リリィのティータイム!
こぽこぽとお茶が注がれていくのを見ていたら、自然と背筋が伸びるような気がした。
ガラス製のポットの中で揺れる飴色の紅茶と、注がれたところからふんわりと立ち昇る湯気と香り。
優しい手つきでリリィ自ら行われるティータイムの準備に、ものすごく贅沢な時間を過ごしているんじゃないかと少しドキドキする。
緩くウェーブした金色の髪がふわりと肩から前に垂れ、それを手で軽く払う仕草。真剣に私の、いやお客様のことを考えてお茶とお菓子を用意するご令嬢の姿。
深い海のような青の瞳は優しげに微笑み、左目の目尻の辺りにある泣きぼくろが強調されているようにも見える。
リリィファンから刺されるんじゃないかというほどの贅沢な時間。
二人だけのティータイムを、私達は開始していた。
ユウマは一旦ログアウトしてくると言っていたので、今ここにいるのは二人だけである。優雅で色気たっぷりの雰囲気に、そんなに背丈も変わらないのにすごいなぁと感慨深くなる。
も、もちろん私だってエレガントであることを目指しているけれど、こうしてリリィを見ていると育ちからして違うんだろうなあというのが分かってしまうというかなんというか……。
しかしリリィのこのなめらかな仕草に表情、動き、喋りの抑揚。全てゲームスタッフのこだわりにこだわり抜いた部分だろうな。あまりにもすごい。
聖獣達の仕草もディティールもすごいけど、動かすモーションを組んでいる人のこだわりは正直なところ狂気じみている。いったいどれだけの時間費やせばこんなことになるんだ。
(※ ゲーム内の四倍ある時間を駆使しながらなおも連続徹夜している模様)
「ありがとうございます、リリィ」
「いえ、私がおもてなししたかったのですもの。ご遠慮なさらないでくださいな」
微笑み。
こんな綺麗で優しい子が、自分の欠点で拗らせまくって闇堕ちしていたと思うと大変エモいですありがとうございます。一生推すわ。
「……!」
「あ、こっとんもありがとうございます」
器用に耳の上にお菓子のカゴを乗せてぴょんぴょん跳ねてきたピンク色の兎が、アカツキ達のところへやってくる。
どうやら耳を軽く手足のように扱えるようだけど、見た目は普通の兎でしかない。耳を器用に動かしていても自然で気持ち悪さは感じないので、そういうものなんだなーと普通に流せた。
アカツキ達は運ばれてきたホットケーキに喜んで歓声をあげている。
「それじゃあ、お話しましょうか。聞きたいことなどはありますか? 今回はお礼というのもありますけれど、私……ケイカさんのお役に立ちたいのです」
「リリィ……」
もう少し仲が良かったら確実に抱きしめに行っていた。なんていい子なの!
あんなことをしていただなんて、もう信じられないくらい純粋で健気な子じゃない……本当に拗らせが酷かっただけなんだなあ。
ミズチにやったことと、こっとんを悲しませたことは許してはいけない彼女自身の罪である。けれど、それはそれとして、とてもいい子なのは間違いない。
聖獣にのめり込むのは分かっていたけど、まさか人間のキャラクターにまでぞっこんになるくらい好きになってしまうとは思っていなかった。リリィちゃん好き。
「それじゃあ……」
「はい」
淹れてもらった紅茶に口をつける。あたたかくて、ストレートでもあんまり苦くはない。むしろフルーティな口当たりでいくらでも飲めちゃいそう。待て待て、味覚は現実より鈍くなっているはずだよね? そこまでの再現には成功していないんじゃなかったっけ? これ、ものすごく美味しいんですけど?
衝撃を受けつつも言葉を紡ぐ。
「私、この世界……国の常識について、そこまで詳しくはないんです。アカツキ……初期聖獣がニワトリだと『情熱』の気質がある人、みたいな分類もお恥ずかしながら知らなくて……ですので、初期聖獣の十三匹がなんの気質を示すのか、教えていただいてもいいですか?」
ずっと気になっていたことだ。
攻略まとめなどで噂されてはいるものの、それは完全に『こうじゃないか』と予測されているものであって、裏付けが取られているものではない。だから、ゲームシステムについてはゲームのキャラクターに訊くのが一番だと思って質問をしている。
もしかしたら、少し彼女には辛い話かもしれないけど……。
「分かりました。最近来られた共存者の皆様は、ゲートを通して遠い国から選ばれてやってきたのだと伺っていますわ。知らないのも無理はありませんね。私で良ければお話いたします」
「ありがとうございます」
よしっ。
「ニワトリが『情熱』、蛇が『知識』、兎が『臆病』というのはお話ししましたよね」
「ええ、あのときに」
「それでは、他の子達についてもお話いたしましょう」
こうして私は、リリィに『初期聖獣が司る気質』についてを教えてもらうことになったのであった。
ようやくこの設定が出せる〜!
いつもお読みいただき、ありがとうございます!




