私にとって、勇気あるもの
本日はイベント八日目。
期末試験のために勉強の割合を増やしているため、本当に深夜にしか神獣郷にログインできなくなっているが、変わらずにみんなが屋敷で待っていてくれるから頑張れるというものだ。
リアルのほうでもアカツキとオボロが横で応援してくれるので、モチベーションは保てるんだよね。
ただ、アカツキ達と離れたくないのでベッドに座って横に寝転がったアカツキとオボロを構いつつ、机をベッドに引き寄せて勉強しているという若干気が散る構成になっているので成果があるかどうかは……本番が来ないと分からないかな。
途中オボロに構いすぎて勉強を放り出すことも数回。
そのたびにアカツキに背中をつつかれる私である。構ってちゃん化するのはオボロだけども、構い出しちゃう私が悪いからね。仕方ないね。
ログインして布団から起き出した私を待っていたのは……。
「おはよう、ケイカちゃん。今日も一日頑張ろうか! 朝ご飯のオムライスできてるよ」
この、素顔からくりだされる満面の笑顔……!!
「結婚してください」
「ええ!?」
「失礼、変なこと口走りました。さっきの言葉録音して『イケメン彼氏とのドキドキ新婚生活・シチュエーション音声』として売り出してもいいですか?」
「そっちのほうがわりと僕に対して失礼じゃない!?」
「お金ほしくて……」
「発言だけ聞くとすごくサイテーだよそれ!!」
……とまあ、楽しく漫才を繰り広げつつログイン時のやりとりを経過させ、私達は今日のお題写真を撮影するために街に行くことにしたのだった。
お互い慣れすぎて屋敷にいるのがほぼ当たり前と化している気がする。今まで屋敷に来てくれたことがあるNPCってアリカ・カナタくんだけだもんなぁ。それも、ここまで長く滞在してくれてる人は初かもしれない。
「今日のお題はなんだったのかな?」
「勇気あるもの……だったんですよね」
「へえ〜」
なので、今日は最初から行く場所を決めていた。
「迷いなく進んでるけど、もしかして最初からなにを撮るのか決めてたの?」
「はい、私が共存者となった際の……初めの頃の思い出がありまして」
「なるほどねぇ、いつもは四匹マックスで連れてるのに、今日三匹しか連れてないのも意図的ってことなんだ」
「そうですね」
そう、今日私は三匹しかパートナーを連れてきていない。
アカツキと、オボロと、シズクだ。
このメンバーで、写真のお題が「勇気あるもの」である。
古参の視聴者さんはきっと、この組み合わせを見たらすぐ察することができるだろう。
そう、私にとって一番「勇気あるもの」っていうのは。
「着きましたよ、アインさん。ここです」
「あれ、コテージ・フルール?」
「ええ」
リリィとこっとんの……ことである。
私にとって。私が今まで見た中で、一番勇気のある人といえばこの一人と一匹だ。
……正確には一羽か。まあ、分かりやすく一匹でいいよね。だいたいの子は匹で数えるケイカちゃんです。
「いらっしゃいませ〜!」
カランカランと扉についたベルが鳴り、笑顔でリリィが出迎えた。
その横にはこっとんがちょこんと座っていて、いろんなお客さんに「こっとんちゃん!」「リリィちゃん!」と呼ばれて愛されている。
「おはよう、リリィ!」
「あら〜、ケイカさん! おはようございます! 今日はなにになさいますか〜?」
「ふっ、指名は君ですね……!!」
「なにを言ってるんですか。頭でも打ちました?」
お客さん用の丁寧な敬語から、私用の雑な丁寧語になるリリィちゃん……!! 好き!!
「あら? ……今日は連れている子が少ないような……どうしたんですの?」
「あっ、気づきました? そうです。今日はシズクまでしか連れていないんですよ。そして、本当にリリィとこっとんのことを指名したいんです。写真撮影に協力してほしくてですね……」
「ああ、ホウオウ様から出されているお題……ですね? でも今日のお題って……」
へえ、運営からのお題ってNPCにもちゃんとそんな感じで認識されてるんだ。知っているのなら、話が早い。
「そう、お題は『勇気あるもの』です。私は、このお題で二人を撮りたいと思って来たんです」
リリィは、目をまんまるくして驚き、そして眉をハの字にして困った表情をした。自信のなさそうな、悲しい表情だ。
「わたしは、相応しくありませんわ」
「いいえ、リリィ。聞いてください。私にとって、一番勇気がある人というのは、あなたとこっとんのことなんです。他の人の評価なんて今は関係ありません。私にとって『勇気あるもの』を撮るお題なんですから」
リリィとこっとんは、今や『臆病』ながらに先手を取ってやられる前にやれ戦法をとるほど強くなっている。それは以前の蛇楽戦のときに見たから、確実なことだ。
しかし、蛇楽戦でその強さを見たから彼女達を選んでいるわけではない。
アカツキ、オボロ、シズク。
この三匹で彼女に対して捕まえてやろうと挑んだとき、あのときから私にとって二人は特別だ。
わざと攻撃を仕掛けて、こっとんが彼女の前に立って私の攻撃から庇おうとした行動。リリィが現れたとき、私を庇おうと前に立ったアカツキとまったく同じことをしたこっとんの勇気。
そして、自分がやってしまったことの過ちに気づき、こっとんの想いに気づき、罪を償ってからも二人で協力しながら歩み続けるその姿。
臆病だからこそ、なにかに立ち向かうときにその姿は勇ましく、まさしく『勇気あるもの』に見えるのだ。
臆病さをバネにしているからこそ、彼女達は強い。
「私の友達は、とっても勇気ある人です。私はそう思っています。私がそう思っているのだから、お題写真にあなた達を選ぶんです」
「…………ずいぶんと傲慢な殺し文句ですわぁ〜」
困ったように、彼女は首を傾げた。
確かに傲慢だね。私がそう決めたからそうなんだよ! 君達の意見はかんけいない! と言っているようなものだからね。そりゃそうだ。
でも、どこかリリィは嬉しそうだ。
「受けていただけますか?」
「……喜んで」
次の瞬間、静かだった店内は爆発的な大歓声に包まれた。
今日来ていたお客さんはみんな、彼女のイベント内容を知っていたのだろう。だからこそのお祝いの歓声だった。
「あ、あらあら……」
リリィはみんなの歓声を聞いて照れたのか、頬に両手を当てて俯いてしまう。そんなところも可愛らしいので、ますます歓声や「おめでとう」の言葉が響き渡るわけだが……うん、みんな面白がってるな???
優しい世界好き。
そして、ときおり聞こえる「さっきのは告白では?」「百合が咲いた……」「キマシタワー!」みたいな声に、私のほうもだんだんと恥ずかしくなって来て、両手で顔を覆う。
照れてリリィとお揃いの格好になった私の頭をシズクが宥めるように撫でて、オボロが下から顔を覗き込んでくる。やめて見ないで……。
それから、アカツキとこっとんはお互いに顔を合わせてなにごとかをうんうんと頷きあっていたのであった……。
このあと、あのときの再現写真を撮るためにリリィの前にこっとんが立ち塞がり、オボロに乗ってアカツキとシズクとともに走り出そうとする私の写真を撮影したのだった。
何度かブレッブレになって撮り直したのは内緒の話である。
ポ◯モンのダ◯デのリ◯ードンが実は性格おくびょうらしいという話を聞いて、臆病だからこそパートナーのために勇気を出したとき、とってもカッコいいんだなあ……と思ったことがあります。
臆病な勇気ってかっこいいよね。
感想・いいねなど本当にありがとうございます!
最近は遅れに遅れて本当に申し訳ない限りです……いつも更新をお待ちくださり、ありがとうございます(´;ω;`)これからも頑張ります!




