みんなのコンテスト写真を眺めて
イベント12日目。
通常の写真コンテストのほうは、ファンのみんなのおかげもあってか上位をキープできていて嬉しい限りである。
で、イベントの順位のほうは? って聞かれると「最下位になったりちょっと上がったりを繰り返してますがなにか???」ってキレ気味に答えることになるのだけれど。
まあまあ、イベントのほうは私に相性が悪いからね。萌えたら負けなんて勝てるわけないじゃないか。もはや開き直っているのでその辺、上位を目指すなんてことはしないけれども……その分コンテストのほうを頑張ることにした。
リリィの喫茶店でみんなでお菓子を頬張りながら撮った写真の投票数はしっかりと万は行っているので安泰である。お菓子と一緒に映すトリート部門では今のところ一位なので本当に結果が極端である。
最下位と一位を同時に取るとか逆にレアなのではないだろうか?
いやあ、登録者が多い配信者ってこういうときすごくお得だよね。
トリック部門のほうでは、どうやら神獣郷全体のレアな絶景を背景に仮装した聖獣達を撮った各種写真が上位を独占しているらしい。
だが、一位に輝いているのは不思議な国のアリスで統一されたパーティメンバーと爽やかな垂れ目の老紳士が映っている写真で……って、これストッキンさん御一行やんけ!!
しかも場所は虹色の泉のある……あの虹蛇エインガナやユルルングルのいた雲の上である。
センターに優雅なティータイムを楽しむ天邪鬼。アリスちゃんとチョッキを着て時計を持ったウサギさん。それからティーカップを掲げて映っている帽子屋さん仮装のストッキンさんに、そのカップの中から眠そうな顔で顔を出すレッグ。
周囲が虹色の泉と花畑という特異な場所だからか、かなり完成度が高い。仮装を前提としたトリック部門の一位をとっているのも納得の出来だが、多分一番の理由は、アリスちゃんのファンの票が入ってるからだと思います。
それから、トリック部門にある写真の中でもいっそう迫力のある写真が目に入る。
黒い海から巨大な液体の犬……ガルムが立ち上がり、暗闇の中、真っ赤な瞳を光らせこちらを睨み付けるようなホラーみの強い写真だ。
下に映っている浜辺には、それに立ち向かうような小さな人影と複数の聖獣の姿が黒い影のようになっている。あくまで被写体は魔獣ガルムであって、自分達はおまけだ……とでも言うような写真だった。
魔獣の恐ろしさをより強く表現した見事な写真である。そうそう、ハロウィンなんだからこういうのもあっていいよね。どう見てもこれ撮ったのユウマ達だけど。立ち向かってる側にもガルムいるし。
トリック部門には他にも、スライムの聖獣がパンプスのように変身して街中のショップに隠れている巧みな写真や、私がリンデから聞き出した方法で進化させたのか、異形頭のゴブリンちゃんでファッションショーをやっている写真など、様々なものが飾られていた。
神獣郷という、ひとつの世界の中で流れていくそれぞれの物語。
そのひとつひとつが大事に込められた写真ばかりがズラリと並ぶ光景。それは、とっても素敵だった。
もちろんネットで写真を見ることもできるが、私はここにわざわざきて良かったと思っている。
ホウオウさんのいる城の前。
掲示された写真達を前にして、私はアインさんへ視線を送る。
夢中で写真達を眺める彼の顔は、心底嬉しそうだった。
私達がここに来たのはハロウィンの悪魔がいるという、イベント上の通報を受けたからだったけれど、前はこれに気づかなかったからね。
運営で選ばれるほうの応募写真も貼り出されているため、このイベントが始まってからアインさんがいる日常をこの目で振り返ることができている。
どうやらこのお題部門だけは、毎日お題写真を出せている人のものだけが貼り出されているらしい。ちゃんと継続して出せていないと取り下げられてしまうのだろう、多分。
ここにあるのは、ちゃんと十一日目までのお題を撮れた人の分しかないからそう思っただけだが。もしかしたら、全員脱落せずにやっているだけなのかもしれないけれど。
「私も負けてられないですね」
「今日はどうするの?」
「悪魔も捕まえましたし、あと二人でしたっけ……今日はこのままお題写真を撮りに行きましょうか。夕方帰ってきたときに、もう一人くらい念のため探しときましょう」
「分かった、そうしようか」
この世に舞い戻った悪魔は、十一人。
今日までに捕まえたのが、さっきのを含めると九人目。
十二人目としてやって来たアインさんはこちらの協力者で、除外するからあと二人。
残り二人はいまだに見つかっていない。
隠れるタイプなのか……それとも逃げ回るタイプなのか……分からないが、ひとまず犠牲者は出てないらしいので、あとはこちらの根気次第だ。
イベントも今日を含めてあと三日。
漏らしがないように、なるべく早く捕まえておいたほうがいいのだが……今日はお題写真もパッと撮っておきたいからね。
目的の場所に行って写真を撮ったら、帰ってきて悪魔を探そう。
悪魔はアインさんが街にいるときにしか出現しないはずなので、この人を運搬しながら練り歩けばなんとかなるだろう。
だから今日のメンバーにはザクロとレキを入れている。
あとはアカツキとオボロである。
空からの索敵でアカツキは必要だし、アインさんを運搬するにはザクロかレキがいる。そして、前みたいに素早い悪魔が出てきた場合はオボロがいないと地獄絵図になるのでこの選出だ。
あと、ザクロは遠出もするのでそのためでもある。
お留守番の子達にはお土産を買うことを約束し、快く送り出されてきた次第だ。
「どこで撮影するの?」
「今日のお題のこともありますし……ちょっと対抗意識が出たので、天楽の里に行きます」
「この前のところ?」
「ええ、私がいればいつでも行ける特別な場所があるんですよ」
そう、場所は虹の橋を渡ったところ。
ストッキンさんへの対抗意識的な意味でここを選ぼうと思ったのだ。
それから、お題のためにも。
「お題ってなんだっけ……」
「今日のお題は『楽園』……です」
あそこは初期聖獣パラダイスである。
あそこは初期聖獣パラダイスである。
大事なことなので二回言います。
あそこは初期聖獣パラダイスである。
あ、三回……。
さて、ザクロちゃんに乗って移動する前に、視聴者諸君への注意書きを追加しておきますか。テロップ設定をして……と。
注意: もふもふに狂って気持ち悪い言動や行動を起こす配信者が出現します。
……と。




