【急募】ツッコミ
しいん、と静かな場所で顔を上げる。
目の前に並ぶのは本、本、本……一面の資料が広がっている景色。
背表紙だけで名前を確認していくが、どうにも骨が折れる作業だ。
本棚を調べれば検索画面が開き、本の名前を入力すればこの図書館に所蔵されているものの内容は出てくる。しかし、ほぼピンポイントで本の名前を指定しなければ出てこないのだ。私が探しているように、聖獣・神獣の伝承について……という曖昧な検索の仕方では上手く引っかからない。ちょっと悔しい。
一歩一歩と横にずれながら棚を見上げる。
いや、膨大すぎない? ここから探すの? 無理ゲーでは? なにこのクソゲー。
「おや、ケイカさん」
振り返る。変態がいたので棚に視線を戻す。
「あの、ケイカさん?」
「なんでしょうか、会長さん」
ストッキンさんである。再びチラリと振り返る。
相変わらず紳士みたいな格好をしているイケオジである。顎髭がダンディ。しかし髭があるだけでシワとかはそれほどでもないので、イケオジと言っても二次元基準だ。多分髭がなければ普通にイケメンな気がする。
「こんにちは」
「こんにちは」
挨拶されたので挨拶を返す。おうむ返しされた彼は薄い色素のタレ目の、さらにまなじりを下げて困ったように曖昧に笑う。
「ええと」
「どうしました?」
「なにかをお探しで?」
「ええ、そうですね」
塩対応。
感謝はしているが、スレッドで話しているときの興奮っぷりが別人のようで怖いので少しヒいているのだ。
スレッドでは敬語じゃないし、多分あっちの変態度の高いほうが本性なのだろう。私も本当は敬語キャラなんぞではないので、人のことは言えないのだけれども。
視線を巡らせて考える。果たして神獣への進化のために伝承を探していると言っても良いものなのか。あれは鳳凰にわざわざ対価を払ってまで得た情報である。そうそう他人に教えるべきではない。
「少し、探し物を。けれど、お話はちょっと……」
「もしや、進化のヒントを探しに?」
え、なんで知ってんのこの人こわ。ストーカー?
「おや、その反応はビンゴですね。ならご一緒しましょう。私めも麒麟に聞いてここに来ているのですよ。普通のプレイヤーが図書館に訪れることなんて、そうそうないでしょう? あなたがここにいるということは、私と同じだと思ったのですよ」
「……大した推理力で」
「光栄です」
へにゃっと笑った顔は案外可愛らしい。イケオジってずるい。許しちゃうじゃないですか。
「ところで、先ほどから盗撮に協力しようとしているあなたのネズミさんは踏み潰してもよろしいものだったでしょうか」
「……」
ストッキンさんが笑顔で固まる。私も笑顔で拳を握り、親指だけを下に向ける。それから同じ手で首元を一直線にスイング。絶許。
「レッグ、戻ってくれ」
ちょろちょろと背中にカメラを背負った白いネズミがポケットの中に入ろうと……したところをぐわしとカメラだけ奪い取る。念のためだ。
「あっ」
「念のため確認させていただきますね?」
カメラをいじり視線を落とす。
「通報」
「すみませんでした」
綺麗な土下座だった。
「あ、それじゃあ示談しましょう? そうですねえ、ゴールドを1万程度なんてどうでしょう? 払ってくださったら、通報BANまったなしの罪状を見逃しましょう。その代わり、他の人にこんなこと、しちゃダメですよ」
「……ケイカさんだけ見ていろと?」
なんでそんな解釈した。言え。いや、やっぱり言わなくていいや。この人本当にやばいな? まあいいや、便乗しておこう。
「ええ、どうか私だけを見てくださいな。もちろん、動画を……ですが。どうですか?」
困ったように笑っていたストッキンさんはへにゃへにゃの顔で了承の言葉を吐いた。ちょろい。そして元々狂信気味だったものの、更なる狂信者になったかもしれない。信者ゲットだぜ。これで私の信仰度も安泰に向かう。
多少扱いが怖いけれどゲームの中ですし、いざ扱い切れなくなったら通報しよう。装備を作ってくれる職人としては最高級の腕だし、ここでいなくなられても正直困るのだ。
「それじゃあ……一緒に図書館デート、しましょうね」
「ご一緒させていただきます」
小悪魔的笑顔で受け答えする。あ、楽しい。もしや女プレイヤー一人でギルドが崩壊するのってこういうのが原因か? まあいいや、そこまでするつもりはないし。
なお、このときアカツキ達はそれぞれで本を見て回っていたため、止める者が皆無だったのでした。
ガチ信者ゲットだぜ。
色々したたかだし、利用するものはとことん利用する。ストッキンさんも頭が緩いわけではないけれど、まあ面白いしいいかなっと話を合わせている。ストッキンさんも人気プレイヤーの装備を作る職人として有名になるのでWIN-WIN。
お互いにお互いを利用しているのは承知の上だったりする。




