表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【漫画単行本4巻発売中】神獣郷オンライン!〜『器用値極振り』で聖獣と共に『不殺』で優しい魅せプレイを『配信』します!〜  作者: 時雨オオカミ
『深淵咬魚にハッピーエンドの福音を』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

774/854

暴走ウツボの大手術 前


「お待たせしてしまい、すみません」

「いいえ、大丈夫ですよ。準備は大切ですもの」


 海城の入り口で手を振るスノーテのもとへ歩き出す。

 彼女を仲間にしてから数時間。スーちゃんのためもあっていったんログアウトして休んだりご飯を食べたりしたあと、再び合流することとなっていたのだ。


 友達を救うための前準備とはいえ、すぐに向かわずに休むことを選択した私達に彼女はなにひとつ文句を言うことはなかった。一番の友達。大ウツボのエアレーを助ける時間が目の前にもう迫っているというのに、一人で突っ走ることさえもないその精神力は尊敬に値する。さすが神獣を祀る巫女って感じだね。


「エアレーさん救出のメンバーをご紹介しますね」

「わたしのとこは変わらないけど!」

「スーちゃんはまだ四匹以上連れていないからメンバー固定だもんね」


 オボロが私の隣を歩く。

 反対隣には地面から突き出た特徴的な黒い背びれがあって。

 三歩後ろには悠然とした姿で歩くレキ爺の姿。

 そして最後に、私の肩の上を我が物顔で陣取るジン。


 そう、緋羽屋敷に一回戻ったときにメンバーチェンジをしてきたのだ。珍しくアカツキを連れていないわけだが、今回は大ウツボ戦に役割を持てそうな子達を中心に編成してきたから仕方ない。アカツキは地上戦なら頼もしいのだが、バフがあっても海の中で巨大な魔獣を相手にするには不利だ。それなら、作戦を立ててアレをやってほしい、コレをやってほしい……って選出していったほうがいいだろう。


 アカツキを連れて行けないのは本当に残念だが、わざわざアルターエゴを雇って緋羽屋敷のほうに私の配信を流してもらうことにしたので、アカツキ達も私達の活躍を見て応援できるようにしてある。アルターエゴを雇うのにお金がいるのでレキにはちょっと反対されたが、押し切った。


 ちなみに二匹雇ってあるので、こちらの様子を緋羽屋敷で見ることもできるし、こちらの様子を見た待機組の様子を中継してこちらが見ることもできる。私達の活躍を見ててよね〜! と配信カメラに向かってドヤ顔をすると、横からレキのツタが伸びてきてほっぺたをぐにーっと両側から押し潰される。はいはい、思ったより稼いでるから大丈夫よお爺ちゃん。どーんと構えててちょうだいな、と。


「こっちがオボロで……」


 それぞれの自己紹介を口頭で行い、三人並んで歩き出す。

 その途端、聖獣達はお互いの親交を深め合うように後ろに下がって私達に付き従うように追従した。特にレキお爺ちゃんは最近あまり出ていなかったこともあって積極的だ。さっそくアジオくんに気に入られてダル絡みされている。ギャル男に懐かれるお年寄りを見た気分だ……。


「あ、それから今回このメンバーにした理由ですけど」


 ついでとばかりに、配信向けでメンバー選出理由と作戦を話すことにした。


 大ウツボが出現する大部屋は以前の探索で特定済みなので、そこまで行くのに気をつけるべきことは毎回復活するタイプの罠に引っかからないようにすることだけだ。罠に関してはもう何回も往復して暗記してあるので問題ない。こんな風に勉強でも暗記ができればいいんだけどねぇ……残念ながら興味のある事柄にしか集中力というものはなかなか発揮されないものである。悲しいね。


