※ このあとツッコミの嵐が巻き起こりました。
覚悟を決めて地下牢に踏み行った私は、その第一歩目からもうすでに心が挫けそうだった。
カツ、カツ、と思っていたよりも高く響く靴音。不自然に途中から黒く塗りつぶされてなにも見えない階段下の雰囲気。正直なところ、バリバリのホラーを感じるそのシチュエーションに泣きが入りそう。
それでも私はしっかりと一歩一歩踏み締めながら階段を降りていった。
なぜならそれは、背後に守るべき存在ことスーちゃん達がいるからである! お姉ちゃんたるもの、年下には格好悪いところなんて見せないのだ! もう何度も見せてないかって? そんな事実はなかった。いいね???
「アカツキ、灯りにになって先導できますか?」
「カァ!」
アカツキに頼むと、彼は肩から飛び立ってチロチロと光る緋色の火を纏いながら飛びはじめる。べ、別に先頭が怖いからって頼れる相棒に丸投げしてるわけじゃないんだからね! 実際足元が暗いから、明かりを灯してくれたほうがいいってだけなんだから!!
『じゃあ扇子開いて灯りにすればいいじゃん』
「………………」
コメント欄概要に『正論禁止』って書いておこうかなと一瞬考えて、ギリギリ思いとどまったとかそんなことはない。ないったらない。
無言で扇子を開き、ぼわっと灯る火を見て安心する。それを見た視聴者各位が散々に煽ってきているが、スーちゃんには見えないように扇子で隠した中指を静かに見せつけて階段を降りていく。キレ顔なんてものはスーちゃんには見せられないので、もちろんそちらもしっかり隠して。今ならアカツキもこちらを見ていないし、叱ってこないからね。
私のヤンキームーブに対して無邪気にきゃっきゃと喜ぶコメント欄に、ふっちょろいな……と思いながら階段を降りきった。地下の冷たい空気をなんとなく感じるので、もしかしたら雪原並に寒い環境なのかもしれない。適温でほぼ固定されているゲーム内で冷たく感じるってことは、相当だからね。
暗い部屋の中、アカツキが照らして見せてくれている情報によると、廊下が続いている中点々と牢屋のスペースがあるみたいだ。牢屋、壁、牢屋、壁みたいになっているようで、牢屋同士が地続きになっていたり、鉄格子で区切られているだけってわけでないらしい。しっかり一部屋一部屋区切られている。
その中には、もちろんほとんどなにもない……が、残酷表現をオンにしている私には時々骨のようなものが見える場合があった。スーちゃんには見えていないようだが、牢屋の中に囚われたまま亡くなった獣達がいたという表現だろう。
それを口に出さないようにしつつ、それぞれチラッと確認しながら移動する。こう言う場合、大抵一番奥に………………やっぱりそうだよね。
「ここです、ね」
廊下の突き当たり。一番奥にあった牢屋の中に人影があった。
でも、それはたたの人影じゃなくて、微動だにしない……灰色の肌がアカツキの炎に照らされて私達にも確認できる。
「うーん、ザクロちゃんも少し火を使ってみてくれますか? 中のほうまでしっかり見えないので……」
「ぴひゅい!」
鼻息混じりに元気な返事をしたザクロちゃんは、私を一度ぎゅっと抱きしめてからのしのしと移動して、牢屋の前に来ると火を吐き出す。口元からチラチラ見えている火の舌を見せてくれるだけでもかなり明るさは増したが、尻尾全体に纏わせた火がより明るく牢屋を照らす。
特に、尻尾は牢屋の隙間から中に差し入れることができるので、より鮮明にその人影を見ることができた。
「この人が……巫女さん」
そこにいたのは、紛れもない巫女さん……水神の巫女『スノーテ』の姿だった。巫女って役職通り、創作でよくある巫女さんっぽい服装をしていて、羽衣のような布を纏っている。髪は映像のときとは違って高い位置でポニーテールにし、貝殻の飾りと鈴がついたリボンで結っているようだ。これがスノーテの本気モードってことなんだろうか、表情はキリッとしているが、同時に少し悲しそうでもあり、両手を前に出している状態で停止している。
……そう、案の定スノーテは石像になっていた。
それも、誰かの肩を掴んでなにかを言っていたかのようなポーズで。
その腕の中に、今は誰もいないけれど。それでも、肩を掴んでいたと分かるような手の伸ばしかただった。
メーサをこの城に封印したのと同時に、自分も石像になってしまったんだっけ。ならあの表情は、もしかしたら封印をする前にメーサが正気に戻ってくれるのではないかという期待混じりの、悲壮な表情だったのかもしれない。
きっかりと自分の仕事に誇りを持って封印を実行していながら、それでもまだ正気にかえってくれるのではないかと言う期待。いや、そうなってくれと考えている悲壮感だろうか。
あれは友達にかえってきてほしかった少女の、悲痛な叫び……なのかも。
「早く戻してさしあげませんとね」
さて、そのためには牢屋の中に入る必要があるわけだが……うん、鍵は持ってない。でもまあ、なんとかなるでしょう!
