陽光は闇色の炎をうち祓う
シズクが雨技で足止めをし、シャークくんで駆け、松明で篝火台に火を灯す。
アカツキもダメ押しするように炎を放ち、ザクロも体をはってヒクイドリの移動を止めにかかっていった。
腕翼を大きく広げて走り抜けようとするヒクイドリを、同じく腕翼を広げてがっしりと掴み、押し合いをする彼女の姿は実に勇ましい。まるで怪獣大合戦である。もちろん応援するのはザクロちゃんだ。
「きゃー! ザクロちゃん頑張ってくださ〜い!!」
「ぴる!」
声援に応えてシュタッと手を挙げた彼女が「あっ」という顔をした。
手を離してしまったために、ヒクイドリが彼女を振り切って走り出す。ファンサービスが徹底していたばかりに!! 彼女がさいかわで優秀なばかりに!!
「でも……!」
篝火台の火は、全て灯すことができた!
あとはヒクイドリが火に食いつくのを待つだけ……のはず。
シャークくんに乗ったまましばらく様子を見ていると、ヒクイドリが私達を無視して夢中で篝火台の炎を舐め始めた。舐め取られると火は消えてしまうが、ちゃんとヒクイドリの炎は赤色に塗り替えられていく。
ここまで来たらあとはすぐだった。
なんせヒクイドリは他の魔獣と違って、人を追いかけることよりも火を舐めとることのほうを優先する。
篝火台を全て灯したあと、私達はヒクイドリの食事風景をただひたすら眺めるだけだった。
ん〜、配信の絵面として眺めるだけで終わるのはどうなの??? って気持ちはあるけど、結局のところここは初心者エリアだ。
恐らく、私達のように乗せてくれるパートナーがいなくとも頑張れば篝火台の全点火はできるようになっていることだろう。たとえば……身を隠せばヒクイドリはこちらを見失うとか。隠れてこっそり篝火を灯していくミッションみたいにすれば安定クリアも可能だと思う。
「ぐっ、ぐくっ、ケェーッ!!」
ヒクイドリが天を仰ぎ、高らかに鳴き声をあげる。
そしてその身に纏う炎が全て赤色に変わると、そのトサカからぶわりと放たれた炎が霧で薄暗かった森の木々をひらき、陽光を呼ぶ。
「まぶし……」
頭上を覆うような暗い空間だった広場は、太陽の光が差し込むようになり、そこらで燻っていた紫色の炎は太陽の光に追い立てられるかのようにして消えていく。
ずっと暗い中にいたせいか、陽光が眩しく感じて私は袖で目の上を押さえる。
そしてもう一度よく見ようと前を向くと、ヒクイドリは額の宝石の色から濁りが薄れ、瞳の色も赤から穏やかなオレンジの夕焼け空のような色に変化していて、すでに正気に戻っていた。
広場はすっかり神秘的な森という風情になっていた。最初に来たときの、あの世に存在しそうなおどろおどろしい森というイメージとは真逆の存在だ。
「陽の光が差し込んでくるだけでここまで違うんですか……」
闇を光が追い払い、打ち勝ったことをはっきりと表す光景だ。森の変化は恐らく、ヒクイドリの心の曇りを明るい火で祓ってあげられたということを表すのだろう。
広場の真ん中で静かに佇むヒクイドリの姿は、とても神々しかった。
正直、紫色のバージョンも結構好きだったので色のカスタムとかできませんか。そうですか……。
「これは……いつものやつですね」
私はシャークくんの背中から降りて、ヒクイドリの前まで行く。
「クルルルルッ」
すると、聖獣・ヒクイドリを浄化したことを告げるウィンドウがポンッと出てきて、力を貸したい旨を告げてくるわけだけれど……毎回仲間にしているわけでもなし。あと、多分ミズチやライジュウよろしく仲間にしても進化前……つまり、アカツキの初期と同じ姿まで戻る可能性が高い。見た目は好きなんだけどなあ。
ルースターに戻っちゃうんだろうし、仲間入りは見送らせてもらおうかなあ。今私が優先しているのは、小さな後輩のお世話だし。それに、レキやザクロの進化がまだだもんね。
仲間が増えると楽しいが、その分みんなそれぞれに割く時間も短くなっていってしまう。レキとザクロにももっと構ってあげたい。レキなんて、最年長キャラだからって自分の進化を後回しにしている気配さえある。
だから。
「ありがとう、でもお力添えはこの子達で十分です」
正気に戻ったヒクイドリに向かって話すと、夕焼け色の瞳を細めて頷いてくれた。それから、長いクチバシを私の頬にそっと寄せてすりすりっとしてから、ヒクイドリは背を向ける。歩き出し、去ろうとするその尻尾がゆらゆらゆらゆらと揺れ動きふわっふわの羽毛が風でなびいて――。
「あ、あの!! ……や、やっぱりちょっともふらせてもらってもいいですか!?」
むんずとその尻尾を掴んで、アカツキにベチンと翼ではたかれた。
……
…………
………………
「立ち去る演出の最中に割り込む人間ってわりとレアだよね! 逆にすごいよ!! 今回の行動は珍しいパターンだからデータベースに登録しておくね!!」
「えっ、ちょ、待っ」
……撮影用に呼んだアルターエゴに、ものすごく嫌味のあるようでない笑顔で言われた言葉である。
当然のことながらコメントが大盛り上がりし、多量の切り抜きが製作され、ツブヤイターでストッキンさんがアップした切り抜きがバズったりしたのだが……恥ずかしいのでこの話は忘れよう。うん。
タイトルはかっこよくしたのに、毎回もふもふ限界オタクオチ担当になりがちな主人公なのであった。




