仕切り直しをしましょう!
「ふふふ、コメントがしんどい……とかつら……とかで埋まる瞬間はたまりませんねぇ!!」
「そういうケイカさんも、VRなのに目元拭ってるじゃないですか」
「これは目にゴミが入った気がしただけです!」
「なんともまあ、ベタな」
ストッキンさんとおしゃべりしながら、ストーリー配信テロの様子をスクショする。皆が見ている間は休憩しよ〜っと思っていたが、結局ストッキンさんとの会話で全部終わってしまった。まあ、その分気が紛れて本気で泣きそうになることはなかったんだけども。
「さーて、今は何時で……あ」
「おねーちゃん」
が、残念ながらスーちゃんのおねむの時間になってしまったようだった。
羽織りの裾を引かれ、ちょっとしゃがんで目を合わせると、半目になった彼女がぷくっと頬を膨らます。
「ログアウトのじかんになっちゃった……」
「ん、分かっていますよ。今日はもうバイバイですね?」
しょんぼりしているすーちゃんの頭を撫でると、私の手を上から覆うようにしてザクロも背後から撫でるのに加わる。一人と一匹で撫でられたからか、スーちゃんは満面の笑みを浮かべて頬を擦り寄せた。
「あのね、あのね! おねーちゃんだけで先に進めちゃやだよ!」
「うんうん、分かっています。ちょっとだけ地図埋めとかしてますね。肝心なところは一緒に、ね?」
「うん!」
手を差し出されたものの、一瞬なにか分からなくて泣きそうな顔をされてしまった。小指だけを差し出されてようやく理解する。ごめんと一言謝って指切りげんまんをすると、また彼女は笑った。おねーちゃん鈍くてごめんね!
「それじゃあ、またバイバイ」
「バイバイ!」
スーちゃんがログアウトするのと同時にスパチャがコメント欄に飛んでくる。その金額がだいぶすごくてギョッとしちゃったけども、誰がスパチャしてきているのかがなんとなく分かってしまう文面だったので苦笑しながらお礼を告げる。
「ありがとうございます! まだまだ私は配信を続けますが、マザースイートさんはおやすみなさい! ばいばーい!」
いいのかなあ……信頼してくれてるのは分かるんだけど、私にお礼の課金をするならスーちゃんになにかいっぱい買ってあげてほしいなあ。お菓子とか。いや、病気によってはお菓子はダメか。本とかおもちゃとか?
感謝の気持ちはすごく伝わってくるから嬉しいんだけどね。
「さて、今日のこのあとのことですが……仕切り直しをしましょう! 約束通り肝心な部分はスーちゃんが来てからやることになるので、ここから先は地図埋め配信となります。え、私も夜更かしするな? 大丈夫大丈夫、若いうちしか徹夜できないって聞きますし! 今のうちにやっておかないと! え、背が伸びない? 今でも十分なので気にしません! 夜更かしやめろコールされても気は変わりません! そんなこと言いながら皆さん配信続いたほうが嬉しいでしょうに!」
検証班の皆さんがしんどいムービーから立ち直って散っていくのを横目に、私は私で今後の予定を視聴者さん達に伝えていく。コメント欄と会話が続くのはけっこう楽しいので、初期に比べればかなりトークにも慣れてきたと思う。わりと気安い感じにおしゃべりできるから、そんなに辛くないのもあるかもしれない。元々人と話すのは嫌いってわけじゃないからね。
「ですので、ストーリーのほうを楽しみたいかたはこのくらいでお別れでしょうか? 雑談しながら人力で地図埋めをするだけなので、絵面が結構地味になっちゃうと思いますが……」
『地味な絵面も垂れ流していくの、わりといつものことでは???』
『直球で草』
そうだけど!! そうだけども!!
『それでも見守ってたいんだよこっちは!! 言わせんな恥ずかしい!!』
『うわ……コメントのツンデレ需要ない……』
次々にツンデレやらキレ芸をしだすコメント欄に笑いながら、腕の中に降りてきたアカツキをもふる。羽根の揉み心地がちょっと悪くなってきたので、もう少しだけ配信を続けたらブラッシングをしたり休ませてあげる必要があるかもしれない。相棒達のコンディションは攻略時の生死に関わるので大事にしておかなければ……ただもふりたいだけって気持ちもあるが。
「あ、でも呪いのことが分かったので、メンバー交代をする必要がありますね……」
そう言って視線を向けると、肩口に巻きついたシズクと目が合う。そうだね、残念だけれど、シズクを連れていくと危険だ。身の危険がある以上、蛇っぽい龍であるシズクは屋敷でお留守番していてもらったほうがいい。
交代先は……プラちゃんも見た目で恐らくアウト。陸上探索ならレキお爺ちゃんでもいいし、オボロがいれば機動力が段違いだが……水中探索担当のシズクがいなくなるのだから、やはり同じ役割を持てる子を連れてきたほうがいいだろう。
「シズク、シャークくんと交代しましょう」
「シャア」
くりくりと頭を指先で撫でてあげて、龍笛を準備する。
くるくると回しながら出すパフォーマンスを加えつつ、口にそっと寄せる。横目で見れば、頷いたシズクとまた目が合った。
交代の手順が終わる前、ニコッと笑ったシズクは尻尾を上げて私の頭をトントンと撫で、そして頬にぐいっと口づける。突然のキスにびっくりしてしまったが、さすがに音は外さない。
シズクからの親愛の証。
ある意味色めきだつコメント欄を背景に、シズクは魔法陣に飲み込まれていった。続いて、シャークくんがまるで輪を潜るショーでもするようにその場に現れる。
「クォォォ!」
呼んでくれてありがとうとでも言うように、シャークくんが私の周囲をぐるぐると空中で泳ぎ回る。
「うへへ、シズクにキスされちゃった。ちっちゃくて少し冷たい口で可愛いですねぇ」
百合だなんだと盛り上がるコメント欄はいつものことだとして……いや、なんでそんな大袈裟に??? わりと相棒達とは似たようなことしてるよね???
まあいいや。
「シャークくん、いいですか。この海城内は水浸しで、探索するにも水中に潜ったりする必要があります。それに、前来たときから分かっているとは思いますが、ここにはあの大ウツボも出ます。あなたなら大丈夫だとは思いますが……できるね?」
「クォォォン!!」
任せろ! と言わんばかりに彼は大きく鳴き声をあげる。
なお、最初から最後まで飽きがきていたらしいジンは、休憩用に置いたテーブルの上で爆睡していたのだった。こっちも交代したほうがいいのだろうか……うーん、悩む。
「なあ、お……ん」
寝言喋ってる〜。
「うーん、でもお猫様だからなあ……しょうがないですよね!」
そう、お猫様だからね。飽きさせるこっちが悪いんだよね、仕方ないね。
でもとりあえず抱っこしてもふもふ猫吸いをしてやった。度が越したこれが苦手なジンは、ものすっごい渋い顔をしていたけれど。
そこが、可愛いんだよね……ジンには悪いけど。
この猫吸いはやれやれ顔のアカツキがド突くまで続いた。
あけましておめでとうございます。
今年も神獣郷共々よろしくお願いいたします!