「よし、バフをいっぱいかけるのでザクロちゃんやっちゃってくださいな!」
なにをするかって?
物理で対処します。つまり。
「さあザクロちゃん! こんな牢屋なんてぐにゃあってしちゃってください!」
「ぴゅるるる!」
『発想が優雅じゃない』
うるさいこちとらエレガントヤンキーやぞ!!
これぞ、歓迎していなかった呼び名を自ら振りかざす勇気!
……なお初回ではないもよう。
閑話休題。
無事、炎による熱とザクロの力によって鉄格子はぐにゃあっとなった。
スーちゃん達も手伝おうとしてくれたものの、どうやらステータスが足らなかったらしく失敗している。おっきい子……いや、ザクロちゃんは偉大である。よしよし、秘蔵の高価な宝石をおやつとしてあげようね。金策になると思ってとっておいたやつだけどザクロちゃんのためだもんね、仕方ないよね。うん、美味しい?
「ぴゅるる〜!」
差し出された宝石を一口で食べたザクロちゃんは、笑顔になってその場でダンスを始めた。そうかそうか、そんなに美味しいのか〜! よかったねぇ。
アカツキの「君さあ……」みたいな視線からへあえて目を逸らし、さっそく牢屋の中に侵入する。
そして巫女さんに近づいてから、まずはじっくりと観察。
うーん、私よりも身長高いなこの人……可愛い系の顔に見えて、親友を命がけで止めようとするところとか肝も据わっている感じがするし、格好いい系のお姉さんでもあるかもしれない。いいねぇ。
しかし。
「どうしてこんなところに石像があるんでしょうね」
ポツンと疑問を漏らす。
だってそうだろう。この人はメドゥーサと対峙して石になったはずだ。なら、普通はメドゥーサのいる場所に石像があるというのが自然じゃないか? 封印を施すのは間に合ったけど、石像にはなっちゃったというのならメドゥーサに石像を壊されていないこともわりと疑問だし。
映像だとメドゥーサになってしまった時点で思考は擦り切れていたような感じだったし、仲良くなった相手だからといって石像を壊さず生かしておくなんて選別をできる状態とはとても思えない。石像にしたらすぐにその場で見境なく壊して殺してしまいそうだったのに。
どうして巫女さんは殺されずにすんだのか……ご都合主義というのならそうなのかもしれないけれど、ちょっと気になる点だ。
誰かが石像を命がけで移動させた? それとも、石像が無事だったのは偶然で、石像にされた現場が実はここだったとか……。
「……ま、それも本人から聞いてみなければ分かりませんね」
誰かを抱きしめたような姿で石となっている少女を見つめる。
「それでは、いよいよ石化解除……しますよ」
血痕を残していたリンデさんのことも気になるが、ストーリーを進めないことには彼女の元にまで辿り着けない気もしている。だから、こちらが最優先。
優しい……けどたまに心を折ってくる神獣郷というゲームを信じて、清水を石像の頭からふりかけて――。
「……っあ」
光るエフェクトが石像を覆ったあと、色を取り戻した少女がその場に崩れ落ちる。そして、ポカンとした表情で私達を見上げていた。
「わ、わた、しは………………いえ、あなた達は……?」
なんとなく自分や周りがどうなったのかを察していそうな巫女さんが、悲痛な顔をしている。だがしかし、私は気休めにしかならない慰めの言葉なんてかけるつもりはない。
まずはそう、自己紹介から始めるべきでしょう!
だから私は、その疑問に胸を張って答えた。
「私は共存者。聖獣達とともに生きる――世界一優雅な舞姫。ケイカと申します」
恐らくこのときの私は、今世紀最大のドヤ顔を全国に晒すこととなっていただろう。
「そしてこっちは一番の相棒、アカツキ。それとジンと、シャークくんと、ザクロちゃんです」
自分の相棒達のことも紹介すると、次にスーちゃん達が自己紹介を始める。
そして、隣で挨拶をするスーちゃんの頭を撫でながら、ポカンとする巫女さんに手を差し出した。
「水神の巫女、スノーテさん。立てますか?」
しばし迷った様子で目線を彷徨わせていた彼女は――静かに私の手をとるのだった。
※ このあとツッコミの嵐が巻き起こりました。
神獣郷オンラインのコミカライズ21話後編が更新されております!今なら前半と合わせてご覧になられますので、コミックポルカ様の公式サイトか、ピッコマなどでぜひご覧くださいませ!
いよいよライジュウレースが始まりますねぇ。これからが楽しみです!!




