お姉ちゃんに任せなさい!
「やりたいこと……?」
もふもふの毛皮の中を堪能しながらスーちゃんは呟いた。
オボロは彼女のされるがままになりつつ、ふへふへと舌を出して笑っている。子猿のビィナに乗っかられ、毛繕いをされていることもあって嬉しそうだ。お姉ちゃんが下の妹達の相手をしているような図が尊い。
「そうです。スリャーシャちゃん……スーちゃんがこのゲームの世界でなにかしてみたいこと、やってみたいことがあったらお付き合いしますよ。思いつかないようだったら、チュートリアルを私が代わりに教えますね」
チュートリアルと言っても、街でアイテムを購入するやりかた、宿屋でのセーブのしかた、ステータスの説明やらバトルの説明、不殺プレイのやりかたなど、簡単なことしか教えることはできない。
あ、あとフレンド登録とか、仲の良い人へメッセージを送る方法とかかな。これに関しては第一号が私になったらいいなという願望込みだが。
体の動かしかたはどうやら大丈夫なようだし、相棒との仲も良好そう。ゲームの世界観への抵抗や違和感もなさそうだし、対人関係は初っ端からトラウマになりそうなことになっていたが、私とのおしゃべりが平気そうなので、こちらも致命的な失敗にはなっていなさそうである。最初だから驚いてしまっただけで、大人にもそのうち慣れるかな。
ただ、なし鯖がわりと善人ばかりのサーバーだからといって安心しきっていいわけでもないので、ちゃんと頼るならこの人にしておいたほうがいいという意味でリリィあたりを紹介しておくべきかもしれない。
あ、いや、初心者だとリリィはまだあれか……まずバトルや世界観に慣らして、試練的な意味でミズチのところに連れて行ったり、リリィのイベントをこなしてもらって、リリィとの交友関係を築くことを優先するべきだろうか?
ま、その辺は臨機応変に……かな。
「チュートリアル?」
「ゲームの操作方法を私がひと通り教えましょうかってことですね」
「ん〜、お願いします」
「分かりました。で、えと、なにかこの世界でやりたいこととか……目標? みたいなのってありますか?」
「もくひょう……ペンギンさんが見たい」
「なるほどペンギンですか」
ペンギンさん、か。
奇しくも私には心当たりがある。つい先日赴いたコロコロ雪原に、確かペンギンが生息していたはずである。
ただし、あの場所はそれなりに高難易度なので、せめてレベルを20くらいまで上げてからじゃないと、私が護衛クエストをするにしても厳しい。さすがにレベル1を護衛しながら高難易度ゾーンをうろつけるほど私は「できる」プレイヤーではない。誰か一匹常に護衛につけていれば大丈夫かもしれないが、念には念を入れて最低限自分の身を守れるようにはなってもらったほうがいいだろう。
聖獣達はその限りではないが、魔獣はこちらを憎んでいるので「接待」はしてくれないのだ。特にあの近辺の海域にいたでっかいウツボとかね。
ペンギン探しということは、海に近づくということでもある。万が一陸上のペンギンではなく、水中で泳ぐペンギンが見たいなどと言われてしまったらまずいから……私の中ではとりあえずシステム周りを教えたらレベル上げというプランが組み立てられていく。
レベル1を確実に守り切れる自信は正直なところ、ない。
スリャーシャちゃんは子供だから、一回死んでやり直しが起きてしまったら、それがトラウマになっちゃうかもしれない。
走り回ることができた……って喜んでいたところを見るに、多分ゲームはやったことがあるものの、フルダイブ系ははじめてだと思う。フルダイブゲームで死ぬということは、子供がはじめて経験するとするとちょっと刺激が強いかもしれない。さすがに痛覚の制限もあるし、それですぐやめちゃうってことはないだろうとは思うが、多少ショックは受けるだろう。なら、なるべく私が介護プレイして慣らしてあげてからいろんな経験をするほうがいいだろう。過保護だって? 子供相手なんだからいろいろ気を遣ってうでしょう!!
