リスのリャッキー
「チキチキ・ミズチ戦見守り隊〜!!」
さて、場所は相変わらず王蛇の水源である。
みんなで頑張るぞーと声をあげると、スーちゃん達も元気いっぱいに腕を挙げて「おー!」と言ってくれた。子供ってやつはどうしてこんなにも可愛いのだろうか。スーちゃんが素直でとてもいい子だから、余計そう思うのかもしれない。
「私は後ろから見ていますから、教えたように頑張ってみてくださいね」
「はあい!」
彼女達は教えたことをするするとできるようになるので、教えるこちら側としてもやり甲斐がある。魔獣相手のバトルはもう問題ないし、森の探索も大丈夫だろう。
私は後輩をただよしよしして、守りながらレベルだけ上げさせて進むつもりはない。基本スーちゃんには自分で考えて動いてもらいたい。なので、水源ステージについても彼女とビィナを先頭にして私達はそれについて行きつつ、ときおり困っているときにアドバイスをしたり手助けをする程度に抑えてゲームを進めることになった。
引率の先生ではなく、見守る保護者的な立ち位置だ。子供の自主性、大事。
望んでもいないのに横からあれこれゲームについて口出しされるのは楽しくないからね、自分で考えながらやるからこそ楽しいものなのだ。だからミズチ戦についてのネタバレもなしである。
あ、でもスーちゃんのログイン時間がどのくらいまで大丈夫なのかを知らないので、場合によっては途中で解散することになるかもしれない。そうしたらお別れかなあ……フレンドにはなったけど時間が双方合うかも分からないし、楽しく一緒に遊べるのは今のうちかも? 楽しんでおかなくちゃ!
「お姉ちゃん! いっぱいキラキラしてる!」
スーちゃんは動き回るのが楽しいらしく、あれこれと森の中を探索しながら進んでいる。どうやら採集系のスキルを持っているらしく、私が見えないポイントでもしゃがんだり、駆け出したりして採集に向かっていた。木の上にある果物なんかはビィナがサッとのぼって取ってきてくれたりもする。
「わっ、まんじゅう!」
木の影から現れたリスのような魔獣に驚き、スーちゃんは華麗なバックステップを決める。それと同時に私は魔獣を饅頭と言った彼女にツボり、思い切り木の根っこにつまずきそうになって変なポーズを取るハメになった。子供の言い間違いっておもしろ可愛い。
「魔獣が来ましたね! さっ、スカウトしてみましょう!」
「あっ、まじゅう……はあい!」
言い間違いは気づかなかったふりをして、さらっと正解の単語を交えてバトルをうながせば、スーちゃん達は上手く立ち回ってリスの魔獣をスカウトする。尻尾がとっても大きくてハート型のようになっている可愛い魔獣だ。
スーちゃんはスカウトが成功するとビィナとハイタッチし、すぐさまリスを抱っこしてこちらに来た。キラキラおめめで「おねーちゃん、見て見て!」する姿があまりにも妹。なんじ、我の妹。私は五姉妹だった……?
「お名前は決めたんです?」
「リャッキー!」
「ラッキー?」
「リャッキー!」
「そっかぁ〜」
リスの男の子は名前がリャッキーとなりました。スリャーシャちゃんの出てくる冒険記にもリャッキーという名前のキャラクターはいたが、確かほぼモブに名前がついたレベルの出番しかないが、その分明るい性格の中に仄暗いものを隠している感を匂わせていて大人のお姉さんがたにはやたらと人気って枠だった気がする……なんというか、すごくツウなお名前チョイスである。
彼女のアバターはてっきりご両親が設定して、こうしなさいって決めているだけかと思いかけてたけど……こりゃあ、スーちゃん自身がかなりハマっているな。そりゃそうか、ビィナの名前だって彼女が決めてるんだもんね。見事に「星空☆ドロップス」略して「星ドロ」に染まっていると言えるだろう。
元気な女の子スリャーシャちゃん自体は物理で殴るタイプの主人公だが、繊細で素敵な「星織りの生地」で作られたドレスや服に憧れ、冒険しながらいろんな国で仲間と出会い、星織りの仕方を習って修行しつつ、世界最高の星織りドレスを作ろうとする健気な子だ。
星空から垂れてきたしずく、ドロップスを国ごとに集めてビンにだんだんためていく様子がEDで見られたり、色々と細かくて大人でも楽しめる良作だったけど、やっぱり小さな子供もああいうの憧れるんだろうなあ……っとと、思い出してる場合じゃなかった。
ともかく、スーちゃんはただアニメをボーッと見ているだけでは注目しないようなキャラクターも好きで、新たに仲間になった子にその名前をつけるくらいにはガチファンだということである。
リスのリャッキーは先輩のビィナとひとしきり挨拶し、ほっぺをきゅっと寄せ合ってからこちらに挨拶しにきた。なにあの可愛い挨拶。
チラッと視線をオボロに向けると、さっきのを見ていたのか背中に乗っているシズクに振り返り、ほっぺとほっぺをあわせてニッコリ笑顔になっている。真似をしたらしい。可愛い。私も肩のアカツキに頬を寄せると、クチバシできゅっとつつかれた。素直にやってくれないあたりがぎゃんかわ。
局地的にほっぺすりすりが流行った瞬間だった。




