大物になりそうですね
「ザクロ、よろしくお願いしますね」
「よろしくねぇ〜!」
「ぴるるる!」
場所は緋羽屋敷の庭。
スーちゃんをホームに招待して、しばし聖獣同士の交流会なんかをしたあとにいざ出発という状況だった。
二足で立ったザクロは、猫背になりながら小さなスーちゃんの頬にそっとキスを落として挨拶している。淑女なのになんかすごくキザな感じがする!! どこでそんなの覚えてきたの!?
大きなワイバーンの口が近づくからちょっとだけ心配だったけれど、スーちゃんはなにも気にしていないようだ。くすぐったそうに笑ってザクロの鼻先をぎゅっと抱きしめている。尊い。
そう、私とスーちゃんはザクロに乗ってコロコロ雪原へと向かうことにしたのだ。
彼女の求める『ペンギン』はコロコロ雪原に生息している。高レベル帯だが、もうスーちゃんは自分の身を自分で守れる。連れていかないという選択肢はない。
年下の妹みたいに思っている子と雪原でキャンプっていうのもなかなか乙だよね。ちょっと楽しみだ。
ちなみに、ワープは一回行ったことのある人しか使えないらしい。だからザクロの出番ってわけだね。一緒にワープで移動できないので、また海路か空路で向かうしかない。
空路を選んだのは、スーちゃんがどれだけ恐怖体験に耐性があるか分からないからだ。
あの巨大ウツボは正直めちゃくちゃ怖いと思う。だって、海路を行っていたら、いつのまにか足元に巨大な口があんぐり上を向いて空いてるんだよ??? あんなのパニックホラー以外で見たことないよ!!
それに、あのウツボから逃げながら行くとなると、かなり揺れる。シャークくんの乗り心地は最高以外に評価しようがないが、逃げるためにめちゃくちゃ揺れるので、後ろから追われる恐怖と落ちるかもしれない恐怖と戦うことになる。この前は普通に私も怖かった。
私が支えられるとはいっても、ジェットコースター的な怖さがプラスされるので小さい子にはちょっとね。
「スーちゃんは高いところは大丈夫なんですよね?」
「うん? うん、病院の高いところから景色見るのは好き」
……なんか闇がチラチラしているが、本人が話そうと思わない限り私は深入りしたりはしないからね。
ただ、この様子だと高所恐怖症を持っているかどうかはちょっと分からない。ビルの上層階とかは平気かもしれないが、空を飛ぶのとは訳が違うからね。しっかりと様子を見ながら向かうことにしよう。RTAとかなんとか言ってたけど、実際には初心者が一緒なわけだから慎重に行かなければならない。
「よし、じゃあザクロに乗りますよ? レキ、先に乗せてあげてください」
「承知……した」
すでにワイバーン用の鞍や頭絡を装備しているザクロは、ひととおりスーちゃん達を可愛がるように挨拶し終わると、その場へ伏せるように体を低くした。乗りやすいように翼腕をペタッと地面につけ、頭を下げている。尻尾だけが少しばかりぴろぴろと動いているが、体は動いていないので問題ない。むしろ尻尾だけ動いてるのが可愛い。可愛いポイント百億点贈呈。
「スーちゃん、はいばんざーい」
「ばんざーい!」
腕を上げたスーちゃんをレキがくるくるるとツタを巻きつけ、ゆっくりとザクロの背中の上へと持ち上げる。このとき、ザクロの伏せた翼をちょこっと踏んづけてしまったスーちゃんが申し訳なさそうな顔で「ごめんね」って言っていたけれど、ザクロはなおも動かずに尻尾だけが持ち上げてよしよしと彼女の頭を撫でた。全力で許して「気にしないで」って伝えるザクロちゃんの優しさプライスレス。
「鞍の前にある輪っかを掴んでくださいね」
「はーい!」
「ビィナとリャッキーはスーちゃんの肩とポケットにいてください」
「キキッ!」
「きゅう!」
お猿のビィナはペット化アクセサリーことアリス・リングを尻尾につけて小猿サイズになって彼女の肩へ。リスのリャッキーはポケットへ収まったのを見届けて、私もザクロに騎乗する。
鞍の前のほうにスーちゃん。そして後ろに私が乗って腕を回し、支える形だ。
「残りの選抜メンバーも来てください」
「カァ」
「シャ!」
「なぁ〜〜ん」
そして残りのメンバーであるアカツキにシズク、ジン達もザクロの背中に乗り込み準備完了だ。
なるべくザクロの負担が少ないように身軽なメンバーを選んでいる。
聖獣達だけ大きくしたアカツキに乗せるとかでもよかったが、みんな一緒がいいという主張をされたので全員一緒だ。
