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【漫画単行本4巻発売中】神獣郷オンライン!〜『器用値極振り』で聖獣と共に『不殺』で優しい魅せプレイを『配信』します!〜  作者: 時雨オオカミ
『深淵咬魚にハッピーエンドの福音を』

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暴走ウツボの大手術 後


 咆哮による衝撃波が私達の間を通り抜ける。

 私とスノーテが前に立っていたとはいえ、その衝撃波はどこまでも広がっていきよろけたスーちゃんをビィナが支えた。


「スーちゃん大丈夫ですか?」

「へっちゃらだもん! お姉ちゃんはさくせんとおりにして!」


 胸を張って答える彼女の顔は誇らしげだ。そんな姿に微笑ましく思って頷き、扇子を持ちながらもガッツポーズをして叫んだ。


「分かりました。さあさあ、お姉ちゃんにまっかせなさーい!!」


 さっそくシャークくんに飛び乗ってその場から動き出す。

 まず先に、私はスーちゃん達にヘイトが向かわないようにウツボの気をひかないといけない。シャークくんにはレキも一緒に乗っており、彼がシートベルト代わりになってくれている。いつもよりもスピードも遠心力もあるからね、しがみついているだけよりも、移動しながらスキルを使えるほうがいいという判断だ。


 地上にはスーちゃんのパーティ、そしてスノーテ。オボロとオボロに乗ったジンが残っている。


 よって、この布陣で戦闘開始だ。


 大ウツボは開幕スノーテを視界に入れたのにもかかわらず、なんの反応も示さなかった。それはつまり、やはり正気を失っている状況では彼女をキーにスカウトないし、浄化をすることができないということである。


 相手は超巨大な大ウツボ。大型トラックさえ飲み込めそうなほどの大口を持ち、その全長はあのリヴァイアサンにも迫るほど。

 イベントレイドバトルとして大勢の人間で対処しなければならなかった、〝あの〟リヴァイアサンと同様の巨体を、今度はたったの三人で攻略しなければならないわけだね。


 もしかしたらリヴァイアサンよりも大きい可能性すらある。なんでこの子レイドバトルじゃないんだろうね。謎。八両編成の電車を五本くらい重ね合わせてまとめたくらいの大きさがあるんじゃなかろうか? 尾ヒレのひと振りで吹き飛ばされてしまいそうだ。


 さて、そんな巨体を相手するフィールドはというと、ほぼ海の中である。前に扉を開いたときに気がついたことだが、扉の中はなぜか水中になっている。乾いた建物内から海の中に飛び込むわけではない。扉の中が海そのものになっている。ゲーム的な演出なのか、扉を開けても水が廊下にまで押し寄せてくることがないため、完全にボス戦専用フィールドという形になっている。


 そのため、事前に水中呼吸用のバフと移動を容易にするバフを全員にかけて挑んでいる。時間はわりと長く続くため、しばらくは大丈夫だが……その時間内に終わらなそうならば再びバフをかける必要があるけれど……ま、シャークくんに乗せてもらっていれば大丈夫でしょ! 


「シャークくん、立ちますよ」

「クォォォ」


 歌うような彼の声が海中に響き、私は流れの早い急流に浸かってるような状態の中、立ち上がる。支えは素早くレキがやってくれるから問題なし。さすがレキお爺ちゃん! 略してさすレキ。背筋までしっかり支えてくれているツタを意識しながらシャークくんの背中で舞い始めると、ツタは流されない程度に緩まったり支えてくれたりしながら私の舞をサポートしてくれた。


 コメント欄でも器用なツタ使いにレキを褒める言葉がずらりと並んでいて気分がいい。そうでしょうそうでしょう! うちのレキお爺ちゃんは有能だからね!! 私に似て!! 


 一気に「なんて???」が並ぶコメント欄に逆に爽快感を味わいながら舞を続ける。


「神前舞踊『疾風の舞』、それからもういっちょ神前舞踊――」


 ほれほれバフを次々追加ぁ!! みんなみんなつよくなーれ!! 


