新モーションコンテストもあるらしいので開き直ります
開き直りました。
数日間、夜になる度にベッドの上でごろんごろんと悶え苦しんだあと、わざわざ自分から動画を撮って公式の動画公開サイトに載せた。
無断で動画撮影されているとユウマに教えられたときは、撮影者を探し出してどうしてやろうかと少し物騒なことを考えたりなんだりしたけれど。
私は優しいからね! 平和主義だもの。
動画説明文に盗撮されていたことを皮肉たっぷりに記したあと、タグに『神獣郷新モーションコンテスト』をつけて自ら投稿したわけだ。
こうなったら本気で狙いに行く。再生数だって重要だ。いくつか『神前舞踊シリーズ』は考えてあるものの、ひとまずはこの間盗撮された『青嵐』だけにしておく。あまり多く投稿しすぎると再生数がバラバラになってブレる。どちらも伸びる可能性はあるけど、念には念を入れて……ね?
投稿はしないが撮影は続ける。再生数の伸びを見ながら投稿するつもりだ。
「ストッキンさんには感謝しませんと」
あの変た、ファンクラブ会長さんにはお世話になりっぱなしだ。扇子の強化とデザイン、装飾なんかも請け負ってくれている。もはや私専用の職人みたいになっている。
他にもお客さんを抱えているはずだけれど、私が行くと優先的に依頼を請け負ってくれるのだ。ファンって大事だね。
借りを作りまくっているのが少し怖いけど、その分いっぱい配信と動画投稿をしてほしいとお願いされているのでそちらに力を入れて頑張っている。
ピニャータを倒してキャンディを手に入れて……という作業もシズクがものすごく相性良く進化してくれたおかげで順調。ユウマの代わりでもないが、ジンもかなり運がいいのでシークレットピニャータを見つける頻度も高い。
「神前舞踊『丹頂鶴の求愛』」
天狗のような一本歯の下駄でくるくる回る。アカツキの翼を模した緋色の羽織りがふわりと翻る。緋色の髪をハーフアップで一纏めにした簪が、しゃらりと涼やかな音を鳴らす。
純白の扇にはオボロの氷を纏い、緋色の扇にはアカツキの羽根を組み込んで朱色の炎が吹き上がる。紅白の軌跡を描いて焼いて、凍てつかせて、脆くなった紙の体を体重を乗せて両の扇で叩けば、ぱきりと音を立てて割れてリザルト画面。
動画撮影の兼ね合いで見た目の良い舞を研究中だ。
モデルは全て自身の聖獣達。神前舞踊の中でも『鳥と炎』『狼と氷』『蛇と嵐』『猫と雷』をそれぞれ意識して組み立てている。
最終的にはこの子達の神獣になったときの名前をそのまま舞踊の名前として付けてみたいなあ……と思っているところだ。
ただし、あくまで扇子を武器にしている場合のモーション動画なので炎と氷はおまけだ。本来は円を描くように回って鉄扇による切断の連撃を入れてからの叩き割りモーションとなる。
聖獣の力を上乗せして動画を撮ってるけど、同じ聖獣を持っている人はそういない。聖獣の力までモーションとして入れると再現できる人が限られてきてしまうからだ。
ただでさえ扇子を武器にしてる人なんて少ないのに!
もっと舞姫増えろやぁ! こちとら有名配信者だぞ! ある程度後追いがいてもおかしくないのに、どうしてこんなに舞姫という職業を見かけないのか!
魅力が足りませんか!? 後追いしてこようと思うほど魅力がないとでも!?
ならもっともっと頑張るしかありませんね!?
いや、後追いされても焦るだけじゃんと思うかもしれないけれど、いないとそれはそれで寂しいんだよ。強者扱いになれば、同じことをすれば楽に強くなれると後追いが発生するのが普通だ。
育成ゲームなんてその気質が強いよね。強い一匹と最強の育て方ってやつが流行る。そしてそのゲームの業界は最強育成法ばっかり溢れ出す。何度も見たし、私もやった。でもあれってあんまり面白くないんだよね……と、脱線してる。
アイテム欄を確認。キャンディはイベントのためにカウントされているので、総数に限界がない。アイテム欄を一個潰しちゃうけどね。
「よし、1万と5千は行きましたか」
取得したキャンディの数も増えてきた。それでもユウマには追いつかない。あいつの運にはさすがに勝てないかなあ。こちらもかなりシークレットピニャータを狩っているはずだけれど。
朗報があるとすればキャンディの総数に応じて手に入る報酬。あれでお金がたくさん貯まったので、自分の家がそろそろ買えそうってところかなあ。
今買うとまた一文無しに戻りかねないので買うのはもう少し先にするしかないけど……ふ、フラグじゃないよね?
フィールドを歩きながら、この街にあるホームのカタログを電子で確認する。お庭付きは高いなあ……。やはり和風庭園を買いたいよねぇなんてピンと来るものを探す。
あ、ここいいなあ。
……って、購入期限なんてあるの。嘘でしょ。
……。
……。
……。
「神前舞踊『ごめん寝』」
悲報、フラグだった。
お金がすっ飛んで目の前にいるアカツキ達に土下座からの土下寝し始めたら、「なんだこのご主人、恥だから道端でやめろよ」みたいな顔で見つめられる。
なお、草原の端っこの出来事である。さすがに街中は自重した。
「……」
この子達にこんな顔させられるってある意味私すごいな?
「クゥ……」
いや、本当にごめん。




