直す気は一応あるんだ……?
「いつまでも語らっていたいものだが、私にも、お前にも行くべき道がある。そろそろ仕舞いにしようか」
「うん、そうだね。名残惜しいけど……」
そう言って一人と一羽が離れる。
一人はこちら側へ。一羽は、再び孤独な指導者としてこの場に残り続ける。
しかしながら、一羽は孤独でありながらたくさんの人々に囲まれている。
私だって、ホウオウさんのことは好きだ。寂しくはさせない。一人きりの孤独な時間は、安らぎもするが度を越すと疲れてしまうものだろう。たまに話し相手になって、気を紛らわせてあげられたらいい。いや、そうしよう。そう決めた。
約束したからね。
自分の代わりに見ててあげてって。
「アインよ、もう二度と会うことのないように願っている」
「うん、そうだね。きっとそのほうがいい」
別れの言葉は、ひどく簡潔だった。
「……僕がいないってことは、この街が平和であり続けているってことだからね」
「ああ」
言葉が少ないのが、逆に信頼してるんだなあって分かって好き。
あとで動画見返そう。
「それじゃあ、行こうか。ケイカちゃん」
「はい! もう、アインさんったら涙出てますよ?」
「え!?」
「冗談です」
「ケイカちゃん!!!」
フェイントで涙が云々と言ってみたら見事に引っかかってくれて、私超嬉しい。
慌てて目元に手を伸ばした彼は、私の冗談だと分かるとぽこぽこと怒っているエフェクトっぽいものを出しながら、迅速にニワトリの被り物で顔を隠してしまった。
でも、そういう反応するってことは泣きたくなってたんですね分かります。可愛い。
「ふっふっふっ……共存者ケイカよ、揶揄うのもそれくらいで勘弁してやってくれ。そやつは子供のように一回ヘソを曲げると厄介なのだ」
「ちょっと!!」
パートナーから子供だと思われてて草。
ホウオウさん、長年の育児お疲れ様でした。これからは肩の力を抜いてプレイヤーの相手をしてくださいね。
……たまに問題児がいるかもしれないけど。
よく考えたらこのサーバーが平和なだけでPKありのほうの街の神獣はすごく大変なのでは? ケイカは訝しんだ。……だと脳内で新たな疑問が出たが、私がそちらのサーバーに行くことはないので、その実態を知ることもないだろう。
そうして、最後まで綺麗な締めにはならず私達はホウオウの間を後にした。
閑話休題。
「今日このあとはどうしましょうか? 屋敷に戻ります?」
城を出てからいったん止まり、アインさんに尋ねた。
ちなみに、先ほどの彼らの写真は今日のお題写真として提出するつもりである。
今日のお題はなんと『友情のツーショット』だ。多くの人が己のパートナーとハート型を作って自撮りするなどのことをする中、私だけがアインさんとホウオウさんのツーショットを出したらかなり異色で目を惹くこと間違いなしだろう!
若干打算的な部分もあったが、彼の晴れやかな表情を見ても背中を押して会わせてあげてよかったなと感じる。
「んー、ハロウィンの悪魔を探索してから帰ろうか。今確か六人目だし……あと五人だね」
二週間続くハロウィンの中でも現在六日目。すぐに彼の正体を見破って、そのうえでホウオウさんと会わせるなどのことをしたが、実はまだ折り返し地点である。
とは言っても、リアルで二週間なので彼と過ごすのは実質二ヶ月だ。そろそろ出会って間もないあれも見たいこれも見たいって部分は薄れてきたし……これがルームシェアであればほぼ停滞期に入ったと言えよう。早いな? まあいいけど。
私も11月下旬には期末テストがあるから、ちょっとは勉強に時間を割かないといけないし……これからはハロウィンの悪魔の捕獲とお題写真を一枚撮ったらとりあえずオッケーって感じにしていこうかな?
嫌だよねぇ、期末テスト。
そのあとクリスマスくらいからようやく冬休みに入るから、そのあとはまたじっくり遊べるだろうか。
「分かりました、それじゃあ街の巡回をしつつ帰りましょう。そうだ、じゃあその間にいろいろとお話聞かせてくださいよ!」
街に向かって歩き出す。
そしてすぐに真逆の方向へ踏み出した彼の片足をプラちゃんが巻き取って転ばせ、オボロが受け止めるとかいう連携が行われた。
うちの子達もこの人の迷子にすっかり慣れちゃったね……。
アカツキが「うわ、まただよ……」みたいな視線で彼を見ているが、アインさんは気にした風もなく「転んじゃった〜。ごめんね!」とか言っている。転んじゃったんじゃないよ。転ばせたんだよ。だってあなた、そうでもしないと全力で迷子になるでしょ。
ジンなんかはもう、彼の迷子癖については慣れすぎてノータッチである。
……これ、もっとひどかったってホウオウさんが言ってたよね。マジでどうしたらもっとひどかったのを改善することができたんだ。
神獣郷オンラインの七不思議に認定してもいいんじゃなかろうか。
今度掲示板で神獣郷の七不思議についてスレ立てでもしてみようかなあ。
「えっと話だっけ? いいよ、なんでも訊いてね〜」
「アインさんの迷子を直す方法」
「それは僕も知りたい」
「アッハイ」
直す気は一応あるんだ……? 意外すぎる。
と、それは冗談として。
「前にリリィのお店でお客さんがみんな笑顔だから大丈夫〜みたいなこと言ってたじゃないですか、昔はその……変なお店とか結構あったんです?」
「あったねぇ〜。お店でご飯食べるとき、金銭じゃなくて聖獣の毛とか爪とか、ひどいときはツノとか毛皮の一部を持っていくようなところがあったりしたんだよ」
「うわ……」
「しかも、そういうお店って一見しただけじゃ分からないようになってたり、お客さんの弱みを握ってそういうことを実行してくるから明るみになりづらくて……規則もまだ整ってなかったから、物理的に潰したりするしかなくてね〜」
「ん?」
物理……だと!?
「良心とかに訴えてもダメな人はダメだし……事故を装って夜にこっそりね。のちのちちゃんと共存派のみんなで移民してできたのがアルカンシエルの街なんだけど、その前はそもそも帝国の支配下だったから正当に声をあげても処罰が待ってたんだよねぇ」
「ほう……」
あれ、めっちゃ世界観の考察に必要な答えがポンポン出てきているのでは???
これは……考察班の掲示板に投げねば。
また阿鼻叫喚になるだろうけど、考察班という名のクランには頑張ってもらわないとね。
私は情報を集めるだけ集めて無償で放出するのがお仕事である。配信者だもの。ただし、長いこと配信をやっていたおかげでちゃんと動画の収益は出るようになっている。
「なんとかして太陽の神獣に会いに行くために、暗闇の中で旅をしないといけなかったんだよね。いやー、ランプがないとなにも見えないから大変だったなあ。そういう意味ではホウオウにもお世話になったよ」
悲報: ホウオウさんランプ扱い。
「へえ〜」
そんな感じで話をしながら街を巡回した私達は、1人のハロウィンの悪魔を締め落として捕獲し、帰還したのだった。
休みの今日中になるべく書き溜め頑張ります……!
元々はさくさく進めて軽めの章にしようと思ってたのにどうしてこうなった!!決定戦か!!決定戦なのか!!
あと各話の「いいね」ありがとうございます!!
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そして、感想を書いてくださる皆様もありがとうございます!!
なんか馬のほうの仕事が忙しくなっちゃって若干あわあわしてますが、しばらくしたらおさまるはずです。
それまで更新などが前後して不安にさせてしまうかもしれません。申し訳ありませんが、ご了承くださいませ!




