舞姫、エレガントヤンキーの称号譲るってよ
太陽属性の炎がはじけ、それをヒクイドリが舐めとる。
またしてもヒクイドリのトサカに赤が混じり……やがて紫に変わっていく。
しかし、先程の晴れ技のときよりも赤に変わっている持続時間が長めだった気がする。うーーーーん、やっぱり正規ルートは篝火台っぽいけど、こっちもなくはないって感じか。
「ところで視聴者の皆さんは、神獣郷のボス戦において攻略ルートがいくつあるかご存知ですか〜?」
ヒクイドリが炎を吐いたり、蹴ったり、蹴ったり、蹴ったりするのをスリル満点アトラクション気分で避けながら視聴者向けにクエスチョンタイム!
ま、避けてるのは乗ってるシャークくんなんだけどね! でも、シートベルトなしのアトラクション感があるのは間違いじゃない。結構なスピードでぐわんぐわん蛇行して回避してるから、体感的にだいぶ危険運転な気がする。
さて、攻略ルートの数の話に戻ろう。
コメントはオフってるから反応が見れないが、さっきの質問の際にささっとアンケートを作ったので票数は見ることができる。
ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ。この四択だが……。
「正解は……私は四つだと思っています!」
アンケートと言っても、ただの話の種なのですぐに締め切り、答えを話しだす。
その間にもアカツキとザクロが太陽属性の炎でヒクイドリを餌付けしてみているのだが……確かに太陽属性なら赤い炎の持続時間が長いが、それこそ四匹全員太陽属性の大技を持っているとか、もしくは低コストでばかすか技を出せるような状態じゃないと紫色の炎を鮮烈な赤で塗り潰すことはできなさそうだ。
「ひとつは、単純に不殺とかなしに倒すことですね。これはRPGとしてはスタンダードなルートです」
そして、倒すのが一つ目なら当然。
「ふたつめは、制限時間内を逃げ回って『撃退』扱いにすること」
一応撃退も不殺の範囲だ。なんせ、撃退ならボスのほうから逃げるということになるから。ミズチ戦での撃退はなんか、倒したみたいな演出だったけどね。でもあれは、滝の裏に洞窟があることを示すヒントのようなものだったから仕方ないっちゃないかな。
「みっつめは、ギミック攻略です。これはミズチ戦においての、滝の裏の洞窟を登り、毒の壺を壊すルートのことですね。ライジュウとのレースもそうですし、キッチョウのときのもそうです。キッチョウのときのは若干さらに裏ルートって気もしますが」
要するに『完全攻略』扱いになるのが、この三つ目の正規ルートである。
じゃあ、四つ目はなんだよ? って話になるのだが。
「四つ目はゴリ押しルートです。ふふ、ゴリ押しってなんだよって思いますよね? あーと、たとえばですね……ミズチ戦なら、空を飛べるパートナーがいれば滝の裏のルートを使わずひとっ飛びで直接滝の上に行けますし、遠距離攻撃を持っていれば獣退散のお札が貼ってあっても関係なしに壺なんかすぐに壊せちゃいますよね? そういうルートです。最速攻略用とも言えるかもしれません」
で、だ。
なんでこの話をしたのかと言うと。
「さて、そこでです。ヒクイドリは炎を食べると紫の炎が正規の赤い炎に変わりますが、徐々にまた紫に戻ります。晴れ属性は短く、太陽属性は晴れより長く変化したままですが……じゃあ、この松明はなんのためにあると思いますか?」
小さいながらもごうごうと燃え盛る真っ赤な炎。
設置された篝火台。
そして、ヒクイドリは攻撃よりも炎を食べることを優先する。
もしかしたら、人間への恨み云々で私を追いかけているわけでなく、私の持つこの炎を追いかけているのかもしれない。その可能性ももちろんあるだろう。
「私の考えですと、ヒクイドリはこの松明の炎を食べたら、赤い炎が紫に戻らなくなるんじゃないかと思うんです。篝火台が必要なのは、この炎をいくつも分けてそれを全て食べさせる必要があるからじゃないかと」
攻撃技の炎でわずかな時間、紫に赤が混ざるなら。
この松明産の炎ならばその混ざった赤が消えなくなるのではないか? と思っている。
いわば、ギミック攻略ルートは『誰でも、どんなパーティ構成でも工夫すれば完全攻略できる』ルートだ。
炎技がいっさい存在しないパーティ構成でも、松明ギミックを利用してならきっとクリアできるようになっているんだろう。ゲームである以上、ギミックも、ボスも、絶対に攻略できるようにしておかなければならない。
この場合、ヒクイドリの四つ目のルートは大量の太陽技で紫の炎に戻る前にゴリ押しで全部を赤に染め上げてしまう……ということになるだろうか。それもできなくはないと思う。
私は推定正規ルートを突き進むけども!!
