表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【漫画単行本4巻発売中】神獣郷オンライン!〜『器用値極振り』で聖獣と共に『不殺』で優しい魅せプレイを『配信』します!〜  作者: 時雨オオカミ
ハロウィンイベント!『仮装した街の不思議な道案内』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

728/854

彼岸花の残された意味は、再会の約束


 そんなこんなでタフィーさんと談笑しつつ、先にパクパクと食べたり飲んだりしていると、別室に繋がる扉が突然開かれた。


「おいタフィー……なんか食いもんの匂いがするが……」


 なんとなんと、扉を器用にのしかかって開けたらしいでっかわ紫オオカミがやってきました。彼の尻尾に前足の爪を引っ掛けて怠惰にずるずる引きずられている青いオオカミさんもそこにはいて、むにゃむにゃと口元を動かして夢見心地状態だ。


 青いオオカミことベルリーナくんは半分寝ぼけている感じだろうか。完全にアートさんの尻尾に掴まって移動するのに楽をしているだけって光景である。アートさんも尻尾を重そうに持ち上げてはべしべしもふもふと彼の頭をはたいて起こそうとしている……が起きそうもない。


 怒ったりせずに起こそうとしているあたり、もしかしてこれが日常なんだろうか。タフィーさんも特に言及なしだし。ケルベロス達3頭組可愛いな。


 アートさんは半目で私を見て、そしてアカツキやオボロを見て、数秒フリーズしたように「?」という顔をしていたが、自分の尻尾に紫色の炎を灯したと思うとそれを自分の顔にかざしておめめをぱちくりさせた。


 なお、尻尾に突然炎が灯って被害を被ったベルくんが絶叫と一緒に起きたのはスルー対象とする。かわいそ(小並感)


「あ? あー、なんだっけ……あれだ……お前か」

「名前忘れられてます!?」


 目は覚めたらしいが、結局名前を思い出すのも放棄した傲慢なオオカミさんがそこにいた。暴食の悪魔なのに傲慢とはこれいかに。


「いや、覚えてるっての。俺様だぞ。あれだ、菓子作りが上手い笛吹きヤンキー女」

「おん???」


 出ちゃいけない声が出た。

 軽い中継にしていたため、コメントは大いに盛り上がった。

 よろしいならば戦争だ。コメントも含めてお前ら覚えてやがれよ……。


「あ、あの……頭領、ケイカって名前だぞ……」


 控えめに指摘してくれるタフィーさん……いや! タフィーくん推します!! 


「おーそうだ、それそれ。よ、友達」

「友達って認識してくれてるのにその名前を忘れるってマジですか……?」

「ジョークだジョーク。ケルベロスジョーク」

「さてはこの紫わんちゃんまだ寝ぼけてますね?」

「犬じゃねぇ!!」


 いやでもあなた地獄の番犬じゃん……とはさすがに言わなかった。これ以上言い合いという名のじゃれあいをしていても不毛な争いになるだけである。


「いいですか? アートさん。ハロウィンの悪魔を引き渡しに来たので、速やかに着席してください」

「報告される上司的な立場の俺様が命令されるのおかしいと思うんだが?」

「もー仕方ないですね。そんなこと言ってると全部他の二人に食べられちゃいますよ」

「ねーねー、リーダーの分全部食べていーいー?」

「すまない頭領、俺ももう我慢できない。その、こいつの料理が美味いのはもう分かってるだろ?」


 アートさんは無言で着席した。

 青いベルリーナくんはすぐに擬態化してフォークを構えていたし、赤い子のほうはあんなことを言っているが、すでに食べ始めたあとである。その食べた分は秘密にしているから、まだ食べてないフリをするのも間違ってはいないんだけどね。


 草を生やしていると、小声でアインさんが「うわぁ……あのケルベロスくんを掌の上で転がしてる……」とか言っている気がしたが、私は何も聞こえていないフリをした。


「食べたいは食べたいんですね」

「普段は俺様が料理してんだ。たまには他人の料理が食いてぇ」


 それはとても分かる。

 ので、彼らの前にハチミツマシマシお菓子と紅茶を用意してアインさんのほうへ視線を向けた。


「あ、うん。集めた分はここに全部あるから確認してほしい」

「おーおー、その辺に置いとけ。どうせそいつら、俺様達の前だと逃げらんねーし」

「おーけー」


 そして畳まれた黒布オバケ達は無造作に床へ捨てられた。

 いや、雑ぅ!! 彼らへの扱いにアインさんの彼らへの気持ちが現れているようで、とても闇。


 思わず遠い目になりかけたが、とりあえず足元で眠っているオボロと膝に乗ってくつろいでいるアカツキを眺めて精神を癒す。

 給仕の真似事をしていたレキも、今はちっちゃくなったザクロを労ってなにやらやっている。翼の付け根をこう……ツタで揉んでいるようだ。肩こり解消? 確かに翼の付け根はこりやすそうだ。癒し動画として後日単品でお出ししようかな。


 よし、癒された。

 なるべく床でプルプル震えているような気がする黒い布のことは視界に入れないようにして、アートさんにアインさんの助っ人参加についてお話しする。


「あーーーー、まあ、いいんじゃねぇか。あ、でも死者が地上で動けるようにする手続きって原始的な試練的なのやらなきゃいけないんじゃなかったか……それか書類……? 俺様文字ばっか追うの勘弁なんだが。ただでさえペチュニアの書類さばいた後だって言うのにまたあの地獄に……? なんで地上は電子的に発展してんのに俺らのほうはいつまでも儀式やらなんやら挟まないといけねーんだめんどくせー。ペチュニアの件だって冥王がでもでもだってしなけりゃもっと早めに迎えに行かせてやれたのに……つーか書類……オルヴァートに手伝わせるか……?」


 ほとんど聞き取れなかったが、とりあえず地獄の門番殿が口調と見た目に反してめちゃくちゃ真面目で働き者だということは分かった。

 さりげなく弟子のペチュニアさん想いな師匠ケルベロスさん、とてもアツいです。仲良し師弟はいいぞ。


「頭領……書類は俺がやる」

「あ? いいのかタフィー」

「いつも任せっきりだから、今度は俺も学ぶことにしたいっていうか……」


 タフィーくんの目が泳ぐ。

 あ、これはあれですね。さっき言ってた対価という名のお菓子を先にもらう代わりに自分が頑張るって言ってたやつ。ありがとう……そしてありがとう。


「本当ですか!? ありがとうございます!」

「あ、うん。頭領に任せっきりじゃ……ダメだとは、思ってたし」

「だが、いったんは帰ってもらわねーとなぁ。アイン、お前ちゃんと自分で報告書類あげて読み上げはしろよ。地上でしたこと全部な。嘘偽りを述べることは許されねぇから気張ってやれ」

「え〝っ〝」


 あ……。

 うん、最速で悪魔の捕獲を終わらせないで、いろいろと遊び回っていたことも自分で全部言葉にしないといけないのか。なにその地獄。固まって顔色を青くするアインさんに合掌して無事を祈ることにした。合掌してる時点で無事を祈ってない? だってそんなの確定されたメンタルブレイクじゃん……。はーい、みんなの前で夏休みにした宿題の発表でーす。うっ、頭が……死。みたいな。


「は……ハロウィンの最後の夜、今日が終わるギリギリで迎えに来てくれるかな……?」

「遊び回ったらその分報告する時間が伸びるだけだが、それでも?」

「それでも……」


 苦渋の決断! って感じの顔でアインさんが頷いた。

 なるほど、それほど私達と遊びまわるのが楽しいと……それはそれでちょっと照れるな。


「んじゃお前ら、ここで日付が変わる直前まで過ごしていけ。迎えに行くのが面倒くさい」

「ええ……」


 アインさんはやはり渋い顔をしたが、私は彼らをそれぞれ見渡して「あっ」と声を漏らす。


「舞姫ちゃん、どしたの?」


 ベルくんの言葉に、ひとつ思い出した私は言った。


「ここにいるみんなで写真を撮らせてください。最後の写真お題が『幸せなハロウィン』なんです」


 撮った写真は、大量のお菓子とそれに手をつけるケルベロス3頭。そして私達とアインさん。ケルベロス達はケーキやタルトを片手で食べながら、カメラ目線でもう片手を「ガオー」のポーズにしているし、私達もそれぞれ笑顔で「ガオー」をした。