「今回はお留守番ですが、私だけワープで帰ってきたり、召喚で呼んだりしますのでみんなは待機していてくださいね」
「うぉん!」
「承知」
「きゅわ!」
「クォォン」
みんなの良い子のお返事を聞いて私も笑顔で頷く。
最初はシャークくんとザクロで分けて移動することも考えたりしたが、ザクロが私以外の人を単独で乗せたくないタイプの子なのでこうするしかなかったのだ。私も一緒なら乗せてもいいらしい。そういうところはちゃんとプライドの高いドラゴン系種族らしさがあるってのがすごくいいよね。露骨に慕われているのが分かるから私としても嬉しいし。
「よしっ、最初はなるべくゆっくり浮上します。でも、揺れるものは揺れますから……怖かったりしたら言ってくださいね? 絶対に安全に移動するって誓いますけど、怖さはそれとこれとは別ですから」
「はあい」
「それから、鞍の前についてる輪っかからは絶対に手を離さないようにしてください。最初の浮上だけはどうしてもちょっと揺れるので、ぎゅっと握り込んで持っててください」
「ぎゅっ!」
「っ……」
口でも言っちゃうの可愛い。尊い。これが天使か……。
油断しているとオタク特有の早口でデレッデレの全肯定ムーブしそうになる。冷静になるんだ私!! ポーカーフェイス!! ポーカーフェイス!! 顔に出さないのは得意でしょ!!
「んんっ、じゃあ浮上します。ザクロ、発進。なるべくゆーっくりね」
頭絡から伸びた手綱を片手で取り、軽くザクロのお腹を圧迫するように足で挟む。本来は乗馬の際の発進の合図らしいが、神獣郷では騎乗の際の合図はどんな種族でもある程度共通だ。もしかしたら馬を乗れる人ならドラゴンの騎乗も余裕でこなしてしまうのかもしれない。
まあ私はステータスの器用値に物を言わせて対応しているだけなので、実際にリアルで馬乗ろうとしたらダメダメなんだろうなぁ……そもそも、アレルギーがあるから乗馬なんて夢のまた夢だけど。今度ユウマのパートナーに試しに乗せてもらおうかなあ。提案だけでもしてみよ。
口での合図と体での合図でザクロが首をあげ、ゆっくりと羽ばたいて地面を蹴る。さすがに最初の浮上だけは、ゆっくりにしようとしても多少は揺れるものだ。羽ばたくだけですっと浮き上がるわけではなく、足で地面を蹴って離れ、羽ばたいて浮上していくという過程が必要になる。
片手で手綱を持ち、もう片手でスーちゃんのお腹に手を回していた私は揺れをある程度受け流しながら前を見つめる。
ザクロはぐんっと最初だけ揺れて、どんどん地上から離れて行く。
あとは風が頬を撫でて行く感触だけでするすると上空に上がることができた。
「……」
「怖かったら言ってくださいね?」
前に座っているスーちゃんがあまりにも静かなものだから、心配になって声をかける。念のため手綱を少し引き、ザクロに空中のその場で留まってもらう。
そして前屈みになって彼女の横顔を覗き込んでみたのだが。
青ざめている……わけではなく、むしろ頬を紅潮させて目を輝かせているスーちゃんの姿があった。
私が覗き込んでいることに気づいて、彼女はパッと見上げてきて満面の笑みを浮かべる。
「お姉ちゃん、すっごく楽しい!! もっと速くても大丈夫だと思う!!」
「……これはなかなか、大物になりそうですね」
なるほど、さてはジェットコースターとか大丈夫なタイプだな???
今月の24日はケイカちゃんのお誕生日〜。
なにか用意できたらいいなあ(願望)
あとなにげに章タイトルを変更しています。
アマビエ関連のお話は最後として……①後輩ができた章、②沈黙の海城とウツボの章③アマビエの名前が入るタイトルの章という順番で行くことにしました。
毎回ほのぼのだけのシナリオにしようとしてシリアスが混入している気がしますね。海城の章では久しぶりに軽めの推理要素なんかを入れていきたいと思っています。
週一になってしまって申し訳ない!!
◇
ここからは私事となってしまうのですが。
今月と来月は乗馬の指導者資格を取りに行くために勉強したり試験受けたりしないといけないので特に忙しく、週一の投稿もちょっと時間帯がズレたりすることがあると思います。
投稿が遅れているときは日中外で馬乗ってる暑さと寝不足と勉強によるトリプルパンチで作者死んでるんだな……って察していただけると嬉しいです。本当に申し訳ない。
必ず更新はし続けますので、ご了承いただけたらと思います。
これからも神獣郷をよろしくね!!




