シリアルからシリアスへの感情ジェットコースター
「アインよ」
わーわー、ぎゃーぎゃーと私達が言い争っているとき、ふとホウオウさんが呟いたのでそちらに視線を向ける。
そこには、ひどく穏やかな表情をした一羽の大きな鳥がいた。
元から穏やかなお顔ではあったが、ますます慈愛のこもったような視線に、思わずアインさんも私に文句を言おうとしていた口を閉じる。
どちらともなく視線を交わし合い、揃って『私達』のパートナー達のほうへ向き直る。あんなに真面目な声かけをされてしまっては、さすがに一時休戦せざるを得ない。
「どうしたの?」
「私の名を、お前は呼ばない。それはなぜだ?」
先ほどまでアカツキ達に『どんぐりの背比べ』だのなんだのと教えていた、その悪戯げな雰囲気はもう霧散している。
ただ、まっすぐと……彼はアインさんを視線で射抜いていた。
確かに、アインさんは全然ホウオウさんの名前を呼んでいない。
私自身もホウオウサンのニックネームは地味に気になっていたのだが、彼があんまりにも言わないからてっきり言ってはいけない決まりでもあるのかと思っていたけれど……そんなことがないのであれば、なぜ名前を呼んであげないのかは気になるな。
ホウオウさんはアインさんに呼びかけつつも、その表情は少し不安げなものに変化してしまっている。
自分の名前を忘れてしまったのではないか? もしくは、呼ぶ価値もないのか? 呼びたくない理由があるのか? と、疑問に思っている……いや、そうなんじゃないかと不安に思っているのだろう。
「君の名前は僕を案内するためのお供になったでしょ? 人に聞かれちゃったら、僕だけの案内人じゃなくなってしまうよ。誰も知らないからこそ、僕だけの特別なんだから」
「……」
ホウオウさんの瞳が揺れる。
じわりと浮かび上がってきた綺麗な涙が一粒、その羽毛をつたって落ちていった。
僕だけのものだからなんて、独占欲の塊みたいなことを言い出したアインさんは、その反応には苦笑いで応えた。
しかし、なんという殺し文句だろうか。親しくなった私にさえ、名前を知られたくない。それは自分だけが知っていればいいとか言うなんて……愛だなって感じ。
二人の世界に入りそうだったからか、ホウオウさん側からアカツキとジンを背に乗せたオボロとプラちゃんがこちらへと移動してくる。
「……忘れた言い訳を述べているわけではあるまいな?」
しかし、次の瞬間ホウオウさんが言い放った言葉に、オボロが盛大にずっこけた。ついでに上に乗っていたジンがべしょっと床に沈む。猫なのに着地失敗してる!?
いつもならジンも綺麗に着地していたはずだけど……もしかしてさっきまで寝てたりした? いや、起きてたよね? なんだろう、眠いのかなあ……。
「ジン、大丈夫ですか?」
「んなぁんなぁ……」
床に沈んだまま返事をしてくる姿は、とてもではないが猫には見えない。そういう若干のんびりしところも好きだけどね!
「ガァ!!」
一方、アカツキは投げ出されてもくるくると空中で回転をして着地を成功させ、翼を広げてドヤ顔を決めていた。うん、十点満点!! 拍手をしてあげると、ますます頭を逸らしてドヤ顔を強調した。
見てくださいよこの子。いつも私の保護者面してるけど、意外と調子に乗りやすい可愛い性格でもあるんですよ。二粒も三粒も美味しいすごい子です。親バカだって? 最高のパートナーだもの、私が全肯定botになるのも仕方ないと思うんだ。
「やだなあ、そんなわけないよ。あとでこっそり耳うちでもしてあげようか?」
「遠慮願う」
「え〜」
不満そうな顔をしていらっしゃる。
ま、多分本当は疑ってなんかいないってことだろう。なんだろう、この痴話喧嘩を見せつけられている感。両方男だし種族も違うけど。
「まったく、ただ言い争うためだけにここへ来たわけではないのだろう」
「あー、その通りだね」
「そうですねぇ」
おっしゃる通りです。なにをやってるんだ私達は。
翼で顔を覆ったホウオウさんは、もう一度まっすぐとアインさんを見つめてため息を吐いた。
「話を聞く限り、どうやらはじめは会うつもりがなかったようだ。そして、ただ会いに来ただけ……というわけでもなさそうだ。アインよ、本当の用件はなんだ」
「……」
あのあの、シリアルからシリアスへの感情ジェットコースターやめてもらってもいいですか?
あと、アインさんはいい加減に恥ずかしがって話を逸らすのをやめなさい。他人に対してはコミュ力高い癖に、身内に対してはなかなか本題を言い出さないの、若干リアリティあるからやめてほしい。
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今回はリリィの悪事を暴き問い詰めて攻撃をするフリ……からのこっとんがリリィを庇うまでの話ですね。猫を被ったリリィの演技くさい笑顔と、本音を吐露しているときの悔しそうな泣き顔のギャップがですね、とても……とてもいいんですよ。
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