 冥界の門番と、あの世から蘇った死者の英雄。そして現代に生きる私達。

 こんなにも幸せな『ハロウィンらしい』組み合わせはなかなかないだろう。


 写真の応募を完了して、それからはゲーム内でハロウィンイベントが終了する間際までドンチャン騒ぎになったのであった。


「ケイカちゃん、それじゃあ」

「ええ、アインさん。また」


 アインさんは時間になって、ケルベロス達に連れられて一時的なお別れの挨拶をすることになったけれど、お互いに「またね」「頑張れ」と言って笑いあえば自然とまた必ず会えるという確信が持てた。


 報告書の発表頑張ってと言ったら彼の目が死んじゃったのだが、それもご愛嬌。


 彼らが消えたあとに残っていたのは、赤と白の彼岸花だけだった。

 折り重なるように落ちているそれをそっと持ち上げ、祈るように胸の前で持つ。


 さすがに彼岸花の花言葉は知っている。

 結構怖い花言葉も多いけれど、きっとこの場合は二つ。


 赤い彼岸花にも、白い彼岸花にも同じ花言葉の意味がある。


 それは。


「また会う日を楽しみに……ですか、しゃれてますね」


 赤いほうには『再会』という花言葉もあるらしい。

 本当に、しゃれている。わざわざケルベロスの象徴であるトリカブトじゃなくて彼岸花を選ぶあたり、絶対わざとだろう。


 なんだよ、こんな粋なことしないでよ。

 泣いちゃうじゃないか。


 笑顔で手を振った彼らが透けて消えて、彼岸花だけを残して……そして、がらんとしたケルベロスの館で私は、花をしまって投げ出すように椅子へ座った。


「終わっちゃったぁ……」

「クゥ」

「うん、また会えるとは分かってるんですよ? でもほら、ちょっと寂しい、かなぁ」


 ピコンというお知らせとともに、無事アインさんが助っ人登録されたことも把握した。イベントはちゃんと終了したし、これからメンテだと思われるのでログアウトしなければならない。


「帰ろうか」


 少しの寂しさと満足感を胸に、泣きそうな気持ちに蓋をして緋羽屋敷へと帰宅。それから、お布団でセーブをして、ログアウトする。


 ログアウトした自室でめちゃくちゃお水を飲んで、アカツキを抱きしめながら公式サイトの巡回をしていたのだが……。


「は? 今回が完全なるユニークイベントだったからって、使うと消費されるアインさん助っ人召喚用の石がガチャにピックアップで入る??? マ???」


 ユニークイベント発生させられなかった人達からもお金を搾りとる気満々の運営で草。追憶でユニークイベントをこなすとしても、どちらにしても課金必須になってて笑う。


 ちなみに私のほうは、完全にアインさんが助っ人システムに登録されたのでいつでも呼び出し放題である。勝ち申した。なんという大勝利。


 これを見て、さすがに泣きそうになっていた気持ちとか、情緒とか、全部掻き回されて一周くるくるして冷静になってしまった。


 スンとした顔で私はパソコンに手を伸ばした。


 いや、ほら……これ、動画でイベントの内容をピックアップして繋げてアップしたら再生数もかなり回りそうじゃない??? 


 なお、このあと徹夜で動画編集をしていて、翌日起きた妹にお布団に縛りつけられて強制入眠させられましたとさ。オチがついたね(白目)

これにてハロウィンイベントはめでたしめでたし。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] >あれだ、菓子作りが上手い笛吹きヤンキー女」 >「おん???」  やっぱりケイカちゃんはヤンキーやったんy(o゜∀゜)=○)´3`)∴
[一言] スン……って真顔になるケイカちゃんの絵が欲しい……欲しくない?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