うん、やっぱり最初は体を動かすことに慣らしてレベル上げだね。
「そうですねぇ、ペンギンさんのいる場所を私は知っています。だから、連れて行ってあげることはできますね。でも、と〜っても強い動物がたくさんいるところなので、まずスーちゃんは体を動かすことに慣らして、レベルを上げましょう。ここまではいいですか?」
「う、うん! ペンギンさんも強い?」
「うーん……」
私は大抵不殺のために受け流したり回避したりでバトルを終えてしまうので、魔獣関係の強さ云々はちょっと把握しづらいんだよなあ。でも、魔獣が少なくて、聖獣の多かったあそこは高難易度領域なのは間違いないので、多分強いほうだとは思う。
「強いと思う。でも、お友達になっちゃえば心強い味方になりますよね」
「うん! あたし、ペンギンさんとお友達になりたい! 一緒に冒険したい!」
その言葉に、彼女の相棒が少しだけショックを受けたような顔をする。スーちゃんは別にビィナを蔑ろにしたいわけではなく、単に無邪気にペンギンにも会いたい。友達になりたいと言っているだけなのだが……まだまだ出会ったばかりだからか、ビィナは「相棒は自分よりペンギンのほうがよかった」と受け取ってしまったのかもしれない。
「ほらほらスーちゃん、ビィナが『自分よりペンギンさんがいいの!?』ってびっくりしちゃってるよ」
「え? ええ? ビィナ大好きだよ? ペンギンさんには会いたいけど、ビィナよりもいいってわけじゃないもん!」
白い子猿がほっとする姿を見て、私もホッとする。
いやあ、子供って言葉の言い回しを深く考えてないところがあるから、こうして相手を無意識に傷つけちゃうことって結構あるよね。フォローが上手くいったようでよかった。
「レベル上げは頑張れますか? あと、ゲームのいろいろを覚えることも。そしたらペンギンさんに会いに行けるようになりますよ」
「やる! 頑張る! お姉ちゃん、よろしくおねがいします!」
「ひぇっ、幼い光属性尊い。くっ、お姉ちゃんに任せなさい!」
「やった!」
「圧倒的光属性すぎて浄化されそう……えっと、まずはステータスの見かたからはじめて……それから、ビィナともっと仲良くなるための方法も教えますね」
「ステータス! あたしにもあるの!? ゲームみたい!」
ゲームなんだよなあ。
「ステータスは、心の中でステータスって言いつつ手をこう、かざして……」
「こう?」
スリャーシャちゃんの目の前に透明なウィンドウが現れ、彼女はびっくりしたようにマジマジとそれを見る。
「お上手!」
「えへん! この数字がステータス?」
「そうです、他にもメニューって思い浮かべればステータス一覧より前の項目を選べるので……」
「ふんふん」
こうして、飲み込みの早いスリャーシャちゃんにひと通りの操作方法を教えていったあとのことである。彼女はふと、思い出したように呟いた。
「ねえ、おねーちゃん。さっき言ってたビィナと仲良くなる方法ってなに?」
「よくぞ訊いてくださいました!!」
そして私はドヤ顔で、懐から聖獣用のお手入れ道具をささっと取り出してみせる。
「やっぱり仲良くなると言ったら毛繕い……ブラッシングでしょう!!」
すっかり懐いてくれた少女のことを、親戚のお子さんレベルの親しみを感じながら、得意げに私は「お姉ちゃん」になるのだった。
遅れてごめんなさい!!
皆様、ゴールデンウィークはいかがでしたでしょうか?
私のほうは、リアルでもVR動物触れ合いゲーがいっぱい増えればいいのになあと思う今日この頃です。それこそ本当に触っているみたいに遊べるVRがほしい。
馬と犬と猫は職場(乗馬クラブ)で直接愛でられますけど、それはそれとしてゲームでも触れ合いたいっていうのは矛盾しない事実ですよねぇ。
漫画を描いてくださっている春千秋様が、Twitterにて第一話の公開をしておりました。よければこちらもいいねしたりしていただけると嬉しいです!!
https://twitter.com/haruaki_000/status/1519942851597012995?s=21&t=Hoanatxwpwk5s8fJvCPgjA




