私はリンデさんのこと好きですよ
「っていうか、リンデさん。ロッジ? ロッジって言いました? このフィールドにそんな便利な建物はなかったはずですが……」
いや、『ロッジも用意しないで』だったか。え? なにそれどういうことなの。
「そんなもの、こんな辺境の地にあるわけないじゃない。用意させたのよ。それくらいの術式がかかったアイテムはあるわ」
リンデの視線が、私達のたてたテントへ向く。
ははあ、なるほどね? このテントみたいに広げればロッジになるような素敵な便利アイテムがあるってことかな。絶対高いやつじゃん。しかし、さすが女帝みたいな顔してる人だ。遠征に使う道具の規模が違う。
……本人に女帝みたいって言ったら多分しばかれると思うけど。女王様でも同様。
陛下を差し置いてわたくしをそんな呼びかたをするだなんて、なんて不敬なの!! 氷漬けにして海に沈めてしまうわよ!! って。キレるどころじゃ済まなそうなので、それは口に出さないでおこう。
私の中のリンデさん像が物騒すぎて我ながら草なんだよな……。
「ところで、その辺境な地になぜリンデさんが?」
推しとはいえ、念のため警戒を滲ませた声で尋ねると、彼女は鼻で笑って「ひみつ」と口にした。に、似合う〜!! 腹立つ〜!! でも好き!!
はっ! よく考えたら今の状況って……新規衣装の推しと、推しのコスプレをした可愛らしい後輩の推しとかいう、『両手に推し』状態では!? な、なんて贅沢〜!! さいのこう。でもリンデさんに鼻で笑われて、めちゃくちゃテンション上がっちゃったので煽り返すね!! 敵対してる悪役の推しに馬鹿にするように笑われたなら煽り返すのがマナーだもんね常識的に考えて。
「……あ、分かりました!! この前の豪華客船のときのように、また皇帝陛下から無茶振りされたんじゃないですか? 結構ここの寒さは過酷ですよ〜? こんなところに飛ばそうとするだなんて、陛下も随分と意地悪ですねぇ」
「無茶振りではないわ。陛下はわたくしを信頼してくださっているの。そんなこともお分かりにならないだなんて、この寒さで思考まで凍りついているのではなくて? そんな安物のテントでは満足に寒さを防げないでしょうに! お可哀想なこと」
うわめっちゃ早口で返してくるじゃん……陛下大好きかよ。
「で、出ました〜! 皇帝陛下過激派強火勢限界オタク〜! 私、リンデさんのそういうところ好きですよ! 親近感湧くんで!」
「わたくしのことをそんな俗っぽい呼称で表現しないでいただけるかしら。それから、陛下のことを軽々しく口にしないでくださる? あなたが『陛下』とくちにするだけで不快だわ。親近感が湧くどころか、わたくしはますますあなたのことが嫌いになったわね」
私の言葉に2倍くらいの熱量で返してくるリンデさん。まじリンデさん。こうまでいい反応をされるとめちゃくちゃ煽り散らしたくなるね。好き。
ファンの歪んだ愛を向けられる典型的なキャラですねどうもありがとうございました。私の愛も受け止めてくれ。びっぐらぶ。
「私はリンデさんのこと好きですよ」
「……」
うわ、すごい引いた顔するじゃん。
さすがにそこまでされると傷つ……いや、推しに虫でも見たような顔されるのなんかいいな。目覚めそう。こ、これが我々の業界ではご褒美ですってやつか……??? 扉開いちゃったな。
普段、NPCの子達は私を慕ってきてくれるから、こういう反応がなんだか新鮮に感じるよなあ。ユウマなんかとは煽り合いするし、ストッキンさんとも軽口の言い合いをしたり、ルナテミスさんからは忠告じみた脅しを受けたり、逆に後輩として可愛がられたり……まあいろいろあるが、完全に敵対したままやりとりしているのは今のところリンデさんだけだ。リリィは拗らせていただけで普通にいい子だしね。
「私、リンデさんのこと大好きで」
「気持ち悪いわ、媚びるのはおよしなさい」
ピシャンと、冷たい声でリンデさんが言った。
けれど私も反射的に言葉を口に出していた。
「は? 媚びているつもりなんて微塵もありませんが??? 勘違い甚だしいんですけど???」
「それなら思ってもいないことを言うのはやめることね。ただ気持ち悪いだけよ」
「は〜??? 本心ですけど〜???」
「どんな本心よ。あなた、わたくしのしていることは嫌いでしょうに」
「それとこれとは別なんです〜!」
オタク。キャラがしている悪魔の所業は嫌いでも、そのキャラのこと自体はすごく大好きという圧倒的矛盾した感情を抱えがち。
お前のしたことは許さん!! でもそれはそれとしてブレない悪役大好き!! ってね。
リンデさん……あなたはきっと、アニメで悪役として出てきたら人気投票でだいぶ上にいるタイプだと思うよ。そしていっぱい同人誌に出てくるタイプでもあると思うよ……間違いない。
「それならどこに好感を持てる要素があると言うの」
これは本気で分かっていないな?
