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【漫画単行本4巻発売中】神獣郷オンライン!〜『器用値極振り』で聖獣と共に『不殺』で優しい魅せプレイを『配信』します!〜  作者: 時雨オオカミ
『秩序の獣は月見て吠える』

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秩序の獣

 聖なる虎は秩序を司る。

 そんなことは神獣郷オンラインを遊んでいる人達は、皆知っていることだ。


 (ねずみ)はパートナーの渇望に共感し。

 牛はパートナーとともに忍耐強く待つことを選び。

 虎はその牙でパートナーとともに秩序を守る。

 兎は臆病ながらに勇気を奮わせ月まで跳ねて。

 龍は己とともにある者と誇りを分かち合う。

 蛇は(とも)に寄り添い知識を追い求め。

 馬は人の同士の如くあるべき人に献身を捧ぐ。

 羊は側に在り友愛を語り。

 猿は己の理想を鏡となって反射する。

 鶏は情熱に燃ゆる人とともに飛び立ち。

 犬は一心の愛情をただ純粋に注ぎ分け合う。

 猪は己の半身を伴い実直にひたすらまっすぐに走り出し。

 猫は何者にも囚われない自由さをともに謳歌することを愛するでしょう。


 それが神獣郷オンラインのはじめてのパートナー達の性質。13の資質。

 皆それぞれ自分の意思で友達となった共存者と、似た者同士で二人三脚で歩き出す。いや、四足歩行の子が多いから、二人三脚ではないかもしれないけれど……同じ意味だから問題はないよね? 

 とにかく、一緒に歩むことを皆望む。

 自分の意思で、自分の定義した自分らしさを、自分と似た人と一緒に分かち合いながらゲームの世界に歩き出していく。

 でも、確かに一度思ったことはあったんだ。


 虎の掲げる――果たしてその秩序とは、いったい誰が定義したものなんだろうって。


「くっ、なぜ!? 魔獣にはなっていないはずなのに!?」


 獰猛な咆哮。

 闇夜に鈍く光る牙。

 黄色いまなこ。

 澄みきった額の宝玉。


 そのどれもが『魔獣』ではなく、彼者が『聖獣』であることを示している。

 聖獣は、負の感情を募らせて魔獣へと姿を変える。ならば、この殺意に満ち満ちた虎も魔獣になっていてもおかしくないのに、どうしてその額の宝玉は澄み切っているのだろう? 


 人間に恨みを持っているならば人を狙い、魔獣に堕ちているはずなのに。

 彼の虎からはいかなる怒りも、憎しみも、恨みも感じなく、ただただまっすぐな意思だけがその瞳の中に感じられた。魔獣言語のスキルを持っている私には聞こえないだろう声を、その咆哮の中に宿しているのだろうか。それすら、ルナテミスさんがそばにいても分からない。


 キラリと光った対象からひらりと避ければ、鈍く光る爪痕が残像になって地面を抉っていく。装備に掠って羽織りが薄汚れていく。下手な装備では一瞬で損傷しかねない威力の斬撃だ。


 余裕のあるうちに配信を開始して、リアルタイムで『徘徊者』イベント遭遇の記録として残し始めているが、告知をしていないのにもかかわらず結構な人が続々と集まってくる。


 そして、その誰もが皆『徘徊者』が魔獣ではなく聖獣のままであることに驚きを隠せない様子だった。やはり、このパターンはほとんどはじめてであるらしい。ユールセレーゼだってほとんど敵意がなくて、魔獣ではなくなっても深い悲しみの末に消極的な自殺を図ろうとしていた。あの白い梅の樹の下で。


 けれど、最初から魔獣ですらないというパターンはなかなかない。相手が事故だとか、勘違いだとか、はたまた同じ共存者のパートナーが相手でない限り、人間や他の聖獣を攻撃する子は少なくとも内側に心の傷を持っていたから。


「ぁっぶな!?」


 耳元で風切音が響く。

 地面に重い一撃が加えられ、砕けた土塊が額を掠めて行った。


 白い毛並みの美しい虎のはずなのに、どうしてか闇夜に紛れて認識しづらい。だから攻撃が来る直前まで反応しづらくてとても辛い! が、なんとか反射神経だけでかろうじて避けている状態だ。白いならば普通は月の光を反射して分かりやすいはずなのに、そうなっているということは……まるで、そう、月の光が虎の味方をしているように、その体を月光で包んで隠しているようにも見えた。


「くっそ、カッコいいじゃないですか悔しい!! 月の光の下で踊ってるみたいに! 私も舞姫なのに!!」

「いやそこなのかにゃ!?」

「姉上さァ……」


 叫び出せば、ちょっと戸惑ったように虎がたたらを踏んだ。風も吹いていないのによろける仕草はずっこけているようにも見える。え、そんなに? 

