表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【漫画単行本4巻発売中】神獣郷オンライン!〜『器用値極振り』で聖獣と共に『不殺』で優しい魅せプレイを『配信』します!〜  作者: 時雨オオカミ
ハロウィンイベント!『仮装した街の不思議な道案内』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

703/854

お疲れ様、ありがとう

「話を聞く限り、どうやらはじめは会うつもりがなかったようだ。そして、ただ会いに来ただけ……というわけでもなさそうだ。アインよ、本当の用件はなんだ」

「……」


 バツが悪そうな顔をしたアインさんは、一拍おいてホウオウさんへ話し始めた。


「その……えーっとね、街を、見たんだ」

「ほう」


 その言葉は要領を得ないものだったけれど、彼が答えを言うまでに必要な過程だと気づいたのか、ホウオウさんは相槌をうつ。


「僕が、最後まで完成を見ることができなかった街が、どんな風になったのか……見て回って、いろいろと考えたことがあった」

「そうか、街を……」


 うーんシリアスな雰囲気。

 私は一歩、二歩と彼らの視界から外れるように動き、その場にティーセットをテーブルごと取り出して広げる。


「クァ!?」

「あいてっ」


 完全に傍観する姿勢に入った私に、アカツキは呆れて一回頭をどついて来たがそれ以降はテーブルに腰を落ち着けて長めの尾を垂らして休憩する。私も同時に椅子に座り、一人と一羽の話し合いを見守る。


 オボロとジンは寝転がり、お互いに身を寄せ合ってくつろいでいるし、プラちゃんは「え、いいの?」という顔をしながらとぐろを巻いた。


 いいんだよ、NPC同士の話し合いという名のイベント中、古いゲームなんかでは立ちっぱなしで主人公置いてけぼりみたいな描写があったりするが、今ではその間でも行動が可能だったり、他にも無理矢理会話に割り込んで参加することだって選ぶことができるものだ。


 私は二人の会話を聞きたいので割り込んだりはしないが、それはそれとして立ったまま置いてけぼりは辛いのでせめて座って待つくらい許されるだろうとこんな行動をしているわけだ。


 文字通りの高みの見物ってやつである。

 一人と一羽に怒られないからこそやっていることだ。


 あ、一瞬アインさんがこっちを見てぎょっとした。

 どうぞ話を続けてくださいという意味で手を振ると、彼はそっと視界から私達を外してホウオウさんに向き直る。


 ちなみにホウオウさんに関しては、共存者の奇天烈な行動なんて見慣れてしまっているのか、私達の行動についてはノータッチである。慣れってすごいなあ〜。


「……街では、いろんな人が自分のパートナーと一緒に楽しく過ごしている姿が見られたよ。優しくて、あたたかい街だと思った」

「ああ」

「僕が、かつて目指していたものがここにはあったよ。かつて目指して……見届けられなかったものがあった」

「……そうだな」


 神獣の寿命は長い。

 ホウオウともなれば、数千年もの間を生きる……という設定が存在する。

 しかし、人間とパートナーとして契約をしていれば、神獣だとしても例外なく人間の寿命にその命が左右される。


 あのフレーバーテキストの中で、アインさんはわざわざ自分と神獣達との契約を切っていた。その理由がこれだ。契約をしたままであれば、この場にいる『みんなのホウオウさん』は存在せず、アインさんの寿命とともに彼は亡くなっていたということになる。


 そうしなかったのは、アインさんが作ろうとしていた人間と獣が共存する理想の街をホウオウさんが引き継いで作り上げるためだった。


 ……というのが、あのフレーバーテキストの内容である。


 そのことを詰まりながらも伝えていく彼に、ホウオウさんはなにを言いたいのか少しだけ察したようで、瞳を潤ませて話を聞いている。


「よく頑張ったね」


 笑顔で告げられる言葉に、とうとうホウオウさんの瞳から涙が流れていった。


 君……きっと、ホウオウさんの名前を言いたかったのだろうけど、私達がいるからか名前は伏せられている。本当に徹底して名前を明かさず伏せているなあ……と思うが、その人だけが知っている独占的なニックネームって概念は尊いのでオッケーだと思います。


「アインよ、今だけで良いのだが、ひとつ悪態をついても良いだろうか?」


 震える声で静かにホウオウさんが言って、アインさんは困ったように笑いながら「悪態かあ……どんなことを言われるのか、ちょっと怖いけどいいよ」と返事する。


 果たしてホウオウさんからアインさんへの悪態とは? 

 見守っていると、ホウオウさんは頭を下げて彼の懐にクチバシを埋め、目を閉じた。


「なぜ、私を置いて逝ってしまわれたのですか」


 そして、ホウオウさんが言った言葉にアインさんは目を白黒とさせる。


「なぜ、反対をさせてくださらなかったのですか」

「……君」

「か弱い癖に、いつもお前は私よりも強いふりをして先を行く。ふざけないでいただきたい」


 それは悪態というよりは、生前彼に言いたかった本音のようだった。


「いかないでってお願い、聞いてあげられなくてごめんね。僕の夢を叶えてくれてありがとう。お疲れ様、ありがとう。これからもどうか……みんなをよろしくね」


 言えたじゃないか、ちゃんと。

 それは、彼への労いではなくて呪いのような言葉になっているかもしれない。


 でも、きっと一番ホウオウさんが望んでいた言葉だった。

次の更新は2月1日夜です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です! うん、シリアスな横でめっちゃくつろいでるケイカさんはとりあえず平常運転として… ……うん、めっちゃ頑張ったんだろうなぁ…良くも悪くも特徴的な人多いし共存者…(ケイカさん補…
[良い点] はぁ〜尊い( ´ཫ` )ハロウィン編ももう終わりか。寂しいな。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