ユウマと口喧嘩と待ち合わせ
襲撃のあった夜から、翌日のログイン。
今日はユウマがこっちのサーバーに遊びに来てくれるとのことだったので、二人で今回のイベントについて調査をすることにした。
屋敷に直接来てもらってもよかったのだが、護衛という意味も兼ねてリリィのお店で待ち合わせをさせてもらっている。リリィには事情も説明してあるし、そのほうがそばで見守りやすいからいいかなと。
多分昼間は襲撃とか、ないと思いたいけれど。
そもそもこの街の中にあの徘徊者は入れるのだろうか? それすらも不明だが、確か被害者情報を見た限りでは街の中で襲われた人はいなかった気がする。ならリリィは大丈夫かもしれないが……。
「ケイカさん、本日のケーキお持ちしました〜」
「わあいチョコレートたっぷりケーキです〜!!」
そんなの建前に決まってるでしょうが!!
リリィちゃん可愛い〜! リリィの手作りオススメケーキさいこ〜!
同じ料金なのに。一緒に来ているザクロには大きめのケーキを用意してくれるあたり本当気遣いの塊。聖獣に合わせたグラフィックの違いといえばそれはそうなんだけどさ。
おっきなお口で元気よくケーキを掴んで食べるザクロにあらあら〜ってなりながら見守っていると、シズクが水をぴゅっとかけて彼女の口元を拭ってあげていた。保護者かな? 面倒見の良いシズクちゃん推せます。
チョコケーキをクチバシでつついてちょっとずつ食べるアカツキと、こちらも一口でケーキを咥えて食べるプラちゃん。プラちゃんがザクロと違うところは、しっかりとこぼさずに食べたところだろうか。それのせいでますますザクロの幼女みが増している。うちの子可愛い〜。
「相変わらず親バカしてるね」
ケーキをたしなみながらスクショをパシャパシャ撮っているところに、暗黒騎士(笑)の格好をしたユウマがやってきた。淡々と事実を告げてくるその口に向かってフォークを突き出し、「そういう君だって、相変わらず暗黒騎士(笑)ロール用の厨二御用達装備がお変わりないようで〜」と言いつつ、わざとらしく笑ってみせる。
「人に先端が鋭いものを向けないでよ。お嬢なのに行儀がそれだとお母さんが泣くよ」
「あ〝?」
今度はあちらが口元を釣り上げる番だった。
「ほらほら、エレガントヤンキーがはみ出てるよ」
「ちょっとそこに座りなさい」
「はいはい、待ち合わせしてたんだからそうさせてもらうよ」
「はいは一回ではなくって?」
「君が今更そういうこと言っても、お嬢っぽさは出ないと思うよ」
鼻で笑ってくるユウマにイライラしながら、ケーキを一気に食べ切る。
自覚のあることを指摘されることほどイラッとくることもない。幼馴染に言われたのではなおさらだ。普段の生活や、私がお花の道の娘だと知ってるだけに、こいつはたまにそういうところを注意してくることがある。確かにね? 私ってばお淑やかさのカケラもないけどね? 気にしてるところを言われると痛いっていうか。
距離感が近いリアルの幼馴染だと、こうしてお小言言ってくるからなんか嫌だよね。幼馴染が仲良いのは所詮フィクションである。まあ、アカツキ達のぬいぐるみ作ってくれたのは大変感謝しているけれども。その裁縫の腕だけは素直に褒めることができる。
「それで、本題だけど」
彼がそう言ったので、気持ちを切り替えた。
こういうときいつまでも引きずっていたら、せっかくこっちのサーバーにまで来てくれた意味がない。出向いてくれているのは、あくまで向こう側なのだから。
「徘徊者についての情報を集めたいんですよね? イベント進行のために。でも、基本的なことはスレとか攻略班の皆さんがやってくれていますが、他にやれることなんてありますか?」
「魔王について、調べてみない?」
「……魔王」
今回のイベント、その背後には必ず魔王がいるだろう。
それはなんとなく皆が察していることだ。人間を見限って、心を閉ざしたと言われている月の神獣。どんな姿かは分かる。PVを見る限りはホウオウさんと同じような鳥の姿だった。
月が鳥の姿をしているのは、考察によると『日の入り』が酉の刻だからと言われている。太陽の神獣は『日の出』で卯の刻だからか、ウサギの姿をしていた。
月と太陽と考えると反対の印象があるが、この神獣郷では太陽が兎で、月が鶏だ。鶏とは限らないけど……鳥であることに変わりはない。
「でも、魔王についてなんて分からないことだらけですし……あ、鬼ヶ島ランドの博物館見に行くとか? 他は……乙姫ちゃんはそういうの分かるんでしょうか。聞いてみないと分かりませんが」
「なに言ってるの、もっと身近に魔王のこと詳しそうな人達がいるだろ」
「え?」
リリィがユウマの注文した分も商品を持ってくる。
彼はサンドウィッチを片手にして、いったん食べ始めてから机に頬杖をついてこちらをだるそうに見上げる。
「アインさんと、ホウオウだよ」
「……! そっ、か。そうですね!?」
一番最初の『共存者』アインと、そのパートナーホウオウ。
人間と聖獣達が共存して暮らせるこの街を作った彼らは、この街にいる。
先に亡くなったアインさんだって、ついこの前のハロウィンイベントからこちらにやってくるようになって、ホウオウさんと感動の再会をしてしっかり一緒に住んでいるらしい。
街の中にあるお城に、彼らはいる。
わざわざ遠くに行って、知っているかどうかも分からない質問をしに行く必要は一切ない。
だって、彼らが太陽の神獣を説得して世界に光を取り戻したんだから。
太陽の神獣と面識があるということは、他の人達よりも魔王について多くの情報を持っている可能性が高い。
「そういえば、アインさんってすごい人なんでした」
「君、あの人のことなんだと思ってるの?」
「死に別れたパートナーのところに意地でも顔を出さないようにしようとしてた意気地なしですかね。怖いっていう気持ちは分からないでもないんですけど」
「ひっど」
苦笑いをして、ユウマがサンドウィッチを食べきってしまう。
私もチョコレートケーキの最後の一口を頬張って、横目でパートナー達の様子を見る。
うん、皆ちゃんと食べ終わっているみたいだ。
「んじゃ、行きましょっか。謁見の間に」
「そうしよう。リリィさん、ごちそうさまでした」
「リリィ、今日も美味しかったですよ〜! ごちそうさまでした!」
「は〜い、お二人ともご贔屓ありがとうございます! それと、護衛もですね」
リリィの肩に乗ったこっとんが、こちらをじっと見る。その目もまた、微笑んでいるように見えた。
そうして私達はリリィの喫茶店を出て目的地に向かうことにした。
「アインさん、今日はいますかね」
「いざとなったら助っ人機能で強制的に呼べばいいだけじゃない?」
「ううん、言いかたが悪すぎる。でも、まあ、それもそうですね」
腕をグッと伸ばして空を見上げる。
ゲーム内でも鮮やかな青の中にぽつんと浮かび上がる偉大な太陽。
魔王の情報とまではいかなくても、せめて太陽の神獣について知ることができるといいな。そうすれば、イベント攻略のためにも大きな収穫となるだろうから。