 ルナテミスさんの背に庇われて避難させられているアリカ君からも呆れたような言葉がついついという風に漏れ出てきている。シリアスな顔で切り落とされた翼を押さえながらほぼ気絶状態だったカナタ君でさえ、うっすらと目を開けてこちらを凝視しているように思えた。フレゼアさんだけが首を傾げていたが、アカツキ達からの鋭い視線も私を貫いている。ほぼ満場一致で「お前さあ」と思われていることが決定しているようだ。


 思い返してみれば、自分の発言はかなり空気が読めていないと感じる。でも言ってしまった言葉は戻ってこないので。


「くっ――そこな虎さん! いざ尋常に、舞勝負をあなたに挑みます!」


 格好つけて言えば、コメントで「いや汚名返上になってないからそれ」と鋭いナイフのような指摘が入る。さきほどまでかなりのシリアスだった空気は私がすっかりぶち壊してしまっていた。

 ゲリラ配信だったというのに、すっかり集まってきたいつものコメントメンバーがすでにコメント欄に勢揃いしている。君達いつもこの時間はいない? 大丈夫? 私生活犠牲にしてない? そんなことを心の中に留めおいて、さっと上から流し見る。


『いつもの』

『逆に安心する』

『シリアスブレイクたすかる』

『こいつの前で長持ちした鬱はそうないからな』


 うん、そうだね!!! 

 ギャグ顔晒しててごめんね!!! 

 でも衆目に恥を晒す私の羞恥心の犠牲だけでみんなの精神力が回復するならそのほうがいいよね!!! クソがよ!!! 


 荒ぶる脳内言語が配信画面にテロップでずらずら並べ立てられていく様子を見て、無駄なのにわあわあ言いながら手をジタバタさせてしまった。冷静にテロップを消せ。話はそれからだ。


「っと、いいところ狙ってきますね」


 襲いかかってきた爪を閉じた緋色の扇子で弾いてその場でくるりと回転した。そのほうが力を受け流せるからという理由なので、これに関しては別に格好つけているつもりはない。けれど、そういう自然な姿からこそ、皆を魅了できる仕草だと言えるのだ。お見事と言ってくれたコメントに対して胸を張り、頭上からアカツキにクチバシでしばかれる。


「いたぁーーーーー!?」


 敵じゃない相手からの回避はできないからね、仕方ないね。敵意ないもの。

 そんなふざけた一幕を仲良くパートナー達とワイワイやっていたのだが……それでも虎――あの秩序の獣は、その目を爛々と光らせて私達を見つめていた。


 どうやらこちらのペースに巻き込まれてくれるほど生優しい相手ではないらしい。


「シズク、回復できました?」

「シャルルゥ」

「OK、そのままそこで守りに徹していてください。カナタ君、無事?」

「無事、ではないよね、見ればわかるでしょ」

「あ、おいカナタ。姉上は心配してんだぞ」

「いいよいいよ、そのくらい憎まれ口叩いてくれたほうが安心するってものです。オボロも守りのほうに入ってください」

「わうっ」


 月明かりがあちらに味方する中、オボロとシズクを守りに入らせてルナテミスさんにアイコンタクトを行う。


「ミーも参戦するかにゃあ……おけおけ、殺さなければセーフだよね? ディアナ、行くにゃあ」

「なおーん」


 そして、歩み出てきた彼女と並び立つ。

 私の隣にはアカツキ。そして、彼女の前に立つ本来の姿のディアナと、まるで戦友のように佇むジンという陣形で……目の前の『徘徊者』をどうすれば良いか考えを巡らせるのだった。


 一定時間の襲撃を防げばいい? 夜明けまで? それとも……なにか部位破壊みたいな特殊な勝利条件があるのか。


「自力で見つけるしかありませんね、これをしのぐ方法」


 逃してはくれなさそうだし。

 鋭い眼光はまるで、私達を見て『赦さない』と言っているようだったから。


 果たしてこの虎は、なにを『秩序』としてこちらを襲ってくるんだろう?どうにかするならば、それを考えることから始めなければいけない。虎が襲い来る理由は、通常ならばそれしかないはずなのだから。

 本日は神獣郷オンラインのコミカライズ最終巻となる第4巻発売日でした! コミカライズのほうもおまけが盛りだくさんなのでぜひぜひ皆様もその目でお確かめください♪

 小説のほうはこれからも続いていきますので、どうぞ今後ともよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[一言]  月……襲撃……虎…………。  ハッ!?  そなたは我が友、李徴ではないか?(山月記並の感想)
[一言] 襲われている時に喧嘩を売るとは、 そんなとこに憧れないし、痺れない? 芯がブレない散財が十八番の優雅ではない散財舞姫であった・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・…
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