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【漫画単行本4巻発売中】神獣郷オンライン!〜『器用値極振り』で聖獣と共に『不殺』で優しい魅せプレイを『配信』します!〜  作者: 時雨オオカミ
『深淵咬魚にハッピーエンドの福音を』

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異変


「キョアーーーーーーオ」

「おねえちゃーん! 捕まえたよ!!」

「ペペーン!」

「あ、はい」


 ドヤ顔で振り返る幼女とペンギンが今日も可愛いね。うん、現実逃避なんかじゃないよ。


 ……ミミック的な存在の悲鳴は聞かなかったことにしよう。


 結論から言うと、散々コメントに囃し立てられながらも追いかけたが、私の足では追いつけなかった。なんせ私のステータスは器用値以外、装備で上げているものを除外すると最底辺。バフもかけていない状態では見るのも耐えられないくらい遅いので、まあ当然のことながらとっさの判断で追いかけたところで……ね。


 もちろんその辺になにかあれば蹴り飛ばして当てて仕留め……気絶させようかと思ったんだけど、その手段を取る前にその場にスーちゃんがいることを思い出してしまったから無理だった。


 私は親御さんから正式に預かってゲームをしている身だ。教育に悪影響になりすぎるようなことをするわけにもいかない。すでになんかいろいろと手遅れな気がするが、一応まだ猫を被っているのである。


 だってこの配信、親御さんが見ているかもしれないじゃないか! そんな状態でハメを外して万が一「こんなずさんで暴力的な子にうちの子は任せられません!」なんて言われたらショックで泣く自信がある。そんなことになったら数日ログインせずに健康的な睡眠をとってしまう恐れすらある。それはちょっとね。


 なのに、その当人はペンギンのアジオくんと手と手を取り合ってバディのフィギュアスケートよろしく、氷の道とジャンプ台を作って空中からキックですよ。


 綺麗に後頭部……後頭部? うん、多分あれは後頭部。その辺に決まって足をもたれさせてミミックが転び、毛のひとつもなさそうな無駄すぎるほど綺麗な足をビィナが肩に担いでこちらにやってきた。さながらその光景はヤクザかチンピラである。もしくは仕留めた獲物の足だけ担いで引きずって歩く狩人。


 そんな光景の中、無邪気に笑ってダブルピースする幼女。


 ……これ私は悪くないよね??? まだそんなことしてるの見せたことないはずだし。


 ま、まあお子さんはずいぶんと元気ですねって苦笑いするしかできないよね。仕方ないね。そのたびに泣いた絵文字でスパチャ飛んでくるのが普通に心臓に悪いのだが……なんか圧をかけられている気がして。いや、多分純粋に泣いて喜んでくれているんだろうけれど。あとで課金してくれた人のユーザー名メモっておかなきゃね。感謝のために読み上げよう。


「ほら、倒してないよ!」


 うん、ちゃんと気絶だけですんでるね。ぴよぴよヒヨコがミミックの頭部らへんに飛んでいる。シュールすぎて笑えばいいのかなんなのか。


「スーちゃん達はやいですねぇ。ありがとうございます、すごいぞ!」

「えへへ、そうでしょ?」


 当たり前のように頭を差し出してくる彼女に、眉を下げて微笑んだ。そうして、お望み通りにポンと手を置いてゆっくりと撫でる。二つの幼いお団子ヘアーの間に挟まれたアホ毛が、なんとなくぴょこぴょこ揺れた気がした。


 にっこり笑顔で喜ぶスーちゃんに和みつつ、ドヤ顔をするアジオくんも撫でてあげる。すると、ちょっと照れたようにしてやんわりと手……ヒレ? で遮られた。セリフをつけるなら「よせやい、照れるだろ」とか言ってそうな雰囲気だ。なるほど、そういうのは照れちゃうタイプか。


 そして、アジオくんもスーちゃんを撫で始める。ミミックの片足を離したビィナも片手でスーちゃんを撫でる。ポケットの中にいたリャッキーも、チョロチョロと肩に移動して横から頭を撫で始めた。みんなによしよしされてスーちゃんはくすぐったそうに微笑んで、けれどとってもご満悦そうだ。うーーーん、尊み百億パーセント。


 なお、後ろでぴよぴよ目を回しているミミックがいることからは目を逸らすとする。


 ちなみに、肩に乗ったアカツキが私の耳の下辺りを固いクチバシで傷つけない程度で、羽根繕いのときのような使い方で撫でてきている。私が年下をでろでろに甘やかしているからだろうか、私を甘やかしてくれようとしているみたいだ。私の相棒はいつでもイケメンカラスだ。


「さて、さっそく宝箱の中身をもらいましょうか」


 皮膚の分厚いザクロちゃんが宝箱のギザギザの歯が並んだ口をこじ開け、中身を取得する。蛇の模様が彫られている少しの宝飾品と、思っていたよりもたくさん獲得できたゴールドの数にホクホクとしつつ、さてとと立ち上がったところで『【速報】エレヤン、追い剥ぎに転職する』とかいうコメントが流れていった。


 いやまあ、確かにやってることはそうだけども!! 

 憐れみを覚えたらしいスーちゃんが、1ゴールドだけいまだ気絶中のミミックの口の中に入れてお祈りし始めた。


「こらこら、こういうのは5円じゃないとですよ」


 と言いつつ私も4ゴールドねじ込んで、神社でお祈りするときのように手を合わせる。『ゴールドだからご縁にはならなくない?』というマジレスはスルーである。分かっててやってるからね!! 


