キャンプと役割分担!
まさか、私でもちょっと怖いザクロの全力飛行を笑顔できゃっきゃする幼女だとは思っていなかった。さすがに予想外すぎる。
あの大ウツボだって海の中からジャンプしてきてザクロめがけて襲ってきたりとかしたのにさあ、それさえも怖がらなかった。すごくない???
それどころか、ウツボの身体に無数に刺さった武器類を見つけるっていう余裕まであってみたいだし、なんならそれですごく悲しそうな顔をしていた。普通はあれだけ大きい怪獣みたいなウツボに襲われたらそれどころじゃない気がするけど、本当に心優しい女の子だ。
ただ、なあ……あのウツボの身体の武器類は、取ってあげたくてもその部分の周辺だけ石みたいに固まってて固定されちゃってるんだよね。どう考えても普通に取ろうとするだけじゃ解決できない案件だ。海にある沈黙の海城っていうダンジョン? フィールド? が鍵なんだろうけど、今回はあそこを攻略しにきたわけじゃなくて、あくまでペンギンを探しにきただけだからね。
スーちゃんは気になるかもしれないけど、いったん目的を果たすまでは別のことをしないほうがいいだろう。
そんなこんなで猛スピードの空の旅を終えた後、私達はコロコロ雪原に降り立った。まだ足が浮いている気がする……。
「えへへ、楽しかった! ザクロちゃん、乗せてくれてありがとー!」
私のアドバイスに従い、ザクロの首筋をポンポンと軽く叩いて撫でるスーちゃんにザクロ自身も満更でもなさそうに喉を鳴らしていた。すっかり打ち解けたようでなによりだよね。
「シズク、ジン、大丈夫ですか?」
「なあん!」
「シャウ」
当初予定していたよりもすごくなってしまったスピードに、心配をして声をかける。
二匹とも返事は元気そうだが、私は分かってるぞ。シズクはちょっとだけ参ってるでしょ。いつもよりも私の首にもたれかかっている感じがするし。
ただ、ジンは声色通り大丈夫そうだ。雷属性でスピードが売りみたいなところがあるからか、速いのには耐性があるらしい。
ザクロ自身もテンションが上がってめちゃくちゃパフォーマンス的アクロバット飛行しただけで、一応乗ってる人のことは考えていたみたいだし。それにしたってジェットコースターだったけれども。
「さて、この辺には魔獣が出にくいのでキャンプをします!」
「はあい!」
元気の良いお返事でなにより!
ザクロがおろしてくれたポイントは以前来たときに敵のポップが少ないなと感じた場所だ。たとえ雪が降っていても一定の積雪量よりも増えないゲーム的な仕様により、雪よりもちょっと小高い岩場はちょうどいい。
テントを立てるなら本来平面のほうがいいのだろうが、それはそれ。ゲーム内のキャンプセットなのでデコボコの地面だろうがなんだろうが関係ない。立てたらそこが平面になるんだよぉ! って感じだ。
「ジン、ザクロ。薪になりそうなものがないか探してきてください」
岩場に囲まれた場所なら火も起こしやすいだろうし、と思ってジンとザクロに薪の探索を指示する。一応キャンプセットの中にキッチンセットもあるから、火には困らないんだけど……はじめてキャンプをするスーちゃんがいるなら、雰囲気を楽しんでほしいから焚き火もしたいよねって。
「ないとは思いますが、魔獣などに襲われたら自分達で対処せず、迅速に戻ってきて助けを求めること。自分達だけで対処しないように!」
「なおん!」
「ぴるぅ」
魔獣は人間を襲うけど、聖獣単体なら襲うことはないはず。だから念のための指示だったけれども、二匹は気持ちのいい返事をして駆け出した。
雪を踏んで沈む感触が楽しいのか、ちょっとジャンプしながら移動するザクロちゃんは幼女みがあってとても可愛い。見よ世界。これが『でっかくて可愛い』略して『でっかわ』という概念だ。あ、やべ配信してないんだった。ただのでかい独り言になるところだった。口に出さなくて良かった〜。
「お姉ちゃん、あたしは? あたし達はどうすればいいの?」
「スーちゃん達は私と一緒にテントを立てましょうか」
「テント!」
本当は、アイテムとして設置しちゃえばわざわざテントを立てる必要なんてないんだけど……うん、貴重な経験だしね。やるよね。こんなに楽しそうにしてくれてるんだし。
「本来なら雪原でキャンプなんてする機会なかなかないですからね、いい経験になると思いますよ?」
「あたし、キャンプしたことないから楽しみ!」
「さっそくやってみましょうか」
「やるやるー!!」
彼女の服の中からチョロチョロと出てきたリャッキーは、岩場に降りて寒さに手を擦り合わせる。リスだもんねぇ、手足が冷たくなっちゃうかな?
「アカツキ、リャッキーのそばにいてあげてください」
アカツキはそもそも体温的なものが高めなので、小さい子を温めるには最適な子だ。アカツキは指示通りにリャッキーに寄り添ってから翼をたたみ、ぬっくぬくの羽毛で温めてあげている。リャッキーも彼の羽毛の中に手をすっと差し込んで暖をとっている。ちっちゃい子の戯れも可愛いね!! 百億点満点!!
「シズクは海に通じている場所で魚をとってきてもらえますか? 焼き魚にしましょう。テントを立てたら私達も釣りをしに行きます」
「シャア」
シズクの「了解」の声に微笑む。
そして、雪の上に降りた彼女に寒さの耐性をつけるために海楽の楽器スキルを使用し、手を振る。
リャッキーにアカツキを寄越してシズクに連れ添わせないのは、彼女が魚を取るときは海中に潜るだろうからだ。それなら、シズクのほうに寒さを平気にするスキルを使ったほうがいい。
「さて、指示も行き届いたことですし……やりますよ!」
「はーい!」
……このときの私は、テントを立てたあとに衝撃的な再会が待っているとは思っていなかった。
◇
「あら、あの三毛猫…………見たことがあるわね? 1号ちゃん、見張りで残ってくれるかしら? さあ、2号ちゃん――少しお散歩しましょうか」
コミカライズからこちらを見てくださっている読者様、ありがとうございます!!これからもちょっとずつ進んでいきますので小説のほうもよろしくね!!
コミックポルカ様の公式サイト・ニコニコ漫画様にてコミカライズ第17話が更新されています!!
今回の17話ではルナテミス&ディアナ初登場の回となっております。楽しんでいただけたら幸いです!!




