リアル友人達とカラオケ店で同ゲーム交流会
ハロウィンイベントも終わり、学校が休みの日に私は出かけていた。
大きなイベントが終わったあとだからという理由で、友達からカラオケのお誘いを受けていたのだ。
さすがに学校全体に配信者活動がバレているわけではないが、アバターをいじることのできない公共のバーチャル空間と同じように、ほとんど容姿を変えずに『舞姫のケイカ』として活動しているため、どうしても友人間ではバレるものである。
そのため、友人達は基本的に私のハマっているもの、ことの予定があるならしょうがないよねとリモートお茶会をしたりなんだり、どこかに出かけたのであれば「あれが美味しかったよー、今度一緒に行ったら食べようね」みたいな約束をしてくれる。優しい世界すぎて全私がむせびなく。なんとも、私にはもったいないくらい優しい友人達である。
「ふふ、みんなに会わせるのははじめてだね。楽しみ?」
「くぅ!」
「わふっ!」
待ち合わせの場所に向かう途中、カバンの中で大人しく外を眺めていた二匹が返事をする。
本日はスマホの中でのお出かけではなく、ぬいぐるみの体を伴ったお出かけである。いつもなら、盗難を警戒してぬいぐるみ本体を持ち出すようなことはあまりしないのだが……やっぱり友人には見せてあげたいよねという心理が働いて、いい機会だしと連れ出したのである。
一応盗難対策はしてあるし、私が目を離さず、お手洗いのときでさえ肌身離さず連れ歩くくらいのことをしていれば恐らく……大丈夫。ちょっと不安になってきた。アカツキとオボロに、知らない人にもし万が一攫われちゃったら、こうしてねと改めて作戦を話して聞かせておく。
アカツキ達とたわむれながら、そうしてカラオケ店へと入った。
念のためアカツキ達に鞄の中に身を潜めてもらい、ぱっと見見えない状態にしてから、待ち合わせをした代表者の名前を伝える。
なんだか店員さんにジロジロ見られている気がするが、気にしないようにして髪の先をくるくるといじった。
……落ち着かない。
最近、こういうことが結構ある。
やはりアバターの見た目をそんなに大きく変えていないせいか、後輩から声をかけられて、直接課金用のカードを貢がれそうになったり、写真をねだられたり……ファンサービスを求められるようになったのだ。
雰囲気と容姿で大抵正体に察しがつくらしく、今更ながらもうちょいいじっておくべきだったかなあと後悔している。
だが、あんまりアバターを変えすぎてもそれはそれで動きに違和感を覚えてしまってパフォーマンスが落ちるのでなるべくしたくない。
人にも動物にもなれる獣人として、自分の引き連れた動物姿の群れにとって安全な住処を作る……という街建築系のゲームを昔やったことがあるが、あれはひどかった。最近ではアップデートされてだいぶ違和感は減っているらしいが、昔は本当にひどかった。パフォーマンスが落ちるどころではなかったし、あれはトラウマものである。
動物の姿になって動き回るとめちゃくちゃ酔うし、獣人の姿のときは身体能力が高すぎてアイテム類を壊しまくってしまう。チュートリアルも従来の基本操作のみで、ゲーム始めたての人はまず、一歩もそこを動かずにボーナスで出てきたアイテムをぶっ壊しながら力加減を覚えることから始めなければならないのだ。
それなのに、アイテム類は全種類もれなく壊れる仕様で、せっかく初見のボーナスで貰えたアイテムも手に取る端から壊れて塵になっていくという……なにも知らない初心者だった私は普通に意味が分からなすぎて泣いた。オフラインが基本のゲームだが、オンラインの協力プレイもできないこともないって感じのゲームだったので、すぐさまオンラインに変更して助けを求めたくらいだ。
あのとき、近くを通りすがった時計を首から下げたウサギさんに懇切丁寧に力加減の仕方を教わることができなければ、きっと私はゲーム自体嫌になっていたことだろう。感謝しかない。
あのゲームについては、力が強すぎる人外キャラの気持ちを味わえたと思えばまあまあ貴重な体験かな……くらいに傷が癒えてきているが、私が育成ゲーばっかりやるのは、この体験が尾を引いているのもあった。原因のひとつ的な。
つまりなにが言いたいかというと……私がアバターの見た目をあまり変えないのは、これの恐怖が若干残っているから、なんて理由になる。あまり自分と違いすぎると、上手くプレイできずに悲しくなるだけなのだ。
それを踏まえて考えると、今の『ケイカ』の姿はかなり大成功と言ってもいいのではないだろうか?
普段と同じくらいに動けるどころか、普段以上のパフォーマンスをできている自信がある。ゲームを始めて、舞姫をやり始めてからはちょっとだけ体育の成績も上がったし、上手く体を動かせるようになった気がする。
あ、でも少しだけ足癖が悪くなった気が……いや、多分これは気のせい。うん、きっとそう。
店員さんに言われたカラオケルームと、番号が間違っていないかを確認して部屋に入る。バーチャルのお店でもよかったのにアナログのカラオケ店を選んだのは……。
「おっはよー、京華ー! イベント乙!」
「け、京華ちゃん! 本物の京華ちゃんだー! 久しぶり!」
「学校でも会ってるのに本物の京華とはこれいかに??? おはー。あとおつかれ」
「藤白ちゃん、動画見ましたよ!! 今回のイベントも大活躍でしたね羨ましい!! ユニークイベに当たるその運ちょうだい!!」
口々に歓迎の言葉を述べる友人達に向けて、私はニッと笑みを浮かべる。
「私の運は私のものです〜。さてと、みんなもお疲れ様! 待たせてごめんね! じゃあ、さっそくはじめよっか!」
上着をハンガーにかけて、鞄の中から促すようにアカツキとオボロを出してみると、くるりくるりと二匹は周囲を見て、パッと顔を輝かせた。
だってそこには。
「うちの子もよろしくね〜」
「こっちもよろしく!」
「きゅん?」
「ピイピイ!」
「くう〜、リアライズが実装してる勢は羨ましいなあ……あたしも一緒に生身でお出かけしたいよ」
「分かる〜! 早くイノシシ実装してくんないかな」
ダルメシアン柄の子犬が一匹に、カナリアが一羽。
先日実装された、ゲーム内の進化後の姿にちゃんと変化させる機能を使っているようだった。
私は未だにアカツキもオボロも進化前のときの懐かしい姿になってもらっているので……そして、名実ともに、はじめて見る――自分以外のリアライズ聖獣達の姿だった。
そう、みんなもなんだかんだゲームをやっている同士なのである。
「よーし! パートナーのみんな、覚悟はいい? 私達はみんなもふもふに飢えたケモノだからね。さあ、もふもふ交流会inカラオケ! 一曲90点以上取るたびに好きな子を指名して吸える権利を得ます! みんな頑張るぞ!」
私の言葉に全員が「おー!」と返し、そしてパートナー達が全員「嘘でしょ!?」みたいな顔をした。
あっ、これみんな企画の内容伝えてないな?
そう思ったものの、自分自身もそうだったためなにも言わずに笑顔で企画を進める。
私の膝の上に抱えられたアカツキは、そんな私のことをジッと見つめていたのであった。
なお、オボロは普通に楽しんだものとする。
アカツキ(……理不尽な目にあったと、レキに報告しでもしようかな)
オボロ(お友達がいっぱい!!楽しい!!嬉しい!!キャッキャッ)
ケイカ(報告連絡相談の重要さを問う説教フラグが立ったことに気づいていない)
そこはかとない不穏さは吹っ飛ばすもの。