松明の赤い炎を消さないようにしながら、篝火台に近づいて火を灯すのが最善。けど、それをするためには少しでもヒクイドリの足止めをしなければならない。意外と早いのだ、あの鳥さん。ダチョウっぽい見た目だからだろうか。ダチョウも足が速いっていうよね。ぐるぐると追いかけ回されながら喋り続けられるのは、まあなんというか、器用さと慣れだよね。
「あとは、この考えが正しいかどうかを――確かめるっ、だけですよね!!」
なんか格好いい感じの宣言になったが、ただ単にシャークくんが急カーブして遠心力がかかっただけである。さすがにつよつよ遠心力を相手にしたら言葉も詰まる。それでも喋るけどね!!
「シズク、水球でヒクイドリを食い止められますか!?」
「しゃあ!」
潜行するシャークくんの上で、シズクが大きな水の球を作り出し、落とす。
それを、猪突猛進気味にダッタカダッタカ走っていたヒクイドリはまともに受けた。顔だけ出た状態で水に覆われてもがき、しばらくの間行動不能に陥るさまを見ながら順調に松明から篝火台へと炎を移していく。
「クルルルルルッ」
そして、水から解放されたヒクイドリは美しい貴婦人のような姿から想像もつかないほど怒り狂い、その場で地団駄を踏みまくった。地面が足のかぎ爪で抉れていく。
おおう、優雅な見た目をしているのに案外苛烈だ。
「いいですか皆さん、ああいうのが本来はエレガントヤンキーと言うべきなんですよ。残念ですが、ひっじょーに! 残念ですが! 私よりもヒクイドリのほうがお似合いなのでこの称号はお譲りしようかと思います。これからは心機一転、エレガントふぁびゅらしゅなケイカちゃんをよろしくお願いいたしますね!」
空を飛んでいるアカツキと、一緒にいたシズクがいっせいに振り返った。
な、なんですかその目は……なんでそんな、やれやれこの人はダメだな(笑)みたいな目をしてるんですか!! 被害妄想かもしれないけど!!
そうだよ噛んだよ!! 悪いか!! ファビュラスなんて日常でなかなか口にしない言葉でしょ!!
私達がそんな感じで無言のままやりとりしていると、ヒクイドリは奇声をあげながら篝火台にドタバタと足音をたてながら向かった。やっぱり最初の優雅さとかはカケラも見当たらない。ふっ、勝ったな。
「クルルルルァッケェーーーーー!」
そして、嬉しそうに篝火台の火を舐めとっていった。
しかし、篝火台の炎はいくら舐めとられてもなくならない。やがてヒクイドリは満足して篝火台から離れたが、そのトサカに混じった赤い炎は消えることなく混ざったまま存在している。
「予想ド真ん中大当たり〜〜!! ……ですね?」
口元がにやけて仕方ない。
やっぱりこういうギミックが予想通りでしかも看破できたときって、サイッコーに気持ちいいし楽しいよね!!
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