つまりそれって助けてくれたってことですか!?
「ザクロ〜その調子ですよ〜」
「ピュルルルルッ!」
ドスドスと城の中を真紅のワイバーンが縦横無尽に駆け回る。
彼女は私が声をかけると、気合を入れるようにプシュー! と鼻息と共に炎を噴き出した。重そうな足音が実に可愛いですねなんて呟いたら、コメント欄からいっせいに「親バカ乙」とか言われるのだが、これもお約束ってやつかな。
探索に時間制限があるからスピードを意識してザクロちゃんに抱えてもらっているわけだが……。
「スーちゃん、バランスは取れていますか?」
「大丈夫だよお姉ちゃん〜!」
私達はザクロの腕の中に腰かけるような形で抱えられていた。
ザクロちゃんはでっかくて可愛い子なので、片腕で子供を乗せててもわりと走れるのである。まあ、敏捷が死んでる私よりも速いってだけなんだけども……なんならスーちゃんのほうが私やザクロちゃんより速いまであるかもしれないくらいだけど、彼女は私の移動法に付き合ってくれている。
……ザクロちゃんと並走してくるスーちゃんに、ものすごい罪悪感を覚えて仕方なかったという事情もあったりするが。
ビィナやジンも含めて全員ザクロちゃんにしがみついて歩き回る姿は実にシュールである。大家族を引き連れたお母さんみを感じる。
「にしてもこのマップ、分かるような分からないような」
さて、2号ちゃんからもらった手書きのマップらしきものだが……入口がどこなのかは分かる。そこから繋がっている通路もなんとなく分かる。島っぽくなっている瓦礫もなんとなく分かったので、それを足場に次々と移動して、落ちているものを拾ったりしながらの移動だ。
歯車的なものを拾って扉に使ったり……普通のRPGにありそうなギミックを解いて、ときにはスーちゃんにギミックを解く練習をしてもらったりしながら進む。
年上の私が全部ギミックを解いちゃうよりも、自分で謎解きをする楽しみみたいなものを知ってもらいたいからねぇ。
さて、入口と同じ階のマップはもうすぐ埋まりそうだ。
「シズク、大丈夫そう?」
「シャッ」
横を見れば、巻きついたシズクが頷いて尻尾をくねらせて見せた。尻尾の先が10センチほど金属に変化しているように見えるが……本人はそこまで苦しそうではなさそうだ。最初のときはいきなり呪いの効果が現れたことと、尻尾の先が重くなったことで余計にびっくりしていたのかもしれない。
私も違和感があるかなあ……くらいで別に不自由はないし、問題はない。
相変わらずスーちゃん達には呪いの効果が出ていないし、そこも安心だ。その代わり、呪いの発生条件も分かっていないのがなんだが。
「意外と水中を進まなくてもなんとかなりそうですね。今のところ魔獣もなぜかほとんど見当たらないし……」
ごく稀に水棲の魔獣が出るくらいだが、他のダンジョン的な場所に比べると圧倒的に少ない。竜宮城のダンジョンでももう少し魔獣とエンカウントしていた気がするくらいだ。
今のところは私もスーちゃんも仲間をスカウトするつもりがないので、みんな聖獣に戻してから逃しているけれども……今後は無視する必要性も出てくるかもしれないな。一瞬でスカウトして浄化できれば問題ないけれど、少なくとも時間が取られちゃうわけだから、強制タイムアタックをしている状況では足を止めるわけにもいかない。
緩めの縛りは不殺だけだから無視する分には別に問題ないんだけど、それでも心苦しくはあるんだよなあ……本当に厳しくなってきたら無視するしかないけど。
「にしても、そろそろ一階? のマップは埋まりそうなんですけど、階段みたいなものが見当たらないんですよね……2号ちゃんのマップにも書いてないですし」
もしや確定で水中を進む必要があるのだろうか。
「んー、ものは試しですし……やりますか」
「どうしたの?」
「泳いでみようかな〜と思いまして」
「お、泳ぐ……! やったことない……」
しょんぼりし始めたスーちゃんにやっぱり闇を感じてヒェッと思いつつ、シズクの頭を撫でる。小学生だとしても水泳は一応習うよね……遊びで現実の海に行く可能性がある以上、義務教育のうちにある程度そういうのは慣らされておくものだ。その水泳をやったことがないというと……どうしても闇を感じるし、コメント欄も「あ(察し)」で埋まる。あとさっきからスーちゃんが謎を解くたびにコメントして課金してくれていたどこぞの大人も、なぜかこの手の話題になると黙るのだ。普通に怖い。
「んんんん、大丈夫ですよ! 私が先に調査してくるだけですから! スーちゃんは今度、アジオくんやお姉ちゃんと一緒に泳ぐ練習をしてみましょうか! 怖くはないんですよね?」
「うん、大丈夫! やってみたい!」
「そっか〜、なら今度やってみましょう! んー、ところでスーちゃん、人魚は好きですか?」
「人魚? 好き! 綺麗なおねーさん!」
水中移動ばっかりはシズクかシャークくんに頼るしかないので、この際素早く調査するために神獣纏をしようと思っている。
スーちゃんはアカツキとの神獣纏でも背中に生えた翼にテンションを上げていたし、人魚状態への変化でも気分は上がるだろう。落ち込んでいるより、笑顔で楽しい体験をしてほしいからね。水中を安全に移動できることが分かったら、そのときは水中マップの攻略も一緒にやることにしよう。幸い、水中で必要な呼吸ゲージをなんとかするアイテムはまだ残っているし。
「よーし、じゃあ気合い入れて綺麗なおねーさん人魚に変身しちゃいますよ〜!!」
そう思ってシズクのアニマ・エッグを取り出し、使用を選択しようとしたときだった。
「んえ!? なにごとですか!?」
突然どこからか伸びてきた紐のようなものが私にぐるっと巻きつき、吊り上げたのだ。
「お姉ちゃん!?」
卵を落として、シズクも慌てて、飛んでいたアカツキや近くにいたザクロ、そしてジンが警戒態勢に入る。
「あれ……もしかしてこれ、蜘蛛の糸ですか……?」
そんな状況で、カツンカツンと高らかなブーツの靴音を響かせてやってきたのは、もちろんあの人でした。
「あなた、自殺志願者がなにかなのかしら?」
彼女の隣にいる2号ちゃんは私の落とした卵を拾ってあわあわとしていて、反対隣にいる大蜘蛛から私を釣り上げている糸が続いている。
「え、自……え……?」
そして、彼女――リンデさんが私を見上げて鼻で笑うように言った。
「ここで蛇のその子と纏なんてしたら……そうね、即死……かしら」
恐らく精一杯怖がるように凄んで言っているのだろうけれど……私の中の心の言葉はこれ一つだった。
「つまりそれって助けてくれたってことですか!? え!? そんなことを教えていただけるだなんてリンデさん優しすぎませんか!? 私敵ですよね!?」
「……」
一瞬で「助けなきゃよかったかな……」みたいな顔をされた私はいい加減学習したほうがいい。私は一言も二言も余計だと。
いよいよ神獣郷3巻発売が明日に迫りました!!楽しみですね!!