『追い剥ぎしておいて5円だけ戻して願い事までするって(ドン引き)』


 字面だけ見たらやばいね。


「なおーん」


 と、ここで立ち止まったままお喋りしているのに飽きてしまったらしいジンが鳴き声をあげた。私の足元をスリスリしてから少し離れてチラッとこちらを見てくる。


「そうですね、はやく入りましょう。リンデがどこにいるのかも分かりませんし、先に行ってしまうかもしれません」


 宝箱を追うのに走り回ったので周囲の探索は一応できたし、他にはなにもなさそうだ。なにかあるとしたら、やはり内部のほうなんだろう。さっきのミミックがランダム湧きするタイプかどうか分からないので判断つかないが、もしランダム湧きなのだったらこんな辺鄙なところに出てしまうだなんてちょっとレアだなと思ったり。


 ……にしても、ドロップした宝飾品の意匠は蛇ね。最初はこの海域にいるのが巨大だから、ウツボの意匠かと思ったけれど違ったらしい。

 三日月のような形になっていて、その真ん中に丸い宝石がはまっている。軽い説明によると、名称は『???』になっているが、真ん中の宝石のようなものが珊瑚でできているらしい。その珊瑚の宝石の真ん中に蛇のような模様が彫ってあるのだ。


「よく見れば、わりと海の上らしく珊瑚の飾り付けみたいなのがあるんですね……」


 古くなっていて、錆びついた感じが強すぎて最初は気づけなかった。一応城らしく、いろいろ外観も飾り付けてあるようだ。薄れているが、入り口の扉の上には、下を向いた三叉の槍に留まるフクロウのレリーフのようなものがある。フクロウがなにやら植物のようなものをクチバシに咥えているけれど……さすがにこの距離では分からないかな。そもそも植物の枝となると、心当たりが多すぎて実物がないと見分けがつかないかもしれない。


 ある程度ズームをしてスクショだけ撮り、考察班のスレッドに投げておく。

 コメント欄の人達も考察班に行っていくらかモチーフを探してきてくれるらしく、少しだけコメントの勢いが落ち着いた。


「では、入りますよ……」


 そうして『沈黙の海城』内部へと足を踏み入れた私は、ぶるりと身を震わせる。


「広い……水浸しですね」


 そこは、ほとんどが水の中に沈んだ通路だらけだった。壁が崩れているからだろうか、城内はほとんど吹き抜けのようになっているようだった。水の中に沈んでいる通路にもところどころ宝箱的なものが見受けられるし、そこかしこから内部にザバザバと滝のように水が流れてきていたりもする。暗い雰囲気で、どことなく空気が澱んでいる気がする。とってもホラーだ。それも、普通に水のあるホラーというだけでなく、サメが出てきそうなパニックものホラーな雰囲気も感じる。正直怖い。


 まさに海中に沈んだ城……という風情だった。


「シャア!?」


 と、私がダンジョン内の空気に圧倒されていると、首周りに巻きついていたシズクから短い悲鳴が響き渡った。


 びっくりして、なにかがあったのかと思ってシズクを見下ろす。


「どうしました!?」

「シャウ……」


 シズクが悲しそうにして、己の尻尾を私の目の前に差し出す。

 その尻尾の先は、善女竜王由来の金色がくすみ……いや、くすんでいるどころじゃなかった。


  くすんでいる茶色っぽい尻尾。どことなく硬貨の色と似ている。


 首に触るそれは冷たく、かたい。硬質な、まるで鉄のような……。


 思わず彼女の尻尾を掴もうとして気づく。


「お、お姉ちゃん……おててが!!」


『え!?』

『うそうそどうしたの? バグ? なに?』

『なにこれ』


 混乱するコメント欄の言葉が次々と流れていく。

 しかし、妙にその言葉だけが引っかかって目に止まる。


『ねえ、その色さ、青銅じゃない?』


 スーちゃんや他のみんなにはなんともないのに、私の指先少しばかりと、シズクの尻尾の先が少しばかり……幸いにも動かしにくいくらいで済んでいるものの、明確に私達だけに異変が起こっていた。






 ◇


 ――――――


【沈黙の海城内の呪い】について、情報が一部開示されます。


 ――――――





【沈黙の海城内の呪い】


 海城内に蔓延する呪いの症状。ある特定の条件下の対象にのみ発動。

 手先や体の末端からゆっくりと青銅化が進んでいく。


 アイテムの清水や聖水で一時的に解除・ある程度の予防が可能だが、効果が切れると呪いはまた初めから進行する。清水・聖水は使うたびに効きにくくなっていく。


 人間は初期症状で手先から、重度で腕全体が青銅化していく。それ以上進行するとどうなるかを知る人は存在しない。なぜなら、そうなる前にこの海城を探索するものは離脱するからである。


 アイテムが十全でない場合、強制的に内部探索のタイムリミットが定められることとなる。





 ◇

温度差がやばすぎて、きっと視聴者コメント達の心に住んでるグッピーがいっぱい昇天してます。なんでこんな温度差になっちゃったんだろうか……。


いつもコメントありがとうございます!毎回ニヤニヤしながら見てしまいますし、嬉しいコメントがあると特にスクショとかして保存してます。元気がないときに読ませてもらうと、とても元気をもらえます。嬉しいです!


さてさて、前回の話の掲載後に発表されたので前回のあとがきにも記載してありますが、念のため今回にも入れておきます。


神獣郷オンラインのコミカライズ第3巻の発売日が10月14日と決定しました。また、連載の18話前編がコミックポルカさんの公式サイトで見られるようになっています。3巻めでたい!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 見事な飛び蹴り! これは被っているネコを捨ててヤンキーとしての技を教え込むチャンスだと思います! [一言] 温度差で自分の心の中に居たグッピーが全て昇天しました これからジェノサイドルート…
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