小さな勇者スーと、お猿のビィナ
「私はケイカ。こっちの子達はアカツキに、オボロに、シズクとジンです。お名前を一気に覚えるのが難しかったら、あだ名で呼んで大丈夫ですからね〜」
モフモフしても良いという許可を得て、少女はおめめをキラッキラにして私を見上げてきたので、彼女に合わせてしゃがんで挨拶をする。彼女は私の背中に生えていた翼を恐る恐る触ってみて、さらにおめめをキラキラと輝かせた。ぎゃんかわである。
しかし、モフモフされていた翼は数分でキラキラエフェクトを残して消えてしまった。突然消えた翼にびっくりしたらしいが、彼女はキラキラおめめをまんまるおめめに変えて「すごーい! すごい! マジック? 魔法?」と興奮したように言った。とても可愛い。これは語彙力溶けますわぁ……しかも外見は小さい頃に見て憧れになった主人公と同じっていうね。なにこの夢のような状況? リアルスリャーシャちゃんじゃん。もはや嬉しすぎて怖いくらい。
「はね……なくなっちゃったの?」
ほんの少しだけしょぼんとしているスリャーシャちゃんマジ天使。
心なしか肩に乗っているお猿さんもしょんぼりしている気がする。こちらも可愛らしい。お猿さんもいいよなあ、いろんなスキル覚えてくれそうだし、なにより手先が器用だから、きっと進化して大きくなったら手を繋いで歩けるようになるんだろうなって予想がつく。オボロ達のように触れ合うのも好きだが、手を繋げるって、なんだか特別でいいなあとも思うわけだ。
「羽根はほんの少しの間だけ使えるものなんです。ほら、こっちのアカツキの羽根とお揃い!」
「ほんとだ! お姉ちゃんについてたのと同じ! きれー!」
スリャーシャちゃんは私達を見比べて無邪気に喜んでいる。
綺麗と言われたからか、まっすぐな彼女の瞳にアカツキが照れたように目を逸らした。しかし、その割には翼をパタパタと開いたり閉じたりしてサービス精神を見せている。照れてはいるけど嬉しいものは嬉しいんだね、分かります。
スリャーシャちゃん、本当にリアルなスリャーシャちゃんって感じで素晴らし……ん、なんか忘れてる気がする。
あ、そうだ。
「えっと、あなたのお名前は聞いても大丈夫でしょうか? あ、ゲームでのお名前ですよ」
そういえば勝手にスリャーシャちゃん扱いをしていたけれど、名前は聞いていなかったなと気づいた。なにもアピールせずに名前を聞いたら警戒されていてもおかしくはなかったが、イメージがプラスされるように格好良く登場して助けたし、なによりオボロ達により随分とリラックスしているようなので、今は大丈夫だろうと思ってのことである。
この情報社会だ。バーチャルで買い物もできるし、昔よりもずっとセキュリティレベルは上がっているが、小さなときから情報管理の恐ろしさは徹底して教育される。
親にきちんと言い含められているのなら本名をすぐに名乗ったりはしないと思うが、念のため「ゲームでのお名前」と念押しして自己紹介を促してみたのだが……。
「あたし? えと、あたしはスー! こっちはビィナ! お姉ちゃん、さっきは助けてくれたり、いろいろありがとう!」
なるほどなるほど〜、スリャーシャちゃんのスーね。確かにまったく違う愛称とかプレイヤーネームにするよりは、このアニメキャラの名前そのものに関連づけたネームにして覚えやすくするほうがいいもんね。
これもお母さんかお父さんの知恵だろうか? うっかり本名を言ってしまったら困るもんなあ。もしかしたら、本当に愛称がスーで、そっちが慣れているからこのキャラを選んだ……とかもありえる。
本名をそのままカタカナにしてゲームやってる私が言えたことではないが、ネットリテラシーは大事。このくらいのお子さんとなると、なおさらだ。
血中のチップが理由で安易な誘拐とかは減ったけど、どうせ見つかるならとかいう理由で、犯罪するなら確実に仕留めてから捕まるべしみたいな部分多いからね……最近は。総数は減ってるけど、少数のガッツある人の凶悪度は上がったというかなんというか……まあ、いつの時代も物騒なときは物騒だということだ。
「お姉ちゃん、聞いてる?」
「ん? ああ、ごめんなさい。なんでしょうか?」
「そっちの子達とも遊んでいい?」
彼女の視線の先にはオボロとジン。無邪気で、そして期待するような表情に、私は軽率に撃ち抜かれた、
……守護らねば(使命感)
「オボロ、ジン、どう?」
「わふう」
「なーん」
「触ってもいいって言ってますよ」
「ほんと!? やったー! ありがとう!」
「く〜ん」
スーちゃんは近寄ってきたオボロに恐る恐る手を触れて、それからもっと笑顔になった。ぎゃんかわ。こうして見ると、妹の小さいときを思い出すなあ。
「えへへ、オボロちゃん? よろしくね!」
「くう〜わふっわふん、きゅ〜ん」
首元をよしよしと撫でてもらえてオボロはご満悦だ。彼女に合わせて力加減をしつつ、もっともっと! と体をすり寄せて、そのもちもちの頬をぺろんと舐めて喜びを表している。
その横では彼女のパートナーがムッとした顔になり、反対側のほっぺに自分も頬を寄せた。結果的に両側からぎゅうぎゅうと挟まれてスーちゃんは面白い顔になっているものの、とても幸せそう。
私には天使と天使と天使が合わさり最強に見える。ザ・目の保養。イケメンも目の保養になるが、やはり癒しといったらこれよな……。くっ、光属性が眩しい。
「おねーちゃん、お空見てどうしたの? ぐあい悪い?」
「なんでもありません。具合も悪いわけじゃないですよ。むしろ絶好調というか……」
「そっか、ならよかった!」
「くっ」
圧倒的、光……!!
