イベント最後の日に、最後の大捕物
本日、十四日目。
リアルで二週間。ゲーム内では一ヶ月半くらい続いた長い長いイベント期間。今日はその、ハロウィンイベント最後の日である。
「アインさん、最後の一人を見つけに行きましょう」
「うん、行こうか」
残るは本日のお題写真を撮ることと、最後の一人であるハロウィンの悪魔を捕獲するミッションのみ。
本当に本当にラストである。
アインさんに声をかけると、最後とは思えないほどにいつもと同じ軽い返事をしてくる。私のほうは最後かあ……って、ちょっぴり寂しくなっているのに、この人はまったく変わらないマイペースさだ。
眦を下げて笑い、今日でお別れなんて微塵も感じさせないような振る舞いをする彼。ある意味、そのほうがらしいっちゃらしいかもしれない。
こちらがセンチメンタルになる必要はないんだと、その様子で表しているようで、少しだけ寂しく思っていた気持ちに蓋をする。そうだよね、ラストなんだったら、そのラストを思う存分楽しまないと損!
「ん、そうだ。今日のお題は後でいいのかい?」
「ええ、大丈夫です。最後のお題で撮る写真はもう決めていますので。さっ、早くおばけを捕まえちゃいましょう? 街に出ないことには、出現さえしてくれませんし」
「そっか、時間に余裕があるならいいんだ」
私にとっては最後の日。
でも彼らにとっては後四日……か。長時間ログインし続けることができるわけでもないので、やはりこれが最後と思って挑んだほうがいい。
最後のハロウィンの悪魔……早めに見つかってくれるといいんだけど……果たしてどうなるか。
素早い相手だったときのためにアカツキ、オボロ、そしてレキ、ザクロとメンバーを決めて発表する。
昨日、盛大に進化したことをお祝いされたシャークくんは、ジンやプラちゃんと飛んだり潜ったり建物の中をすり抜けて通過したりと、パフォーマンスをやりすぎてぐっすりと眠っているし、その三匹ははしゃぎすぎて疲れていたみたいだから、お留守番だ。
それにしても、はしゃぎすぎて寝ちゃうだなんて可愛いなあ……。
「シズク、みんなをよろしくね」
「シャア!」
残る中では一番のお姉さんであるシズクに、お留守番組のことを任せて手を振った。
屋敷を出ていく前に少し見えたのは、みんなで寄り添いあって炬燵に潜り込んでいく姿。
……早く帰って、私もあれに参加しよう。
だから早めにお仕事を終わらせなければ!!
燃え上がる決意を胸に、私は最後のハロウィンの悪魔を確保するために街の中へと向かった。
◇
「オボロ! 天候を雪に!」
「うぉん!!」
オレンジと黒のハロウィンの色に染まった街の中、ちらちらと雪が降り始める。すると、不自然に一箇所だけ雪が空中で止まる楕円形の場所があるのを見つけて……。
「アカツキ、ザクロ、今です! 燃やせ!!」
「カァーーーーー!」
「ぴゅいーーーー!」
ボゥと緋色の炎が燃え上がる。二つの炎の龍が空中で絡み合って、より大きく、目的の場所を大口開けて飲み込んだ。
雪が不自然に空中で降り積もる場所が、炎の中に飲まれて消えていく。
同時に、その炎の中に黒い影のようなものが浮かび上がった。
「え、ちょケイカちゃん!?」
容赦のないその攻撃に、アインさんがわりと引いたような声を出したが、あーあー聞こえなーい。私は不殺派ではあるが、攻撃しないとは言っていない。死なせずに捕獲すればそれは不殺なのだ。問題あるまい。
緋色の炎が楕円形に燃え上がり、その中心にぷすぷすと真っ黒に焦げた布の塊が現れる。
そう、最後のおばけは目に見えなかった。
街中を駆けずり回って、いつまで経っても見つからなかったおばけは透明になることができるやつだったのである。
街の中でいろんな人に聞き込みをして、とうとうお菓子を奪われた被害者に出会って話を聞くことができたのだ。
後ろからトリックオアトリートの掛け声が聞こえたかと思って振り返ると、誰もいない。お菓子を手に持って困惑している間に、その手元が生暖かくて柔らかい感触に包まれたかと思うと、ぼんやりと現れたおばけに手元ごと長い舌で舐めあげられているところか視界に入ったのだそう。さすがにびっくりして、怖がってしまったらしく、その人がビビっている間におばけはお菓子を奪って透明になって消えましたという証言だった。
たまにケケケと笑う声が響き、聖獣を奪わずともお菓子は確実に持っていくそのおばけに、とっさにその人は動くことができなかったそうな。
今までのおばけがただのポンコツだったからか、こうして本気で驚かせてくる不意打ちのようなやりかたに対応しきれなかったようだ。捕まえられなかったのを悔しがっていた。
……そこで、私達は常に透明になっているであろうおばけを探るため、オボロに頼んで雪を降らせたのである。
結果、透明になっていても物理的にそこにいるおばけに雪が積もり、場所が割れたので思いっきり攻撃して捕獲に成功した……という流れだった。
「お見事……だ……」
捕獲のためにツルでぐるぐる巻きにしているレキにお褒めの言葉をもらい、私は思わず笑う。
――それをアインさんは苦笑しながら眺めていた。
「もうちょっと、ここにいたかったなぁ」
彼のこぼした寂しそうな声を耳で拾いつつ、私も胸の前でぎゅっと拳を握る。
こいつで最後。ハロウィンの悪魔は全部で十一人。十二人目の裏切り者は、捕獲に動いていたアインさん自身。
彼がケルベロスにお願いされた役目は、すべて終わった。
「ケイカちゃん、最後になにか……料理、食べさせてもらってもいい?」
「……ええ、もちろんですとも」
最後は切ない雰囲気じゃなくて、笑顔で終わらせたいよね。
盛大にお別れ会でも開いてやるとも!!




