特殊ムービー!?
石化が解除され、ストッキンさんについてのちょっとした拡散をしたあと。
「ぴるるるるぅ!」
「わ!?」
私はザクロちゃんの全力ハグを受けていた。
「クァーーーーッ!!」
「シャ!」
「なおおおおおおん!!」
「ぶえっ!?」
いや、ザクロちゃんだけではない。アカツキにシズク、そしてジン。全員私に容赦なく飛びついてきて、口々になにごとかを言いながら頬ずりしてくる。
石化する前に私の指示を受けて、その通りにしっかりとスーちゃん達とともに戦闘を頑張ってくれていたが、石化してしまった私が心配で心配でたまらなかったらしい。だから治った今、全力で「治ってよかったー! 心配したんだよ!」とみんなで主張しているのだろう。なんていい子達なんだ。神獣郷運営さん、はよ全員分の素体になるリアライズ商品実装してくれ。迅速に。リアルでも愛でたい。
ちなみにスーちゃん達も自分のパートナー達と手と手を取り合って、ぴょんぴょこ飛び跳ねながら上手く戦闘で活躍できたことを喜んでいる。
それから……。
「あっ」
他にも戦闘に参加していた検証班の皆さんなのだが……そんな私達の姿を微笑ましそうに見ていることに気がついて、私はスススッとザクロちゃんの全力ハグから抜け出した。生暖かい眼差しで見守られているって状況を改めて認識しちゃったら、ちょっと恥ずかしくなってしまった。
「ぴるぅ」
私が腕の中から抜け出したことで、寂しげな声をあげたザクロちゃんが追いかけてきてまたガバッと覆いかぶさってくる。幸せだけど!! ザクロちゃーーーん、今はいったんやめて影メドゥーサになっちゃった人達がどうなったのか確認しよ!?
腕の部分をタンタンと軽く叩いて主張し、渋々と離した彼女のために手を繋いであげる。すると、それだけでザクロちゃんは花を散らしたかのようにぱぁッと笑顔になり、きゅっと私の手を握り返してきた。ぐうかわ。
ザクロちゃんに構いまくっていたせいか、首に巻きついているシズクがタシタシと尻尾を叩きつけてそっぽを向いている。末っ子に譲りつつ、でも自分も構われたいシズクお姉様可愛いね。あとで美味しい卵料理をご馳走してあげようね。
ひんやりとしたシズクの鱗を撫でると、近づけてきた頭が私の手にコツンと当たる。そして、ちろちろと出てくる二股の舌と、楽しげに揺れる頭の様子を見ると、もうすでに上機嫌そうだ。案外ちょろいぞクール系お姉様。
そんな感じで私がうちの子達と戯れていると、次々に死亡判定になってしまっていた人達が帰還してくるのが目に入った。よかった。ゲームだって分かってはいるけれど、目の前であんな風に影に飲まれていく姿を見るのはさすがに心臓に悪い。神獣郷は気をつけてさえいれば、ほとんど死亡するほどの危険がないから忘れがちだけれど……普通のゲームだったら、あんな風に死ぬのだって当たり前に起こるんだ。
私、他のVRMMOゲームできるのかなあ……うちの子達がいないって時点で根をあげる気がする。今までただのVRゲームならやったこともあるし、できるけど、MMOは神獣郷以外に行ける気がしない。それぞれのゲームで力の入れるところが違うわけだが、神獣郷はパートナー達やNPCなどの、いわゆる「キャラクター重視」のゲームだ。やたらと高性能でリアルな学習型Aiを使って、これほどまでに知性のある動物らしさを再現しているゲームは少ない。運営チームの変態的なケモ愛の賜物がこのゲームなのである。普通のゲームはもうちょっとバトル周りの性能に力を入れていたり、もっと対人のイベントを頻発させたりするみたい。
あくまで神獣郷はオープンワールドでケモを愛でつつシナリオを楽しむ「キャラ愛」と「シナリオ愛」のゲームなのである。だから戦闘はプレイヤースキルに依存することなく解決できるギミック式のものが多い。不殺クリアができるのだって、工夫をすればゲームがそこまで上手にできない人でもゲームを楽しむためのものみたいなところがある。ミズチ戦のあれはちょっと難しかったけど、あれだって毒消し系のアイテムを万全に用意していれば簡単にクリアできる類のものだからね。
だから私は神獣郷が好きなのだ。シナリオゲーだから配信映えもするし、動画勢もシナリオを見て楽しんだり、可愛い聖獣達を見て癒されたりするから、普通の戦闘多めのゲーム配信を見ないタイプの客層も取り込めている。
配信を見ていれば、マンション住みや私と同じようにアレルギーのせいでペットを飼えない人達の楽しみになってくれている割合が多めだ。私の配信から実際に神獣郷を買って自分だけのパートナーができたって言いながら課金してくれる人達もいるくらいだから、私の配信は結構販促にもなっていたりする。嬉しいよね。
みんな!! 配信もいいけど!! 自分だけのパートナーができるから神獣郷買って一緒にゲームしようね!!
一度離れたものの、もう一度ザクロに抱きつくと、「!」という顔をして二パァとゆるっゆるな笑顔になっちゃった。かわよ。
そんな風に神獣郷のゲーム自体を褒めるテロップを出し、配信内で販促したり、みんなを愛でながら戻ってきた人達と、戦っていた検証班の皆さんの動向を確認していると……なにやら新たな発見があったようでどんどん話し合う人数が増えていった。
そして、その大人数が全員こちらに向かってきて面食らう。
え、私にもなにか用なの?
その中の一人。検証班に混じって話し合っていたストッキンさんが代表としてか、一人みんなの輪から抜けて歩み寄ってくる。後ろに待機している人達は小声でなにやら話しながらウィンドウを出して書き込んだりしているようなので、掲示板に落とすような情報がなにか出たってことだろうか?
「ケイカさん、ちょっとよろしいですか?」
「どうしました?」
「それが……」
ストッキンさんが背後を振り返り、もう一人歩み寄ってくる。
それは、影に飲み込まれて影メドゥーサになってしまったあのときの後輩だった。彼の首にも、私と同じように蛇が巻きついていて、顔と頬を寄せている。
そして、真剣な眼差しの彼が言う。
「ケイカさんにこそ聞いてもらったほうがいいと思ったんで話します。多分、あなたが受けているシナリオに関わると思うんです」
ここで私はフリーズした。
「即死判定食らったあと、俺、特殊ムービー見たんですよ」
特殊ムービー!?
それってつまり、即死トラップを踏んで死ぬことで解禁されるものがあったってこと!?
「ムービーでは、まだこの海城が帝国の中心だった時代……みたいな感じで始まりました」
そして彼はムービーについての詳細を話し出した。
コミカライズ19話の後半が公開されました!
そちらもあわせてどうぞご覧くださいませ!




