まずは周囲の探索から!
上陸したのは海の上に浮かぶお城。
けれどもそのお城は、素敵な王子様やお姫様なんて住んでいそうもない雰囲気だ。
潮風にさらされ、ところどころ錆のようなものが浮いて寂れた海上要塞。そんな、無骨ながらもいわゆる『機能美』に近い印象を持つ場所だった。
「VRじゃないオフゲーだったら、今頃右上か左上に『〜沈黙の海城〜』なんてマップ名の表示がされて、ついでにBGMの名前とかも表示されていたりするんでしょうね」
専用BGMがあったら、きっと静かながらも恐ろしいホラースポットにありそうなものになっているだろう。
だが、実際にある環境音といえば波が引いては打ちつける、強めのザザーン、ザザーンという音と、風のひゅうひゅう鳴る音のみ。それがかえってじわじわと背筋を這い上るような恐怖を私に届けてくるが、後輩の手前あんまり怖がってもいられない……。
「スーちゃん、怖かったらお姉ちゃんとおてて繋ぎましょうか」
この怖い雰囲気だし、さすがのスーちゃんも少しは怖がるだろうと振り返ったら……さっきまでそこにいた彼女とアジオくんの姿がなかった。
ぎょっとして額を手で抑えているビィナをみると、とある方向を指さされてつられてそちらを向き、そして叫んだ。
「もうあんなところまで行ってらっしゃる!?」
そう、スーちゃんは好奇心旺盛なその純粋さのまま、とっくに私をおいて海城の入口のほうでパイプを触ったり、あちこち調べてみたりしてアジオときゃっきゃうふふとしていた。
「おねえちゃ〜ん! どうしたの〜?」
勝手に怯えて、後輩とおててを繋ごうとか考えていましたごめんなさい。
口まで出かかった言葉をのみこんでしれっとした顔で彼女のほうへ向かうが、コメントではだいぶツッコミが入っていた。主に「や〜い、エレヤンびびってる〜」という煽り方面で。
大人になるとね、子供の頃大丈夫だったものもダメになったりするんですよ。私も大人って言えるほどの年齢じゃないけども、それはそれ。視聴者の皆さんには明言していないので、そうやって誤魔化しつつスーちゃんと手を繋ぐ。
「危ない場所なので、ちゃんと手を繋いでいましょう。迷子になってしまうといけませんから」
「うん! ママもよく迷子になるんだよね。お姉ちゃんも?」
「そうかもしれませんね〜」
なんでこう、子供ってナチュラルに自分が迷子になっているのに大人が迷子になっていたことにしてきたりするんだろうね。不思議だ……可愛いからいいんだけど。
「アカツキは数歩先を先行してクリアリングをしてください。ザクロは最後尾。シズクは私の肩。ジンは隣を歩いて警戒していてくださいね。ビィナはスーちゃんの反対の手を繋いで、ついでにアジオとも手を繋いでください。リャッキーはスーちゃんのポケットの中。アジオくんは単独行動でふらっといなくなるの禁止です。いいですか? 皆さん」
進むための簡単な役割分担をして、全員に決定を確認する。
各々の返事を聞いて安心しつつ、私は海城内に続く扉を見上げた。恐らく手を触れれば開くんだろうけど……。
「周囲の宝箱から探索するのは必須ですよね」
ワクワクしているスーちゃんには悪いけど、中に入る前に海城の外側部分をぐるっと一周してみることにした。ほら、こういうマップって絶対隠してある宝箱とかあるよ。私は詳しいんだ。
だから、まずは周囲の探索から入ることにする。
「さーて宝箱は……」
お城の窪んだところにあるいかにも宝箱〜! って感じの箱に手を伸ばし……たところで、すっと宝箱が立ち上がった。
……立ち上がった!?
「な、なんか見たことあるーーーーーーー!!!」
生足魅惑な宝箱は、チラッと中のゴールドを見せながらダッシュで逃げ出した。なんでや!! こんの……っ!!
「はーーー? 中身置いてけやコラー!!」
「こらー!」
キャッキャと楽しそうに復唱するスーちゃんに、私は怒った状態から一気に顔面蒼白になったのだった。
いやあの……変なこと覚えないで……(震え声)
本日、コミックポルカの公式サイトにて18話の前半が更新されました!!
今回から前後編更新をすることになっておりますっ!
そして……!! 来月10月14日にコミカライズの第3巻が発売されることが公式発表されました!!!
表紙もあわせてお楽しみに!!!




