もしや……わ、私、ぼったくられてるー!?
もしや……わ、私、ぼったくられてるー!?
「んぬあああああ!」
夕方、一旦戻った宿屋の一室にて私は叫んでいた。
それに応える声は二種類。
「なうーん」
「きゅーん」
哀れみのこもったジンとオボロ。
「くっ」
「るー」
そして、「まあそうでしょうね」もしくは「今更気がついたのですか?」と聞こえてきそうなアカツキとシズクの鳴き声である。
「鳳凰さんのバーカ! なんですか1万って! 信仰度80%以上というのはまあ置いておいて、伝承を調べよ……ってなんですか! イケボで騙されたぁぁぁぁぁ! 詐欺だ! 詐欺ですよ! あんだけ苦労して手に入れたキャンディ1万を、たったこれだけの情報のために渡すはめになるなんてあんまりだぁぁぁぁ!」
ベッドで枕を抱きしめながらゴロンゴロンと暴れ回った。そりゃもう勢いよく、無駄に凝って再現されたスプリングを使って軽く跳ね回るように!
その結果、枕元にいたはずのジンは迷惑そうに避難し、ベッドの近くに配置されたクッションの上で、アカツキがこちらを呆れた目で見てきている。
「ふおおおお」
「きゅーん」
「ひゃん!?」
そして投げ出してベッドからはみ出した足を、ベッド下に横たわっていたオボロが舐めた。変な声が出てオボロ自身もびくーん! と肩が跳ねる。
それからピスピス鼻を鳴らしながら顔を伏せて上目遣いに私を見つめてきた。今にも「ごめんなさい! 驚かせるつもりはなかったの!」と聞こえてきそうな表情だ。
まったく心も読めないし声も聞こえないしスキルもないのに、なぜか表情だけで察することができている。
「可愛いから許す! 可愛いはジャスティス!」
「きゅーん!」
ぱあっと花が咲くようにオボロが笑顔を見せる。
はー? 可愛いかよ。好き。
動物に深く関わる人は、表情だけで動物のなんとなくの気持ちが分かると言うし、そういうものと同じなのかな。
現実で関わることはできないけれど、こうして似た境地に至れているということが素直に嬉しい。
「るー」
タライの中からシズクの視線を感じる。
ぬるい水を張ったタライのそばに柔らかくふわっふわなタオルも置いてあり、いつでも行き来して寝られるようになっているのだ。
「うう……頑張りませんと」
正直ランキングの一番を目指そうとか、そういう強迫観念みたいなものはないのだが、ゆるーく順位を伸ばして上に行きたいなという願望はある。絶対というわけではないけど、私だって一番に近ければ嬉しいわけで。
特に今日の話のこともあり、明日からはユウマとは別々に行動してみようということになっている。今の私達なら充分シークレットピニャータに対処可能だし、キャメレオン達を誘き出すための『運』はユウマには劣るとはいえ、ジンがいる。
なにより、シズクという『目』がある。
ユウマにはないけど、私には見る手段があるのだ。
競争するにしても、こちらが多少有利なのは間違いがない。
あとは情報か。
いろんな場所に行って、シークレットピニャータを倒し、キャンディを集める。それと一緒に、できればアカツキ達の神獣進化の条件を色々と探る。これが当面の目標だ。
それと、大規模イベントが終わったら聖獣の見た目をした魔獣、魔獣の見た目をした聖獣がいるかもしれないというリリィの話も込みで、小規模のストーリーイベントを探す、と。
もしかしたら小規模イベントが進化に関わる可能性もあるし、探して損はない。
「考えても……仕方ありませんね。今はリリィとのお茶会を楽しむことを考えましょう。楽しいことは全力で楽しみ、分からないことは楽しみながらじっくり答えを探すが吉、です!」
ユウマの理念である、『先にできる後悔はない』という言葉を思い出す。やらずに後悔するくらいなら、やって後悔せよ。
うん、やらなかったら損するかもしれないけど、やって損することはそうそうない。少々頭でっかちで合理主義かもしれないけど、分からないならとりあえず突っ走るのがいいよね!
……脳筋ではない。脳筋では。
だって私、華麗なる舞姫だもの。私、イズ、エレガント。オーイェー。
心なしかアカツキとシズクから残念なものを見るような目をされている気がするけど、そんなの知らないな!
前進あるのみ! 私のゲームライフはモフモフ天国と共に! 歩んで! 行くんだ!
「……リリィのところへ行きましょうか」
そろそろ約束の時間帯になる。
彼女とのお茶会は楽しみだけど、ついでになにかこの世界の童話とか、そういうものについてもさりげなく聞いてみよう。
自分達のお手入れは? とアカツキ達の視線を受けてそわっと手が動く。
「ひ、ひとり五分ね?」
大歓声が上がった。
そして遅れて目的地へと向かった私は事情を話し、「ああ」と納得するリリィに「解せぬ」と心の中で呟くのであった。




