真っ白な楽園
さて、シャークくんが空を飛べるようになってそのまま進路は崖の上の『コロコロ雪原』へ……って思うじゃん?
「あ、あのシャークくん……壁、このままだと壁にぶつかりますよ!?」
そのまま上へ上へと飛ぶと思っていたシャークくんは、ウツボが届かない位置まで上がってからそのまま直進した。つまり、わざわざ壁にぶつかりに行った。
分かってるよ? 砂上なら上に乗っている共存者ごと潜って行けたという実績がある。いやでも壁じゃん! 岩……というよりも氷でできた切り立った崖じゃない!? そのまま私達ごとぶつかって大丈夫なのこれ!?
いや信じてるけどさ! 信じてるけどさ! それでも視覚的にちょっとこわっ……アッ。
……
…………
………………
「こっっっっわかった……」
まだ足がガクガクする。
雪原に手をついて座り込みながら、私は呟いた。
結論から言うと大丈夫だった。バグのようにそのまま壁をスウッとすり抜けてゴリゴリ氷の地面の中を進み、雪原に出てくることができた。
もちろんシャークくんの飛膜のようなものが私達の横を覆って支えてくれているから、安定感はある。でも、普通に怖かった。
「クルルルルルックォッ、クルルルッ!」
そんな私に対して、シャークくんは上半身を雪から出し、片手で口元を覆って笑っている。まるで悪戯が成功したようなその無邪気な様子に、私は一瞬で許して抱きついた。うちの子が今日も可愛い。
え、あれ? でもシャークくんってこんなに悪戯っ子っぽくなかったよね? もしかして、今まで少し大人っぽく振る舞おうと我慢とかしてた? そうだよね、ザクロが一番の新入りとはいえ、シャークくんも後輩だもんね。甘えたいし遊びたいよね。いいのよもっと素直になって。私は喜んで受け止めるから。むしろもっと悪戯してくれてもいいんだよ。
「ふふふふ、シャークくん、楽しかったですか?」
「クォォン!」
「そっかぁ〜、それじゃあ仕方ないですねぇ〜」
「甘々だなあ」
アインさんが苦笑して、次いで空を指差す。
私もそれにつられて空を見上げると、もう夜になりそうだった。夕方の濃いオレンジ色が、だんだんと紺色に染まってグラデーションのようになってきている。冷たい空気の中、澄み渡るようなそんな空はとても綺麗だった。写真を一枚撮って、立ち上がる。
「夜になったら帰りましょう。けど、その前に急いで少しだけ探索してみましょうか」
私の言葉で、するっと背後からオボロが足の間をくぐるようにして私を乗せる。あっ! という顔をしたシャークくんに、彼女はふふんとドヤ顔をして笑っている。
この反応は……。
「あはは、オボロは地上で君を乗せるのは自分の専売特許だって言っているみたいだね」
ですよね!!
乗った状態で首元をめっちゃ撫で回した。
……っていうか、私も完全にそう思ってる顔だろうなって予想してたけど、言葉が分かるらしいアインさんにこうして答え合わせしてもらえると、私の予測精度が結構高くて笑う。愛の力ですねこれは、間違いない。
「クォ」
ちなみに、シャークくんはオボロに対して大人の対応をした。進化して無邪気になったとはいえ、やはりあまり根は変わらないらしい。
そんな様子を、私の肩からアカツキが微笑ましげに眺めていた。年長者の貫禄ェ……。
「さて、ようやく目的地のコロコロ雪原ということですが……どんな子がいるんでしょう!」
雪原、そして氷の上ということはペンギンさんとかアザラシとかの聖獣がいるんじゃないかな! 楽しみだ。
さっそくオボロに指示をして移動し始めた。アインさんはシャークくんにお願いして乗せてもらっている。大きくなったオボロに二人乗りにしようかと思ったが、コメントのほうでシャークくんが嫌がらなければ別で! と熱烈に拒否されてしまったのだ。視聴者さんよ……。
「おや、樹氷ですね……そんなに寒いのか、ここ」
崖際から少し進むと、凍りついた樹木がいくつか生えている地帯にさしかかった。樹氷ができるくらい……というと、かなりの寒さのはずだ。
心なしか体が動きづらい気もするし、感じている温度とその場所の温度の設定が違っているっていうのは結構な違和感だ。
うん? あれ、ってことは。
メニューを開く。
「いや体力減ってるぅぅぅ!?」
そりゃそうだ。
だって私、夏仕様の水着装備だもの。
急いでいつもの装備に着替え、耐寒のバフをかけた。
「いや、寒くないのかなあ〜とは思ってたんだよね。やっぱり寒かったんだね」
「な、なんかはじめての場所で興奮していて、あんまり気にならなかったんですよね〜」
変なごまかしかたをしつつ、樹氷を見上げる。見事に凍りついていて、いっそ綺麗だなあと思っていると……なにやら、枝の上で動いた。
「ん? なんでしょう、あ……れ……………………」
そこにいたのは小さくて丸くて、白い生き物だった。
まんまるの白いふわふわの体に、黒くてちっちゃなおめめ。ほぼ円形のその体からちょこっとばかり飛び出ている尾羽。
まんまるの体の、その聖獣らしき子は、こちらに気づいたようで、にゅっとお餅のように顔を少しばかり伸ばして私達を見下ろした。ウサギの尻尾が、丸いように見えて実はわりと長いように、その聖獣の顔がみょんみょんのびる。
これは……まさか……。
「ひょわっ、まっ、まんまるシマエナガたん……!?」
あまりの尊さに私はその後数分発狂していた……らしい。




