もふもふ萌えなんかには絶対負けない!!
「さあ、みんな! 並んで並んで! そして、いっせいにリーダーだと思う人を指さしてください! 手のない子は指じゃなくて尻尾とかでもいいですよ!」
「それじゃあ、撮るよ〜。はい、チーズ!」
悲報。私もセンターにいたのに全員がアカツキを指さした件。
これには写真撮影に協力したアインさんも苦笑いである。
……と、盛大な出オチを決めた配信は、順調に進んでいる。
今日のお題が『リーダー』だったため、私とアカツキをセンターにして全員の集合写真を撮ろうということになったのだが……あんなことを言ってしまったばかりに、撮れた写真は全員がなにかしらの方法でアカツキを指し示すという場面だった。
私のことがことさら大好きなオボロちゃんやザクロちゃんまでもが、リーダーと指定されてアカツキを指したのである。わりとへこむ。いや、撮影のあとにレキからちゃんと説明はあったけどね。
だってほら、共存者ってやつはトレーナーやマスターとかではなく、その名前の通り共存者。聖なる獣と心を通わせて友達になれる人のことを言うから……あくまで一番の友達であり、決して主人と従者のような関係ではないのだ。
そのせいで、一番頼り甲斐のあるリーダーと言えば? と訊かれるとみんなアカツキを見るのだが。
……私、頼り甲斐ないかなあ?
「ケイカちゃんのことはね〜、みんな守るべき相手って思ってるみたいだよ?」
「なんでですか! 私だって結構強いのに!!」
うちの子達、マジ保護者。
手紙とかではあんなに言動が幼いオボロや、同じくらい無邪気っ子っぽいザクロでさえそうなのである。
みんな私のことをヨシヨシしてくるんだ……!
落ち込んで雅な地団駄を踏んでいたら、なんかレキにぐるぐる巻きにされてあやされはじめたし!! なんなの!!
ちょっとそこのコメント!! アスパラガスのベーコン巻きのコスプレとか言わないで!! どっちかっていうと色合い逆でしょ!! いやそういう問題でもないけど!!
「はいはい、わがまま言わないでよ。飴あげるからさ」
「アインさんまで私をちっちゃい子扱いですか!! そうですか!! 迷子紐が必要な精神的幼女なくせに!!」
「僕男だよ!?」
「オタク女子にとってはちょっと隙があって世間知らずで可愛い男子はみんな幼女判定ですよゴラァ!! ストライクゾーンの広さ舐めんなですよ!!」
「自慢すべきところではなくない……?」
わりと真面目にドン引きされてケイカちゃんは傷つきました。あとで覚えてろよ。また巻き寿司のコスプレさせて出歩いてやる。そうすればハロウィンの悪魔も釣れてお得だ。あとちょっとだし。
心の中ならいくらガラが悪くても問題ないよねっと。
『あの……言いにくいんですけど、そう思うならテロップが出る設定オフにしたほうがいいですよ……』
「め˚ぁ〝」
「大丈夫? なんか轢き潰されたみたいな声出てるけど……」
『どっから出たその声』
『すごい……字幕がこの世で発音できる声の範疇超えてる……』
高速でオフった。
テロップは便利だけど、強く思ったことを全部むやみにぶちまけちゃうと危ないね。怖いね。だからこそ、テロップ機能には現実にある学校名とか本名っぽいのが出てくると規制音が鳴って伏せ字になる仕様があるわけだけども。なにも恐れずに配信しちゃうようなお子様にも安心だ。
「さて、このあとは街に行って、いよいよハロウィンイベントの本番である『お菓子争奪萌えバトル』を繰り広げてきますよ。先に相手のパートナーに萌えて我慢できなくなったほうが負けの、例のやつです」
萌えの度合いによって反応するとかいう、めっちゃ特殊でこれにしか使えなくない? というシステムでのバトルだ。忘れそうになっていたが、本来のハロウィンイベントはこっちが本番である。
もちろんログインボーナスの緋色の羽根も集めているので、そのうちなにかと交換したりしなかったりするかもしれない。最後まで使わずに集めきってもいいものが当たるかもしれないからねぇ。
さて、萌えさせバトルについていろいろと心配するようなコメントがあがってきているが……ふっ、この前までの私とは違うのだよ。
「以前はすぐに負けたりと無様を見せていましたが、今度の私は完璧なので負けたりしません」
そう!! 相手が萌えさせてくるのならば!!
ジンをぐわしと掴み上げ、くるっと回転させてお腹を向けさせる。
「みゃ!?」
そして、そのまめもっふもふのお腹に顔を埋める。
「ぃやーーーーーーー!!」
『セクハラだ……』
『事案?』
『おまわりさーーん!!』
『いやこれはパワハラでは』
『事案だ』
『おまわりさんこっちです』
『へ、変態だー!!!』
『おさわりまんこっちです』
『ジンが猫じゃない悲鳴あげてて草』
『く、狂ってる……』
『なんかおまわりさんとは違うの混ざってんぞ』
『なんで……なんでこういうとき犠牲になるのはジンなんだ……!!』
『ジン君の勇姿に合掌』
『ジンくん……君の勇姿は忘れないよ……! 二階級特進……おめでとう!!』
『殺すな殺すな』
そう! 相手が私を萌え殺してこようとするならば!!
先に十分な萌えを摂取してから挑めばいいのである!!
「萌えの……ふぐふぐ……ワクチン摂取……です」
『あれ、前にもこんなことがあったような』
『圧倒的既視感』
『敗北フラグでは?』
『まあ、イベントお菓子はたとえ全負けしてなくなってもNPCに最低限は支給してもらえるし……』
『負けフラグビンビンで草』
「もふもふ萌えなんかには絶対負けない!!」
閑話休題。
「リリえもーーーーーーん!! お菓子くださーーーーーーい!!」
「あらあらまあまあ……また負けてしまったんですの? ケイカさんも懲りませんねぇ」
『知ってた』
『知ってた』
『分かりきってた結末』
『でしょうねwww』
『全負けしまくって五回もお菓子の支給してもらうとか恥ずかしくないの?』
『フラグ折り失敗!』
『いつもの』
「それから、ケイカさん」
「ぐす……はい……?」
情けなくもリリィに抱きつきながら彼女を見ると、なんか怖い笑顔がそこにあった。そっと背中に回されたリリィの腕に力が込められている。
な、なんだこの笑顔の圧は……!?
「次にその変な呼びかたをしたら、こっとんが……」
「こ、こっとんが……?」
「こうです」
片手で私をホールドしながら、リリィが首を手で切るような仕草をした。
その背後では、初めて会った頃とは打って変わって首狩りウサギとして覚醒したこっとんちゃんが、なにやらキャベツの千切りを始めている。
な、なにそのパフォーマンス……! こわ……!!
「ご、ごめんなさい……!」
「よろしいでしょう」
恐怖に駆られた私が慌てて謝ると、リリィちゃんはにっこりと笑った。
こわ……可愛い……。
『一番のようじょはエレヤンなのでは???』
あ、それは否定しておきたいです。
私、お姉ちゃん。とってもお姉ちゃん。なにがなんでもお姉ちゃん。
テロップになっていたら「どこが?」って言われそうなことを自分に言い聞かせる。
その日は結局、ひとつもお菓子を勝利して得ることができずに終わったのであった。
なお、ハロウィンの悪魔は一人捕獲したもよう。
もはや周囲の人がみんな囲んでお菓子アタックしてくれるから、姿を現したら奴らは終わりである。
もうちょっとでこのわちゃわちゃした雰囲気ともお別れだと思うと、ちょっと寂しいかもなあ……。
ま、このイベントはどうあがいても私に勝てる要素はないから、ランキングは狙わず完全にエンジョイ勢と化しているわけだが。
それでも楽しいのは、やはり神獣郷だからだろう。




