絵画と瓜二つの人
しばし抱きしめ合う一人と一羽を眺めながらティーカップに口をつける。
いつもは味覚制限によって薄い紅茶が、妙に甘ったるいような気がした。
「クゥ」
「どうしたの? アカツキ、くすぐったいですよ」
そんな私の膝の上にアカツキが乗り、お腹のあたりをクチバシを開閉させてくすぐってくる。珍しく露骨に甘えに来ているらしい。そんな彼を見て今度はジンが、テーブルの上に乗って来てカップを持っていない、テーブルの上に添えている手にじゃれはじめた。
ああして再会を喜んで、お互いに話し合っているアインさん達を見てみんな甘えたくなっちゃったのかもしれない。
オボロも私の足元にさらに寄って、ぴったりと体をくっつけて足を鼻先でツンツンしている。そしてそのまわりにぐるっと体を巻いて、プラちゃんが羽織の裾のほうを噛んでぶらさがっているためぐいっと体が傾く。
すーぐ近くの人達に影響されちゃうんだからまったく〜。気持ちは分かるけどね!
やたらと甘く感じる紅茶のカップを置いて、左手の指先でジンを。右手の指先でアカツキの頭をちょいちょいとくすぐって撫でる。
「友よ、かつての最高の友人よ。本当なら最期までお供をしたかったが、もはやそれは叶わん」
「うん、分かってるよ。ただ僕は悪い子達をあの世に連れ戻す協力をするためだけに来たんだから。本当はここに寄るつもりもなかったよ、だって心残りになっちゃいそうだし。君達のことが大好きだから」
「……」
……口の中が甘い気がする。
リア充案件でなくともこういうことってあるんだなあ、なんて雰囲気ぶち壊しなことを考えながら、流れていくコメントと広告のお礼をテロップとしてあげていく。
大丈夫大丈夫、アニメを見ながらお礼の言葉を打ったり三つ四つのマルチタスクができて当たり前だからね。当然授業中だって似たようなことをする。先生オススメの英語リスニング用の動画見せられながら、聞き取ったことを全部書き写してついでに翻訳も書き込んで正解不正解を後で答え合わせする……とか。
「ああ、私はすでにお前とともには行けない立場にある。私には役目がある。お前に与えられた……役目がな。もう、私の命はお前一人の独占できるものではなくなってしまったのだ」
「分かっているよ、そうなるようにお願いしたのは僕だから。僕は十分にみんなに愛してもらえた。だから、今度は君がいろんな人に愛されるように。僕と道連れになっちゃうなんて、もったいないほどの子だから」
聖獣、神獣の寿命は長い。しかし共存者と契約をすると、その寿命は共存者と一蓮托生になる。その設定は、多分私達プレイヤーが起きなくなる……ログインしなくなると、そのパートナー達も起きることがなくなり、結果生きることなく、起きることのないプレイヤーに殉じて眠り続けているように見えるという状態になることからきているのだろう。
プレイヤーが飽きてこの世界を去れば、そのパートナー達の役目も終わる。そこからきている特殊な設定だが、こうしてNPCによって活用されているのを見ると、なんかいいな。
ちゃんと、機械的な設定部分がメタではなく世界観に溶け込んで存在している自然なものに見える。オタクってやつはメタっぽく見えて実はメタじゃない、そういうものが好きなのだ。少なくとも私は好きである。
ストーリーにいいなあと感情移入しつつ、設定まわりのことも考えて感心する。
悪役がいればその所業に怒りを覚えて感情移入しまくりながらも、でもこういう悪役がいるこそ素晴らしいゲームになってるから好きだよみたいな、一見矛盾しているようで共存する感情を有する。
オタクってやつはそういう器用なことができる『スキル』を持った人の集まりだと思っている。たまにそうじゃない人もいるけど。
つまりなにが言いたいかと言うと……。
「尊い」
コメントで『本音漏れてますよ』とか『ちっちゃいつぶやきなのにクソデカテロップ出ててクソデカ感情なのバレバレで草』とか言われてて、ようやく口から言葉が漏れていたことに気付いたが、それはそれ。アインさん達が気づいていないようなのでオールオッケーです。
そっと確かめ合うように人の手と、差し出された大きな翼が触れ合い徐々にその距離が縮まる。抱きしめあった異種の友達同士は、別れを惜しむようにつかの間の再会を全力で堪能していた。
同じ道を歩み、そして別れ、再び死後、奇跡のように巡り合う。
そういうの好きだよ。
「いつまでも覚えている、我が友よ。私が私である限り」
「これからも、みんなのことをどうかよろしく頼むよ」
「ああ」
指先でファインダーを作り、カシャリとその光景を写真におさめる。
美しい神殿のような城の中で、小さな人間と大きな鳥が抱きしめあう光景。
その背景には、ニコリと笑うアインさんの似顔絵だろうものが額縁でかかっている。いつもは気にもしない、フレーバーとしか思っていなかったその絵画。
ああ、こんなものあったんだなあ……と、今日ここに来てはじめて気がついたのだ。
「それから、ケイカちゃん達」
「はい」
抱きしめあっていた一人と一羽が名残惜しそうに離れ、そのうちの一人がこちらを向く。
「この子が疲れていそうだったら、そのときは羽を休ませてあげてほしい。君なりのやりかたでいいから」
「分かりました、任せてください!」
両目の目元にほくろがあるという少し変わった特徴の、優しくてあたたかい笑顔の男性。
絵画と瓜二つの人。
なんだ、はじめから私はアインさんのことを知っていたようだ。気づいていなかっただけで。
だって、ここにこうして初代共存者としての絵姿があったのだから。
寝落ちばっかりしてて申し訳ない!!