「顔ですね!!」
即答した途端、焼き魚を食べ終わったアカツキが「うわ……」みたいな顔をしてこっちを見てきた。なにやらそのあと、すぐにシズク達とこそこそ話をしているところを見るに、もしやこの辺りの言動ってレキにリークされちゃう感じ? でもね、私は止まらないぞ!!
満面の笑みで即答したあと、盛大なため息を吐いたリンデさんは額に指を添えて悩ましげな顔をする。お? 落ちるかな??? 私はNPC攻略をするのが趣味みたいなところもあるから、好きになってくれても構わないんですけどね!
「まったく、なにを言い出すかと思えばくだらないことを言いますね。そんな当然なことを言わないでくださる? わたくしの顔が整っているなんて今更なことじゃない」
……な、なんだと!?
「ぷ、プライドエベレスト〜!! そういう悪役らしさがブレないところが好き!! 私のことは一生嫌いでいてください!! ああ、無地のうちわなんて持ってませんよね……くう〜!! うちわがあったら『一生悪役ムーブして♡』って書くのに……っ、不覚!!」
いよいよ宇宙人でも見るような顔になってきたリンデさんに、ちょっと興奮しすぎたかと内心反省する。
「あなたと話していると頭が痛くなってきますわね」
なんかごめんなさい。
「おねーちゃん」
「ん?」
と、ここでようやく私は背後に純粋無垢な後輩がいたことを思い出し、みるみるうちに恥ずかしさが込み上がってきた。
ダメじゃん!! 純粋な子供に見せられるオタクムーブじゃないぞ今の!! ダメじゃん!!
その辺の雪の上で転がり回ってのたうちたい気分になりつつも、必死で笑顔を貼り付けてスーちゃんへと振り返る。
先程の一方的なギスギスとした雰囲気の中でも、ゆっくりとマイペースに焼き魚を食べていた幼女様は、私の服の裾を掴んでリンデをじっと見つめていた。
リンデのほうでも、2号ちゃんがあわあわしながらなにやらリンデのコートをぐいぐい引っ張っている。
「おねーちゃん、あのおねーさん。お友達?」
一瞬の沈黙のあと、理解が追いつき「違います!!」と声を上げるリンデと共に、私は思いっきり噴き出して笑いだしてしまったのだった。つられて笑い出しちゃったザクロが、無意識のうちにリンデさんを煽っているみたいな絵面になっているのもすごく笑える。
「ふっぐっ……ふふふっ、そ、そーそー、お友達……ふふっ、ですよ」
「どこをどう見たらそう思うのかしら!?」
ガチで焦るリンデさんという、多分レアなスチルを拝めたことをすーちゃんに感謝。
「ふふ、ふふっ、あははっ、ぶっ、くくく……やばい……ツボに……ツボに……ふっ、無理っ……とまらっ、あはははは!」
「2号ちゃん、あの子のお尻に火をつけておやりなさい。驚けば『しゃっくり』は止まることでしょう」
「!?!?!?」
困惑する2号ちゃんも可愛くてますます笑いが止まらない。
とんでもないことを言い出した自覚がないスーちゃんも可愛らしい。
いや〜、でもスーちゃんと2号ちゃんはわりと仲良くなれそうだと思うんだよね。
「はー、はー、笑いすぎてどうしようかと思いました。んんっ、まあ、なんというか、複雑な関係ですよね」
「敵でしょう?」
「いや、そうですけど。それだと確かに疑問なんですよね。リンデさん、言われて気づきましたけど……あなた、どうしてわざわざ私達のところを訪ねてきたんです? 敵なのに。やっぱり仲良くしに来てくれたんですか?」
リンデさん、すーぐ眉を跳ね上げる〜。
