り込みされた鳥みたいだよね。だから、君のパートナーがニワトリだって知ったとき、ああ、らしいなとは思ったよ。情熱の資質ってのもピッタリだし」
「そんなに前から!? というか、最初に話した人に懐くとかなにを根拠に」
なにか断定的に言われていることが気に食わなくて言い返そうとしてみるが、ユウマがチラリとこちらを見て鼻で笑う。
「小学校のとき、隣の席になって、ゲームの話したのがきっかけで高校まで友達だよね、僕ら」
「うっ、たし……かに?」
忘れたの? と言われた言葉にちょっと動揺した。
いやだって、逆にほら、それを覚えてるほうが珍しいのでは……? とちょっと最低な感想が出てきて目を逸らす。
「この神獣郷のゲーム内だと……NPCだけどリリィさんとか。今じゃ親友だろ」
「……はい」
「ストッキンさんも、あっちから声をかけてきたんだっけ?」
「……そうですね」
次々と直近の実例を挙げられて言葉に詰まる。たしかに、そうだ。
「で、なにを根拠にだって?」
どこか得意げに尋ねてきたユウマから目を逸らす。
「身に覚えがあるのに、ないこの感じ……そっか、私そうなんだ……メンタル子供か???」
大きく頷かれてがっくりと肩を落とした。
いや、まあ、でも今の会話が配信中でなくてよかったと思って足早に謁見のまに続く輪を潜った。私でもちょっと彼氏面かなにかか? と思ったから、視聴者に大変な誤解を与えてしまう可能性がある。幼馴染ともストッキンさんとも、そういうのはちょっと違うので……私がラブなのはアカツキ達なので……。
そんなことを考えていたからだろうか、ワープして謁見の間に着いた瞬間……私は着地に失敗した。一本歯の下駄がつるりと滑って後ろ向きに倒れそうになる。それをすぐさま支えてくれたのはザクロだったけれど、後ろ向きに倒れそうになった状態でユウマと目が合う。一応手を出して支えようとした形跡を感じた。
「なんか、ごめん」
「いや、いいけど……」
気 ま ず い!
と、思っていたときだった。
「やあ、ケイカちゃん。久しぶりだね!」
空気の読まない明るい声が割り込んできたのは。
視線を上げると、大きな止まり木のようなところにホウオウさんと、止まり木の下にツリーハウスを……ツリーハウス!?
とにかく、大きなホウオウさんが止まるのに十分なサイズの枝に、簡易的なツリーハウスのようなものがぶら下がっていた。明らかにあそこを寝床にしていると分かる様子である。
劇的に変わっていて威厳もなにもない有様に、さすがに私も笑ってしまった。いやあ、仲が良さそうでなによりである。
「お久しぶりです、アインさん。ホウオウさん」
「うん、久しぶり! ちょっと待っていてね……ねえ、君。降りられないから降ろして!」
「アインよ……我を乗り物扱いするなとあれほど」
「昔っからそう言って乗せてくれるんだからさ、この相棒!」
「うぬ……」
そんな会話に思わず生暖かい目になってしまった。いやあ、偉大な人達なんだよなぁ……これでも。
「ま、親しみやすいほうがいいですよね、なにごとも」
ホウオウさんの翼に捕まって一緒に降りてきたアインさんが、赤い夕焼け色の瞳で私達を見つめる。そして、背を正してひとつ咳払いをした。
「それで、今日はなんの用だい?」
仕事モードだな、と。はっきり分かった。
※恋愛はないぞ!!