「シャークくんは水中なので、いつもの通り私を乗せてもらいます。大ウツボとは水中戦になるでしょうし、近づくにしても彼なしではどうにもなりません」


 ようは足担当である。彼ならでっかいウツボ相手にも負けずに追いつけると信じているので、緋羽屋敷に帰った時点で念入りに打ち合わせをしてある。任せて! という意味での尻尾ハイタッチをしてくれたので期待大だ。重労働になるだろうが、頑張ってほしいところである。


「レキは捕獲担当ですし、ジンは麻痺らせ担当です」


 海の中だけど直接触れて電気を流し込むタイプのスキルも存在したため、今回はそのスキルを取得してもらっている。パラライズ・ファングという結構そのまんまな名前のスキルだ。


「まあなんというか、手術にたとえるとジンは麻酔担当って感じでしょうか」


 ただでさえ長期戦になりそうなのだ。巨大な相手を押さえつける手段は多いにこしたことはない。そして、オボロもそのうちのひとつの手段である。


「んで、オボロは傷口付近を凍らせて、あるかは分かりませんが痛覚を鈍らせる担当です。こちらもある意味麻酔担当ですね。ジンとオボロで麻酔コンビです。あと、尻尾のほうを凍らせて機動を削いだりとかですね。


 さて、作戦はこうだ。


 手順一、大ウツボの傷口付近になんとかして張りつこう! 

 手順二、傷口が水中にないときに清水をなんとかしてふりかけて石化を解こう! 

 手順三、石化を解いたあとは痛覚などを鈍らせているうちに刺さっている異物をなんとかして取り除こう! 

 手順四、これを繰り返して異物が全部除去できたらなんとかして完全拘束をしよう! 

 手順五、拘束した大ウツボにスノーテが呼びかけて正気を取り戻したら完了!! 


 こんな感じである。

 なんとかしようばっかじゃん! とコメントで大ブーイングがあったが問題ない。なんとかしよう! の中身は一応考えてあるからね。ま、これだけ教えてあとは配信中にどうやるのかを見ていてもらえればいい。


「だって全部ネタバレしちゃおもしろくないでしょう?」


 とりあえず、視聴者に向けた作戦の説明と私達視点のおさらいはこれで終わりだ。

 大ウツボ戦でなにが大変なのかって、石化解除アイテムとして唯一知っている清水が『液体』ってことだよね。水中で使ったらどうなると思う? ……はい。この作戦を立てている時点で分かると思うけど、よほどゼロ距離で液体を当てるとかしないと無意味になります。だからこそ、大ウツボの傷口付近に張り付く必要性があるんだよね。


 気分は巨像をよじ登ってなんとか攻略していくレトロゲームの主人公である。助けるわけだから最後の一撃とかは特にないけど。むしろ一撃入れた痕跡を除去していくスタイルだけど。


 さて、あとは作戦中の大立ち回りまでお楽しみ。

 三人で今の世界についてを雑談しながら、とうとう例の部屋の前までやってきた。


 少しだけ緊張してお互いの顔を見回す。


「刺さった異物を暴れる生き物から外して治療する作業だなんて、なんかすごい大手術ですよね〜」

「そうかもしれませんね」

「ま、やるからにはこのオペ絶対成功させますよ? エアレーは今、痛みと不安と悲しみの中に取り残されてしまっています。そんな彼女を助ける道は非常に困難ですが、怖くとも勇気を持って挑まねばなりませんね」


 いや実際、暴れ回る魚類相手に石化解除して異物除去って普通に難易度高いよね。通常サイズの魚でも生きてるやつでやったらびちびち暴れてまともに触れることすらできなさそう。


「よし、頑張りましょう」


 私が気合を入れて扉に手をかける。

 そのとき、背後で聞こえた「手術……勇気……」という言葉に振り返る間もなく、扉の隙間からこちらを視認した大ウツボによる大音声の威嚇がぐわんと鼓膜を揺らすのだった。


 今、気にしている暇はない。

 手段も目標値も難易度の高い……暴走ウツボの大手術が、はじまった。

神獣郷オンラインのコミカライズ22話前半の配信が開始いたしました!! ぜひぜひご覧くださいませ!!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