ちょっと、日陰に慣れ親しんだ私には眩しすぎて蒸発してしまいそうなくらいの純粋さと可愛さの暴力だ。あまりの尊さに思わず天を仰いでしまっていたのだが、それが返って心配させてしまうことになるとは。どうして天を仰いでいたのかなんて答えられるわけがない。相手が純粋すぎる。せめて中学生になるまではそのまま育ってください。
「えっとぉ……この子は、じん!」
「そうそう」
「なお〜ん」
今度はジンが彼女にすり寄り、構ってアピールをし始めた。うちの子達は甘えるスペシャリスト揃いだからね。尻尾の付け根のあたりをトントンしてもらって甘えた声を出すジンが、尻尾をくるっと構う彼女の手に緩く巻きつける。
本物の猫よろしく足元をうろちょろしながら、撫でてもらってはちょっと移動してを繰り返し、彼女の手が届きづらいギリギリのところで寝転んでみせるという小悪魔的所業までやってみせている。当然、彼女もこれにはたまらない。少しずつ遠くなるジンに対して、軽く追いかけて移動しながらスーちゃんが構いに行くの繰り返し。
そのたびにオボロも移動して彼女のほっぺたに鼻をくっつけたり、くるくる周囲を回って軽く体を押し付けてみたり、小悪魔なジンに抗議するように鼻を突きつけて軽い猫パンチを食らって尻尾を丸めたり、いろいろしている。その全ての光景が私にとっては刺激の強いご褒美映像だった。
こんなにも尊い光景がこの世にあっても良いものなのだろうか……? 大丈夫? 私いつのまにか死んでたりしてない???
ほっぺたをつねってみる。あ、違和感。痛くない……つまり夢??? いや違う、錯乱している場合じゃない。そもそもゲームの世界だし、ダメージを受けたとしても痛みなどの痛覚は機能しないので、つねっても痛くないのは正常だ。夢かどうかの判定は圧倒的無意味……!
「シャア」
「ぶえっ!?」
顔面に水をかけられて私が間抜けな声をあげると、いっせいにスーちゃんやオボロ達が不思議そうにこちらを見た。なんだろう、今の声? みたいな反応である。
「シズク……」
「シャア〜」
私に水をかけた犯人ことシズクは目を細め、笑っているように尻尾を大きな口元に当てた。まるで「目は覚めたかしら?」とでも言っていそうな仕草に、私は苦笑する。
「目、覚めました」
「シャ」
そうだね、夢かどうか悩んでいる私に対して水をぶっかけて起こすことで夢じゃないぞと語りかけてくるなんて、君にしかできないよ。
大人組としてシズクやアカツキとともにじゃれ合うスーちゃんらを眺めつつ、時間経過を待つ。完全に気を許してくれたタイミングで、分からないことがあったら教えるねと先輩としてのレクチャーをしてみようという魂胆である。
そうしてしばらく眺めていて……。
「そういえば、あたしさっきおっきい人達から逃げるとき、走れてた!! 息苦しくならない!! すごい!!」
唐突な闇に被弾した。
守護らなきゃ(使命感)(2回目)
コミックポルカ様の公式サイトとニコニコ漫画にて、コミカライズ第14話が更新されております。
今回のコミカライズのお話は、ミズチとリリィ編が終わっていったんログアウトしたところと、はじめて卵がベッドに現れたときのお話ですね。
たびたび更新が空いてしまい、申し訳ありません。
更新の際は必ずTwitterで報告をいたしますので、気長にお待ちいただけたら幸いです。これからもなにとぞよろしくお願いいたします!