「……違うわ。わたくしの邪魔をした不安分子が活動拠点付近にいるとなったら、放っておくわけにもいかないでしょう」
それはそう。
なら、私が言うべきロールプレイは……。
「あれはリンデさんが悪いことをしてたからでしょう? で、今回はなにをしに来たんですか? ここの聖獣達を魔獣にするつもりなら止めますし、乱獲するつもりでも止めますよ。私だって人としての倫理観に則ったことをするだけならなにも言いませんとも。まさか、可愛い雪国の聖獣を愛でにきた……なんてことはありませんよね?」
これでリンデさんもペンギン鑑賞に来たとかだったら、案外可愛らしい趣味があるんだなあで終わるんだけどなあ。
でもこれ、わざわざ出てきて会話に発展してるってことは、そうじゃないんだろうなあ……こうしてリンデさんが立ち去らずに話が続くからには、イベントの導入って側面もありそうだ。さて、なにがくる……?
「まさか。わたくしは帝国の負の遺産を完全に廃棄するために来たのよ。誰かが壊していたら、それはそれでよかったのだけれど。どうやら誰にも手出しをされていないようだし」
なんらかのシナリオ確定ですね分かります。これ、相手が相手だから依頼を受けるとか受けないとかの話にならず、勝手についていくかいかないかでシナリオに乗るか決まったりするやつかな?
スーちゃんのペンギン探しのこともあるし……今はいったん保留にしてもいいけど。さて。
「えっ、負の遺産……ですか? つまり、帝国の黒歴史みたいな感じですかね。今も変な研究とかしてる時点で黒歴史更新中としか思えないのに、なにを言ってるんだか……というかそういうの、言っちゃっていいんですか?」
まあそれはそれとして、煽るのは忘れない。
「あなた、本当に人をイラつかせる天才ね」
さーて、どうしよっかな。
なるべくスーちゃんの意向に合わせるつもりだけど……。
チラリと見たスーちゃんは、なにやら考え込んでいるようだった。
もしかして、わりと話の内容理解できていたりするのだろうか? このくらいの年頃の子って妙に聡い部分もあるし、やっぱりこのシナリオは彼女の意思確認をしてから……。
「ふ、二人とも!! お友達なら喧嘩はダメ!!」
当然のことだが、この後もう一度私の腹筋が鍛えられることになった。崩れ落ちなかっただけマシかもしれない。
なおリンデは、涼しい顔をしようとして失敗してますますキレ顔に近くなり、2号ちゃんに必死に抱きつかれて押さえ込まれていた。
ここはキレ顔も美しいネ! って煽っておくべきだったか……?
昨日、8月24日はケイカちゃんのお誕生日でした〜。
#藤白ケイカ誕生祭2022
というタグにてファンアートやコメントなど、いただいております。
また、作者の書き下ろし誕生日エピソード『姉妹達の誕生パーティ計画!』も載っておりますので、よければ見にきてね!!
ちなみにこの書き下ろし作品は番外編として【神獣郷ライブラリ】挿絵・設定・番外・短編ギャラリー のほうにも投稿しております。
昨年の「#藤白ケイカ誕生祭2021」のほうでもたくさんのお祝いのお言葉。そしてファンアートをいただきました。
どれも可愛く、素敵で、愛に溢れていた素晴らしいものでしたので、ご興味がございましたら上記のタグをTwitter検索してみてくださいな!!
また、よければ同タグ使用によるお誕生日祝いのツイートなどをしていただけると嬉しいです。この小説の投稿以降は、ケイカちゃんのアカウントにて巡回&お返事をさせていただきます。




