お友達女子会
「いーやーだー!! おれもフレゼアさんとお茶するーーーー!!」
「あー、はいはい、カナタは街の散策に行こうなァ。こっちは任せていいぜ。だから姉上達は存分に楽しんでくれや〜」
ズルズルと首元を掴まれ、アリカ君に引きずられていったカナタ君は、いつまでもいつまでも声をあげていた。ラフなスタイルで擬態中の彼らはどこからどう見てもイケメンだけれど、ああして見ると男子高校生みがあって可愛らしいな……と感じる。
そう、天楽の里のあの二人である。
なぜこんなことになっているのかというと……。
「うふふ、カナタったら」
横でふんわりと笑うフレゼアさん。
「別に私らは一緒でもよかったけどにゃあ」
頭の上で腕を組んでへらっと笑うルナテミスさん。
「でも、コンセプト的には女子会ですものね」
腕に抱きかかえたこっとんに頬ずりをするリリィ。
「そ、その、ごめんなさい。まだこの子、男の人がダメで……」
「蛇ちゃん、オトコ嫌い」
そしてスノーテさんと、現在人格交代中のメーサさんもとい、蛇ちゃん。
そう、ここにいるのは現在女子のみである。
沈黙の海城の件からしばらく経ち、期末テストなどでてんやわんやしていた時期を乗り越えた私はようやく神獣郷の世界に舞い戻ってきた。
そしてさっそくメーサさんとスノーテさんに街の案内! ……と思っていたら、すでに街案内イベントは終わっていて全私が泣いた。そこは受けたシナリオからの地続きじゃなかったせいで、彼女達のシナリオに対する私の優位性がなくなっていたのだ。別に、追憶の機能で体験できるからいいんだけどね? それはそれとして1番最初に案内してあげたかったなあ……って気持ちもある。そりゃ多少はやったけど、イベントとして出てくる街案内はやってないから!!
……ということでわりと落ち込んでいたら、その街案内をやり遂げていたらしいルナテミスさんからお誘いがかかったのだ。
「どうせなら交流のある子達で女子会とかしませんかにゃ〜?」
「ぜ ひ に ! !」
即決だった。
蛇ちゃんが男嫌いであることもあり、イベントも女子でキャラメイクしている人限定だったようだし、いまだそれは変わらないのでまずは女性プレイヤーとNPCで交流して他の人間に対する嫌悪感とか拒否感を減らしてもらおうというのが主な目的の作戦である。
……いや、建前とかではなくちゃんとそういう目的の作戦だ。ほんとだよ?
ちなみに男嫌いな理由はもちろん、メーサさんがあんな目にあったのは当時の皇帝のせいって蛇ちゃんが認識しているからである。間違ってはいないので仕方ない。
「それじゃあ、お菓子は私にお任せ〜です!」
「こちらでは焼きたてのパンも用意していますよ」
「わ、私のところも頑張りました!」
お見送りもしたことだし、と屋敷の中に移動してさっそく女子会の開始だ!
私がお菓子をテーブルに出し、リリィもいつもは店で提供しているパン類を出してくれる。それから、リリィにお店経営の修行を受けたフレゼアさんもお店から食べ物類をいくらか持ち寄ってくれたようだ。恐らくフレゼアさんの持ってきてくれたものは彼女作ではなく、十中八九カナタ君作だろうが……うん、愛だね。
「うちからは飲み物類提供するよ〜。どーせみんなお菓子ばっかり用意してると思ったけど、思った通りだったにゃあ」
「うっ」
そこでにやっとしたルナテミスさんが、テーブルに彩りと言う名の可愛いグラス類と飲み物を取り出して並べていく。
「ほいさっさ〜君達は座っててにゃあ〜」
「え? でも、その、悪いです私達だけ」
「蛇ちゃん、お腹すいた。メーサもお腹すいたって言ってる」
ルナテミスさんに椅子まで連れて行かれてスノーテさんは困惑を示し、メーサさんのほうは完全にパーティが始まるのを今か今かと待ち受ける感じに落ち着いている。蛇ちゃんの人格のほうが出ているせいか、めちゃくちゃダイレクトに自分の願望を発言してくるところが可愛らしい。小さい子を相手にしているような感覚になるから、かえってこのほうが対応しやすいかもしれない。
「蛇ちゃ〜ん、あと少しだけ我慢できたらひときれ多くタルトを分けてあげますよ〜?」
「むっ、蛇ちゃん我慢できる子」
「よしよーし、蛇ちゃんはとってもいい子ですねぇ〜」
「お前に褒められても嬉しくない。メーサに褒められたい」
「そっか〜、メーサさんもきっと褒めてくれますよ〜?」
「……そうかな」
「ええ、もっちろん!」
ほら可愛い。
最初はかなりカタコトだった蛇ちゃんも、今では立派におしゃべりができるようになったことだし、意思疎通もしやすい。それはつまり好感度が稼ぎやすくなったことも表す。
今のうちに仲良くなっておきたいよね。検証班の皆さんも頑張って彼女達の分離の方法を探してくれているわけだし。イベントを進めるのに好感度が必要かもしれないからやって損はない。なにより、可愛い子のお望みくらいは叶えてあげたいし。
「アカツキ達は……っと」
チラッと見ると、アカツキ達はアカツキ達で果樹園のほうから大量に収穫してきた果物をカゴに盛ってお客さんをもてなしているようだ。
こっとんやディアナちゃんは大人しくもてなされるのを待っており、しっかりとお客様然としている。この子達はお土産を持ち寄りたくてもなかなか難しいだろうからなあ。それぞれ聖獣達も交流をしながら話したりしているみたいだ。
特に、シズクは自分のタライの中にエアレーを受け入れてあげていて、より交流を深めているみたいだ。その近くにオボロもいて、もしかしたらシズクが屋敷に帰ってきてパーティから外れたあとのことを話しているのかもしれないね。
シズクもオボロは特にエアレーとは雨属性・雪属性同士で相性がいいのかもしれない。果物を分け合いながらなかなかに盛り上がっている様子を見せている。
さて、それはそれとして人間のほうの交流はというと……。
「フレゼアちゃ〜ん、どうなの結局? ん? カナタ君とはデートの二回や三回したのかにゃ〜?」
「あ、あの、その……!」
おっさんみたいなだる絡みをするルナテミスさんがいるのだった。
これもこれで恋バナ……って言えばいいのだろうか? 絡みかたが厄介客のそれなんだけど。
「ちょっとルナテミスさん、フレゼアさんが困ってるじゃないですか。確かもう三回くらいはお花見に行って手を繋いだんでしたっけ?」
「!! ど、どうして知って……!!」
リーク元はアリカ君ですどうもありがとうございます。
いやー、恋する乙女って可愛いよね。ルナテミスさんのことはなにも言えない所業をしている気がするが、あわあわするフレゼアさんが可愛いのでそのまますこーしずつ話を続ける。
この話題だとスノーテさん達は入ってこられない気がするが、なんとなく雰囲気を楽しんでくれればいいので問題はないはず。一応様子見ながらやってるし。
ほら、近くに恋バナがもはや地雷と化していそうなメーサさんもいるからね。ほどほどに。でもそれはそれとしてキャラクターの恋愛模様は気になるから聞きたい。
そんな複雑なオタク心に揺らされて、私達の女子会は穏やかに進んでいくのでした。
……も、もちろん私だってメーサさんと蛇ちゃんが無事分離できるような機械や方法、探してるからね!! このままでいいとかちっとも思ってないから!!
今回から新章となります。よろしくお願いいたします!!




