海洋の巨大なギャング
「シャークくん、全速力で助走して前へ大ジャンプ!!」
「クォォォォォォ!」
眼下に現れた巨大な口。
海洋恐怖症とかの画像でたまに見るような、そんなシチュエーションを実際に体験してどう思ったか? なんて決まってる。
「こわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ゲームの中だと分かっていても、そりゃ怖いよね。
思わず情けない悲鳴をあげながらシャークくんに指示を出し、シャークくんも焦っているのか、ぐんとスピードをあげて勢いをつけ、前方に大ジャンプする。
早くこの開いた口の範囲外に逃げなければ。
お互いに思ったことが、恐らく一致していた。
『初見です』
「うおおおおお初見さんいらっしゃいませ!! どうも、配信者のケイカです!! 唐突にホラーをぶっ込んでくることに定評のある神獣郷をぜっさんプレイ中ですねぇぇぇ!!」
ヤケクソ挨拶をしながらシャークくんにぐっと掴まる。後ろをチラッと見れば、さすがにこういうときばかりはふざけていられないと思ったのか、アインさんも落ないよう真剣にシャークくんを掴んでいる。
たとえ初代の共存者とかいう古の英雄の亡霊だろうがなんだろうが、今落ちたら死あるのみの状況だ。すでに死んでいる人がまた死ぬかどうかは分からないが、少なくともわりと必死な形相でしがみついているので、魔獣に喰われるのも海の藻屑になるのも勘弁してほしいと思っているのは確かなはずである。
「よし、総員安全ですね!? 取り残されてたりしてませんね!?」
高々とジャンプをし、急いで前方へ行くシャークくんの尾鰭が揺らぐ。
少しでも距離を稼ごうとする意識の表れだろうそれを横目で確認したあと、後方でゆっくりと波飛沫が上がり、巨大な口が天を貫くように出現する。
「き、危機一髪〜!!」
無事、喰われる前にその射程範囲外へと逃れることができてひと安心。
しかし、この海洋上の恐怖はまだ序の口に過ぎないのだった。
茶色い口周りがぐんっとさらに天に向かって伸び、海水を押し上げる。
ザバザバと盛大な音を立て、だんだんとあらわになっていく魔獣の全体像。
これは追いかけられるパターンだなと、シャークくんにそのままその場を離れて目的地のコロコロ雪原まで一直線に行くようにと指示を出す。
しかし、大ジャンプの末に着水したシャークくんは、魔獣のたてる波に抗えず、大きく体が揺れる。したがって私達もシャークくんの体の上で大きな揺れを受けた。
私は揺れたまま急発進しても大丈夫なくらい、バランスに関してまったく問題ないけれど、他の子は違う。
うちの子達の育成は、全員で補ってバランス良くまとめるようにしているため、一匹一匹は違った性能をしている。要するに器用値に関して不安な子も当然いるということ。アインさんもいることだし、さすがに急発進をさせるわけにもいかず、出現演出中の魔獣を尻目に先手で逃げを打つことができなかった。
「で、でっかいウツボですね!?」
波がおさまり、体から水が滴り落ちる出現演出を終えた魔獣の姿は……どう見てもでっかいウツボだった!
サイズはリヴァイアサンと同じくらいの太さはあるかな? 顔も大きいし、なにより口をあんぐり開けたらシャークくんくらいの大きさはひと飲みだ。体を大きくしているシャークくんをひと飲みなのである。でかい。
なにを考えているのかよく分からない感じの、キョロっとした目をこちらに向け、鎌首をもたげるように口を半開きにしてカチカチ歯を鳴らしている。
目は当然のように真っ赤な他のように染まっており、額に真っ黒な宝石。分かってはいたけれど、どう見ても魔獣ですどうもありがとうございませんでした!! 予想!! 当たってるとは思ってたけど、本当に当たってほしくはなかった!! ちくしょう!!
「多分攻略しようと思えばできますよね! でも! セーブポイント作る前に死に戻りは嫌なんですよ! なので、先に目的地まで行くんです! バトルを期待しているコメントの皆さんにはごめんなさいね!!」
というわけで、シャークくんにはとにかく全速力で逃げてもらうことにする。
多分、ザクロかあたりに交代するか、アカツキを大きくして空に逃げるのが一番安全な方法だろうが……。
「クォ、クォォォォォォン!」
おあいにくさま、シャークくんのエンジンがかかってしまったようだ。
それに、今からアカツキを大きくして……と行動していたら、時間ロスをして飛び立つ前に喰われかねない。
「真剣勝負、ここは競泳と行きましょうか!」
逃げるものと追うもの。
シャチとウツボなら絶対うちの子のほうが強いとは思うが、それはそれこれはこれ。あいも変わらず不殺の精神で、あとでウツボの攻略法でも考えてみましょうかねっと。
「ウツボさんの不殺攻略はセーブしてから! というわけで、もしすでに攻略法が出ていたりしていても、ネタバレ厳禁でよろしくお願いします!」
大事なお願いを叫びつつ、私達は乗り物酔いでもしそうな激しい船旅を決行するのであった。
「ギュゥッツ、ボォォォォォォ!!」
「いや、鳴き声ぇ!!」
さすがにそのまんますぎるだろ!!