 特に敏捷が今は大事だ。少しでも上昇させておかないと、ちょっとミスるだけでウツボの攻撃は当たってしまう。身じろぎしただけで水の流れが変わってしまうのだから、動きやすいにこしたことはない。なるべく水中での動きづらさをカバーするためにバフも入れているが、それ以上に相手のほうが動けるだろうからね。ここは水中。よほど努力しなければ水生生物の独壇場になってしまう。



 ボス戦フィールドになったからかめちゃくちゃ広いし、スーちゃん達の姿がどんどん遠くなっていく。まあ、あの二人は大丈夫だろう。手術にとりかかるのは私の役目だからね。スノーテも氷系のスキルがある程度使えるようだったからオボロのサポートを頼んでいるし、スーちゃんのほうも大ウツボを捕らえるための準備中。


 ちっちゃい体を大きく使って、私みたいにバフをかけるのもやってくれている。最近覚えたスキルらしい。お姉ちゃんと同じのやりたーい! みたいなノリだったみたいなんだけど、あまりにも可愛いと思う。


 海の中で反響するウツボの声が、それだけで範囲攻撃となって降り注いでくる。が、それに関しては問題ない。シャークくんにはウツボを追いかけるのに集中してもらい、私が攻撃を弾けばいいだけ。ただただ追いつくことに集中! 

 まずは尻尾の先に刺さっている槍から摘出にかかる!! 


「もう少し……もう少し……今ですレキ!!」

(おう)


 尻尾まで近づいたタイミングでレキに号令。

 素早く伸びたツタが尻尾先を掴んだ。さすがに槍そのものに巻きつける気はない。石になっているとはいえ、あれらを刺された当時は正気を失うほどの痛みだったろうことは想像に難くない。しかも全身にあるのだから、よほどだ。あれを掴むときは、しっかりと固定して氷で感覚を鈍らせてからにしないと。


 シャークくんに固定されているレキが尻尾を掴んだため、シャークくんも泳ぐ動作を緩やかにしていく。尻尾に掴まってさえいればそのまま連れ回してくれるのだから、あんまり頑張りすぎるのは労力の無駄だ。その分引っ張られるレキの労力がすごいので、早めに移動して拘束しにかかるに限る。


「行きますよぉ〜!!」


 そして私は……繋がっているレキのツタを這って渡った。走らないんかーい! とか、立って歩かないんかーい! とか、いろいろとツッコミが入ってくるが無視だ無視。別にそれをしてもいいんだけど、失敗する確率があるようなことをしたくない。とても、とても、とーっても恥ずかしいし笑いを誘うのは分かるが、これが一番確実なのだ!! 私は!! 効率を考えてこうしているのだ!! 


「秒で切り抜き作られてる〜!!」


 チラッと目に入ったコメントですでに切り抜かれていて草が生えた。笑わせるのはやめてほしい。思わず力が抜けちゃうかもしれない。


『優雅()な舞姫――這う!』……じゃないよ!! 笑っちゃうからやめーや!! 


「おし、ついた!! レキ!!」

「応」


 そして、レキがシャークくんから離れて私の取りついた尻尾までシュルシュルとツタを縮めてやってくる。取りついてからすぐさま彼は自分達を尻尾、そして刺さっている武器両方に固定して最初の役割を完遂する。

 それから、今度は並走するシャークくんが全力で泳いでウツボの前に回ってヘイトを稼ぎ、オボロ達地上組の元へ誘導。地上……いや海底か? に近づいたタイミングでオボロとスノーテ、そしてアジオくんと三か所から大規模な氷系スキルを発動。


 大ウツボの胴体を凍らせて拘束開始する。海底から繋がる氷の紐でぐるぐる巻きにされた状態だ。泳ぐことができなくなって重さで海底に着いたものの、きっと大ウツボのことだ。うかうかしているとすぐに拘束を解いてくるんだろう。だから急いで最初の摘出を開始しなければ。


「次、ジン! 麻酔を!!」

「んなーーーーお!!」


 という名の電撃だけど。

 オボロに乗ったジンがすぐにウツボに電撃を浴びせ、オボロが尻尾側に近づいてくる。その間に私は清水を手に持ち、石化した鱗の上で蓋を開ける直前の格好をして静止。


「オボロ、私の手元を凍らせてください!」

「アオオオン!」


 私の『手ごと』丸く中に空洞を作るように凍らせたオボロの器用さに拍手! 

 そう、水中で石化解除用の薬をかけるのがとても難しいなら、どうあがいても当たる状況で直接ねじ込むに限るよね!! 結局は脳筋戦法だって? シンプルイズベストでしょう!! 結果的にできればいいんですよできれば!! 


 というわけで、水の中っていう条件は変わらないものの、絶対に当たる位置で開封した清水を傾け――すかさずレキが刺さっている武器のみにツタを巻きつけた。尾ヒレを縛っていたツタは離れ、レキを持ち上げた私と離れないようにお互いの体を巻きつけていく。


 ゴゴゴゴという地響きのような『声』が響き渡り、そして氷にピシリと亀裂が走る。しかし頑張ったおかげか、武器の刺さっている部分の石が徐々に綺麗な鱗に変化していく。


 石化解除。まずは一ヶ所目、成功だ! 


 範囲攻撃の咆哮があがる。

 そして、一気に浮上。遠心力がぐっとかかって体が引っ張られる。


「う、ぐっ」


 ウツボの悲鳴があがる。

 石化で固定されていた武器が私達に引っ張られ、抜けたのだ。


 同時に海中へと投げ出され、大ウツボがこちらを見る。

 ヘイトがこちらに向いたのだ。


「っく、シャークくん!」


 噛みつき攻撃がくる! 

 そう思った直後、横から攫うようにシャークくんが私達を咥えてその場を離れる。


「ふ〜、危なかった。ナイスですよシャークくん!」

「クォォォォォォン!」


 喜びの声をあげるシャークくんを撫で、そのまま体を固定してもらって第二ラウンド開始だ。


「時間がかかる? 動画的にはそれだと面白くない? ノンノン、手術にエンターテイメントを求めるのはナンセンスですよみなさん!!」


 抜いた武器はウツボから離れた瞬間、光になって消えていった。そこはゲーム的な都合だね。捨てる場所どうしよって思ってたからありがたい。

 有名になったからか、流れていく肯定的じゃないコメントにもとりあえず自分のスタンスについては話す必要があるかな? と思って笑顔を作る。


「私はハッピーエンド至上主義なんです! だからそのためにはわりと泥臭いこともやりますし、延々同じ作業でもやりますよ? 必要なのは集中力! 皆さんもそういう私を見に来てくれているんでしょう? ですから……」


 間を置いて、叫ぶ。


「視聴者さんはぁぁぁ!! 私についてきてください!! つまんないと思った人は切り抜きをどうぞぉぉぉぉ!!!」


 やば、遠心力すごすぎてめっちゃ間伸びしちゃった……ダサすぎる。ま、いつものことか。


 こうして、ウツボの摘出手術は全ての武器を抜き去るまで延々同じルーティーンをこなしていった。


 それからはいよいよ――『再会』のときだ。


明日の夜8時にも『幕間』を更新いたします。ご了承ください。ちなみに、幕間の内容は……「とある少女の独白」です。


ほら、この章は海城のシナリオと同時進行でケイカが可愛がっている『あの子』のシナリオでもありますから。その関係のアレです。


お楽しみに!

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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱりこういうところはノブレスオブリージュな感じでエレガント……すぐに格好良く啖呵を切る(良い意味)のでやはりエレヤン……?
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